アルツハイマー型認知症に運動障害は現れるの?

認知症

アルツハイマー型認知症は、高齢者に発症する認知症のうち、半数以上を占める非常に患者数が多い、よく知られた認知症です。アルツハイマー型認知症の症状といえば、何度も同じことを聞いたりものの置き場所を忘れてしまう「もの忘れ」が特徴的ですが、運動機能に障害は出るのでしょうか?また、症状が出るとすれば、それはいつ頃からなのでしょうか?

運動障害ってなんのこと?

運動障害とは、何らかの要因によって運動が上手く行えないことを指し、「運動麻痺」と「運動失調」の2種類に分けられます。運動麻痺は筋肉やそれに指令を送る脳・神経に何らかの障害が起きて、自分の意志で筋肉を動かせなくなること、運動失調は運動に関わる筋肉の動きを調整する機能が失われ、スムーズに運動を行うことができなくなった状態のことを言います。

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

運動麻痺ってどんな状態?

運動麻痺は、脳の大脳皮質(運動の指令を送る)から脊髄、末梢神経など、筋肉に至るまでの神経回路のどこかに障害が生じ、脳の命令が筋肉に辿り着かないことで起こります。そのため、原因となる疾患は脳出血・脳梗塞などの脳血管障害や、脳腫瘍などによる神経回路の圧迫などが考えられます。

また、ダメージを受けて障害が生じた箇所によって、麻痺が現れる部位も異なります。例えば、交通事故や転落などの外傷によって脊髄を損傷した場合、損傷した脊髄の位置によって以下のように麻痺の範囲が決まります。

頚椎捻挫:上部頸髄の損傷
全身麻痺(四肢麻痺)
腰髄より下の損傷
下肢の麻痺(下肢麻痺または単麻痺)
末梢神経の切断
切断された神経から連なる筋肉に麻痺が生じる(単麻痺)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患では、運動の指令を送る脳の部分(ニューロン)が少しずつ変性していくため、それに応じて次第に麻痺が進行していきます。重症筋無力症の場合、神経筋の接合部で筋肉に命令を伝える「アセチルコリン」という神経伝達物質に対する抗体ができ、脳からの指令を妨害してしまうため、筋肉に指令が伝わらず、麻痺が起こります。

麻痺にはタイプの違いがあるの?

また、これらの麻痺は場所によって筋肉の緊張のタイプが異なり、それによって分類することもできます。麻痺した筋肉を動かそうとしても全く抵抗が起こらない「弛緩性麻痺」は、脊髄や末梢神経、筋肉の障害によって起こります。もう1つの、麻痺した筋肉を急に伸ばそうとすると抵抗(痙縮)が起こる「痙性麻痺」は、脳にある錐体外路という神経系の障害によって起こります。

筋肉は、脊髄での反射によって、引っ張られると自動的に収縮し、適度な緊張を保てるようになっています。この反射は「伸張性反射」と呼ばれ、過剰に起こらないよう、「錐体外路系」という神経系によって調節されています。脊髄より上の脳が障害される場合、錐体路という直接指令を伝える神経だけでなく、錐体外路も障害されることが多いのです。

錐体外路の機能が失われる代表的な疾患にはパーキンソン病などがありますが、このように筋肉を調節する機能が失われると、運動と感覚を統合や協調できなくなり、痙性麻痺が起こってしまうのです。

これに対し、より下位の脊髄や末梢神経、筋肉などに障害が起こった場合、伸張性反射そのものが障害されてしまうため、脳から指令が来ても収縮が起こらなくなり、弛緩性麻痺が生じるということです。主に運動麻痺のうち、錐体外路を障害されなかった場合に起こると考えられます。

運動失調ってどんな状態?

