アルツハイマー型認知症は、認知症の中でも過半数を占めるほど非常に多くの人がかかる可能性のある認知症です。しかし、認知症を発症しやすい65歳以上の高齢者では、加齢による認知機能の低下もあり、認知症の症状なのかどうかの判断がつきにくいこともあります。
そこで、アルツハイマー型認知症の症状を初期・中期・末期に分け、どのような症状が出るのかご紹介します。それぞれの時期の症状を知り、早期発見につなげましょう。
アルツハイマー型認知症の症状の進み方とは?
アルツハイマー型認知症は、はっきりとした症状が出る前から病変が少しずつ進み、ようやく発症と診断できるほどの症状が出た場合でも、やはり基本的にゆっくりと進行していきます。ですから、すぐに重篤な状態になるわけではありませんが、症状が年単位でゆっくりと進行していくことから、認知症だと気づくのが遅れ、治療の開始も遅くなってしまうこともよくあります。
アルツハイマー型認知症は、現在の医学では根本的に治療する方法がなく、進行した状態を健常に近い状態に戻すことはできません。しかし、症状の進行を遅らせる薬はありますので、早期に発見し、治療を始めることがもっとも重要なのです。そこで、まずはアルツハイマー型認知症の症状を初期・中期・末期に分けて見ていきましょう。
初期のアルツハイマー型認知症の症状は?
初期のアルツハイマー型認知症は、日常生活に支障をきたすことが少ないため、加齢による認知機能の低下なのか、認知症による認知機能の低下なのかが判断できないことも少なくありません。そのため、認知症だと気づかれるのが遅くなってしまいがちなのもこの時期です。
よく見られるもの忘れは主に「出来事記憶」に関するもので、最近の自分の行動や、起こったことなどが思い出せなくなります。しかし一方で、昔の記憶や車の運転など「手続き記憶」と呼ばれる記憶はあまり失われないため、日常生活にほとんど支障が生じないのです。また、体の状態や人格にもほとんど異常や変化がなく、対人関係にも影響がない場合が多いです。
具体的な症状としては、以下のようなものが見られます。
- 銀行振込や家計の管理など、複雑なことができなくなる
- 直前にしたことや起こった出来事などを思い出せなくなる
- 同じことを何度も聞き返すようになる
- 日常生活において、作業に時間がかかるようになる
- 判断力が少し低下する
中期のアルツハイマー型認知症の症状は?
中期のアルツハイマー型認知症では、初期に起こっていた最近の行動や出来事に関する記憶だけでなく、発症以前の過去のことも思い出せなくなる「逆行性健忘」が見られるようになります。また、図形の模写ができない「構成障害」や、簡単な算数もできなくなる「計算障害」などもよく見られるようになります。
認知症の定義にも含まれる「失語・失行・失認」や、高次脳機能障害などの症状も加わるため、この頃になると日常生活に支障をきたし、介助が必要になってきます。外出しても家に帰れなくなったり、徘徊や夜間せん妄などの症状が出ることもあります。また、性格や人格にも変化が現れ、周囲に無頓着になったり、突然不機嫌になるなどの症状が見られることもあります。
具体的な症状としては、以下のようなものが見られます。
- 記憶障害が悪化し、錯乱することがある
- 適切な言葉や必要な言葉が出てこなくなる
- 新しく出会う物事に対応できなくなる
- 今までできていた家事や買い物などができなくなる
- 季節や状況に合わせた衣服を選べなくなる
- 幻覚や妄想などの精神症状や徘徊などの症状が見られる
- 暴力や万引など、衝動的で攻撃的な行動を起こすことがある
- 性格や人格が急に変わってしまったように感じる
末期のアルツハイマー型認知症の症状は?
アルツハイマー型認知症が末期まで進行すると、家族のこともわからなくなるほど健忘が進み、身体的にも失禁や筋固縮(体が強くこわばる)などの症状が現れるようになります。小刻みな歩行や前傾姿勢など、運動障害も見られるようになるため、徐々に寝たきり(失外套症候群)へと進行していきます。
具体的な症状としては、以下のようなものが見られます。
- コミュニケーション能力が低下し、意思疎通ができなくなる
- 身体能力が著しく低下し、小刻みな歩行や前傾姿勢になる
- 体重が急激に減少する
- 食事中にむせてしまい、物を飲み込みづらくなる
- 尿や便の失禁が起こる
- 寝たきりになってしまう
できるだけ、末期以前の初期や中期に気づいて症状を食い止め、症状を遅らせながらアルツハイマー型認知症と上手く付き合って年齢を重ねていけるのが理想的と言えるでしょう。そのためには、本人や家族ができるだけ早い段階で認知症かもしれないと疑いを持ち、早めに医療機関を受診することが重要です。
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いつまで介護を続けることになるの?
認知症の介護は、一般的に中期ごろから始まり、平均6〜7年続くと言われています。前述の通り、アルツハイマー型認知症は症状を遅らせることはできても完治させることができないため、介護が始まるとそこからずっと続いてしまうのです。認知症の人はどんなに一生懸命介護しても症状のせいで忘れてしまうため、「ありがとう」「助かったよ」などと感謝の言葉をかけられないことも多く、長期間にわたって介護が続くとどうしても介護者の負担が大きくなっていってしまいます。
家族としては少しでも長生きしてほしい、という気持ちから介護に取り組んでいても、投薬などで症状がある程度落ち着いていたとしても、長期間介護が続くとストレスも疲労も溜まっていきますから「いつまでこの介護が続くのだろう」と思ってしまうのは自然なことであり、仕方のないことなのです。
もちろん「あまり長期間の介護になるようなら、自宅での介護はできない」と考えることもまた、当たり前のことと言えます。平均6〜7年とはいえ、6人に1人は10年以上の人もいて、介護する側は非常に長期戦になると覚悟して準備をしなくてはならないからです。
ですから、介護する家族や周囲の人は、孤立して一人でストレスや疲労を溜め続けてしまわないようにすることが大切です。介護の負担を一人で背負い込まないよう、関係者で少しずつ分業することはもちろん、友人に愚痴を聞いてもらったり、労ってもらったりするのが良いでしょう。また、デイサービスなどの介護サービスも上手に利用しながら、息抜きの時間を意識的に作り、自らリフレッシュを心がけましょう。
また、全国各地の認知症介護経験者による「認知症の人と家族の会」では、電話相談を受けつけていたり、定期的に集まりを開催したりしています。最近では、認知症カフェなど、介護家族が交流する場も増えています。こうした行政・医療・介護サービス・経験者・地域などを積極的に頼ったり、助けを求めたりしていきましょう。
「どうしても自宅で看なければ」と思い詰めてしまうと、介護をしている家族の方が疲れきって体調や精神を崩してしまいます。それぞれの家族の事情もありますので、自宅で看るのが難しいと思われる場合は、施設への入居も検討してみましょう。
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おわりに:アルツハイマー型認知症は初期・中期で早期発見し、治療を始めよう
アルツハイマー型だけでなく、すべての認知症は現在の医学では完治させることができません。しかし、アルツハイマー型認知症は症状の進行を遅らせる薬がありますので、早期の発見・治療開始が大切です。
認知症の介護は平均6〜7年とされていますが、個人差も大きいです。そのため、介護者が介護疲れにならないよう、分担やリフレッシュしていきましょう。また、自宅で看るのが難しい場合は施設への入居も検討してみましょう。
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