認知症の人に見られる易怒性ってどういう意味?

認知症

認知症の人は、よく「性格が変わった」などと言われることがあります。認知症は脳機能障害ですから、精神的な部分にも影響を及ぼすことがあるのですが、そのうちの1つに易怒性というものがあります。

易怒性とはどんな意味なのか、なぜ認知症で易怒性が出るのか、そしてどのようなケアをすべきなのか。正しく知って適切なケアを行い、本人はもちろん家族や周囲の人の負担も減らしていきましょう。

易怒性ってどういう意味?

易怒性とは、イライラしやすい状態や怒りっぽい状態のことを指します。イライラや怒りとは、通常、環境や状況・物事が自分の思い通りにならないときに心に生じる不快感のことを表します。例えば、夏の暑い日に、冷房が故障したエレベーターの中に地震などで何時間も閉じ込められた場合、誰でもイライラや不快感を感じます。

このようなイライラや怒りの感じ方には個人差がありますが、とくにイライラしやすく怒りっぽい人は、いつもなんとなく気分が落ち着かない状態を抱えているため、周囲のちょっとした言葉や音に過敏に反応してしまいます。そして、不機嫌そうな声や乱暴な口調で返事をしたり、相手を無視する、怒鳴りつけるなどの行動に出てしまうのです。

イライラしやすい、怒りっぽい人は、たいていもともと何らかのストレスを抱えていて、そのストレスをなかなか解消できない、しかも自分がそのようなストレスを抱えなければならない理由に納得できない、といったことが原因で不快感を抱えていることが多いです。いわゆる引きこもりの人がイライラしやすいのもこのようなことが原因だと考えられています。

イライラや怒りの感じ方には個人差があるものの、明らかに大多数の人はイライラしないようなささいなことをきっかけして周囲に対して不機嫌になったり、乱暴な態度で反応してしまいやすいことを「易刺激性」、とくにその反応が怒りとして撒き散らされるようなら「易怒性」と呼んでいます。

易刺激性や易怒性は、ほとんどすべての精神障害で見られます。とくに、認知症・脳血管障害・脳腫瘍などの脳器質性精神障害(脳の組織に何らかの異常が生じ、精神障害が引き起こされる)においては、脳の組織が障害されたことで急に易怒性が現れることがあり、突然性格が変わってしまったように感じることがあります。

また、統合失調症では幻覚や妄想から易怒性が高まったり、躁うつ病の躁状態ではとくに易刺激性が目立ち、本人の言うことに少しでも反論すると突然怒り出したりすることがあります。また、まれにうつ状態に対して治療薬として投与された抗うつ薬の作用によって、易刺激性が生じることもあります。

他にも、強迫性障害で思い通りに手洗いなどの強迫行為ができないとき、解離性障害で穏やかな人格から攻撃的な人格に入れ替わったとき、摂食障害で体重増加や過食嘔吐が止まらないときなどに見られます。対人関係に困難が生じやすいパーソナリティ障害、精神遅滞などでも見られることがあります。女性の場合、月経前症候群によってイライラが生じることもあります。

さらに、アルコール・薬物依存症においては、これらの物質の効果が切れてきたとき、覚せい剤などの神経を興奮させる作用のある薬物を摂取したときなどに、易刺激性が強くなることもあります。

認知症の人に易怒性が見られるようになるのはなぜ?

前章でも軽く触れましたが、認知症の人も脳機能障害によって引き起こされる精神障害の一種として、易刺激性・易怒性の症状が見られることがあります。もの忘れ外来など、認知症の専門外来でも家族や周囲の人から非常によく相談されることの一つで、認知症の行動・心理症状(周辺症状)の一つとされています。

このような易刺激性・易怒性の症状が見られるのは、認知症の人がストレスを抱えやすい状態にあることも理由の1つです。認知症を発症し、日常生活に支障をきたすほど記憶障害など認知機能が低下してくると「今までできていたのにできなくなった」「また失敗してしまった」と落ち込んだり、不安やいらだちを感じたりしてしまいます。

そんなとき、周囲から「また忘れてる」「できないの?」などと言われたりすると、ただでさえ自信をなくして不安やいらだちでいっぱいになっている認知症の人は、混乱して言われた相手にその不安やいらだちをぶつけるように怒ってしまいます。家族や周囲の人は、怒るのも認知症の症状の1つであることを知り、強い口調だけに反応して怒り返すのは避け、不安やいらだちに寄り添うような介護ができると良いでしょう。