運動失調とは、随意運動(動かそうとして動かす運動)がスムーズに行えなくなってしまった状態のことを言います。随意運動をスムーズに行うためには、視覚・並行神経など、体の感覚神経から送られてくる情報と、筋肉を動かすという指令がうまく統合され、運動に関わるいくつもの筋肉が協調して動かなくてはなりません。

例えば、何かをつかもうとしたとき、対象物にすっと手を伸ばし、それをつかみます。このとき、目から対象物までの距離や手の位置に関する情報が脳に伝わり、適切に筋肉が動くよう脳から腕や手・指の筋肉に指令が出され、ちょうど対象物の位置で伸ばした手が止まり、さらに対象物をつかむようそれぞれの筋肉が協調して動くのです。

これらの一連の感覚や指令の統合・協調に必要なのが小脳と錐体外路という脳の部位・神経回路です。これらは感覚器からの情報を受け、それに基づいて脊髄の運動ニューロンの興奮を調節し、運動と感覚の統合・協調を行います。ですから、小脳や錐体外路が障害を受けると、「やり方はわかっているし、麻痺もないのにうまくできない」という状態になってしまいます

小脳の機能が障害されると、もっとも顕著に運動失調の症状が現れます。原因としては、小脳の出血・梗塞・外傷・腫瘍のほか、脊髄小脳変性症などが挙げられます。錐体外路の障害としては前述のパーキンソン病が挙げられ、中脳の黒質と呼ばれる部分の神経細胞が減少し、この細胞が作る「ドーパミン」が減少することがわかっています。

運動失調には、以下のような特徴的な症状が現れます。

測定障害:小脳
距離感をつかめず、ものをつかもうとしても行き過ぎたり手前をつかんだりしてしまう
運動分解:小脳
2つの運動を一連の動作として行えず、1つの運動をして、もう1つの運動をするというように分解されてしまう
体幹失調:小脳
何か支えがないと、眼を開けていても絶えず体の軸が揺れてしまう
ロンベルグ徴候:深部感覚
眼を開けていれば立っていられるが、眼を閉じると倒れてしまう

また、運動のやり方そのものを忘れてしまう場合は失調ではなく「失行」と言います。これは運動を学習・記憶することに関係する、より高次の機能をつかさどる「連合野」という部分が障害されることで起こります。

アルツハイマーの運動障害の出方は?

アルツハイマー型認知症は、ごく初めは軽いもの忘れから始まります。昔のことはよく覚えているのに最近のことは忘れてしまうため、同じことを何度も聞き返したり、財布や眼鏡などよく使うものをどこに置いたか忘れてしまったりします。日付がわからなくなったり、慣れた場所で道に迷ったりという症状が見られることもあります。この段階ではまだ体に異常は見られません

さらに症状が進むと、記憶障害が進行し、昔のことも思い出せなくなってきます。また、認知症の定義になっている失語・失行・失認、高次脳機能障害などの症状が現れてきます。この頃には、認知機能障害によって日常生活に介助が必要になってきますし、徘徊やせん妄が見られることもありますが、運動機能に大きな障害は見られません

後期になると、家族のこともわからなくなり、言葉の理解や発語ができなくなったりします。この頃になると、歩行障害などをはじめとする運動障害が現れ、最終的には寝たきりの状態まで進行することもあります。

このように、アルツハイマー型認知症は初期〜中期では運動機能に大きな障害は見られません。しかし、だからこそ徘徊やせん妄などが危険だとも言えます。介護者にも大きな負担となりますので、このような行動が問題となる場合は、医療機関や介護サービスなど専門家の手も借りていきましょう。

おわりに:アルツハイマー型認知症の運動障害は、後期まで現れない

アルツハイマー型認知症は、もの忘れや日付・場所がわからなくなるなどが特徴的な認知症です。中期になると日常生活に支障をきたすほどのもの忘れや認知機能障害が現れてきますが、中期ごろまでは身体的に大きな障害はなく、運動障害もほとんど現れません。

後期になると、失禁などの身体症状が現れ始め、歩行障害などをはじめとする運動障害も生じてきます。最終的には、寝たきりの状態まで進行することもあります。

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