また、認知症のタイプによっても、以下のように怒る理由が変わってきます。

アルツハイマー型
  • もの忘れが特徴的なため、これを指摘されると自尊心が大きく傷つけられる
  • どこにものを置いたか忘れてしまい、誰かに盗られたと思い込んで怒る(もの盗られ妄想)
レビー小体型
  • 幻視が特徴的で、実際にはいない怖い動物や泥棒などが見えてしまう
  • 恐怖から逃れるため、あるいは追い払うために暴言や暴力を使うことがある
前頭側頭型
  • 同じ行動を繰り返す「常同行動」が特徴的で、自分がしたい行動を止められることが大きなストレスとなるため、暴言や暴力が出ることがある

このように、同じ易刺激性・易怒性と言っても、認知症のタイプによって、その人によって怒る理由はさまざまです。その人自身が何にストレスを感じ、いらだちや不安を感じているのかよく知ることが大切です。介護者が寄り添う気持ちで対応するようにすると、暴言や暴力も減ることが多いようです。

しかし、家族や介護者の対応だけではどうしようもない場合もあります。興奮しきってしまったとき、いつもの表情と明らかに変わっているとき(せん妄などの状態)には、何を言っても怒りや暴言・暴力につながってしまうことがあります。このようなときには介護者の身の安全のため、本人と距離を置き、すぐに医療機関やプロの介護スタッフ、地域包括支援センターなどに連絡しましょう

医療機関や介護施設などでは、薬物によってこうした強い症状を鎮めたり、認知症病棟で入院治療を行ったりして、再び本人が穏やかな日常生活に戻れるようなサポートを行ってもらえます。

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易怒性には、どうやって対処すればいい?

ここまでお話してきたように、認知症の人の易怒性には、どのようなときに症状が出るか、その原因となりやすいのは何かを普段から把握しておくことが大切です。しかし、最初に症状が出てしまった場合、または対応に気をつけていても症状が出てしまった場合は、まず以下のようなすぐにできるケアを行いましょう。

  • 穏やかな声でわかりやすく話しかけ、気分を鎮める
  • 診療や介助を行う場合、わかりやすく穏やかに説明をする
  • 怒りの対象から他のことに気分を向けられるよう、誘導する
  • 怒りがおさまるまで待ち、心理的な距離を無理に近づけようとしない

もし、幻覚や妄想が見えているようなら、「そんなものはいませんよ」などと本人の見ているものを否定するような説得は避け、「あの人(もの)はもうすぐいなくなりますよ」「わたしが対応してきますね」などと共感を示すとともに、「それよりお茶でも飲みませんか」などと、他に注意を向けてもらうようにしましょう。

また、不安や不快感を感じているようなら、以下の2点を検討してみましょう。

安心できる環境かどうか
  • 部屋の温度や湿度、照明の明るさ、音は適切か
  • 本人の好きな音楽や遊び、ケアなどを使ってみる
  • 安心できる人との面会を試みる
強い不安や抑うつ状態があると考えられる場合
  • 安心感を与えるよう、穏やかでわかりやすい接し方をする
  • むやみに激励しない
  • 診察を行い、身体的な不安を軽減する
  • 好きな音楽やケアをする、安心できる人と面会してもらうなど、本人がゆっくりと安心できるよう環境調整をする

このようなケアを行っても、どうしても易怒性がおさまらない場合や、暴言や暴力によって介護者に危険が及ぶようであれば、医療機関での薬物療法に移行することも検討し、まずは専門医などに相談してみましょう。

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おわりに:易怒性は脳機能障害によるもの。不安や不快感に寄り添う介護を

易怒性は、決して単に本人の性格が変わったということではなく、認知症の原因である脳機能障害によるものです。また、今までできていたことができなくなり、本人もいらだちや不安を感じて易怒性につながりやすくなっているのです。

ですから、怒りに反応するのではなく、その根底にある不安や不快感を取り除けるよう、本人の気持ちに寄り添う介護を心がけましょう。ただし、暴力がひどい場合には医療機関に相談することも大切です。

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