認知症は、すべてのことがわからなくなってしまう症状だと思われがちですが、正確に言うと「最近のことはわからなくなるのに、子どものころのことや昔のことはよく覚えている」ことが多いです。
それだけに、認知症の人とコミュニケーションを取るのは難しいと言われます。
では、認知症の人と接するときには、どんなポイントに注意すれば良いのでしょうか?また、実際に困った症状が出るときには、どう接したら良いのでしょうか?
認知症の人と接するときのポイントは?
認知症の人と接するときは、以下の5つのポイントについて配慮しましょう。
- 本人のペースに合わせる
- 認知症の人は、ペースを乱されるとパニックに陥ることがある
- 言葉や態度で急かしたり慌てさせず、ゆっくりと本人のペースでコミュニケーションをとる
- 話しかけるときは本人の正面から近づき、視野に入ってから声をかけて驚かさないようにする
- わかりやすい言葉で、簡潔に伝える
- 認知症の人は、一度に多くの話をすると理解できず混乱してしまう
- 「〇〇しましょうか」などと、短く1つずつ具体的に伝えるようにする
- 「次はこうですよね」などと言葉や行動を先取りせず、気長に待つ
- 言動そのものではなく、気持ちに寄り添う
- 徘徊や妄想などの症状がある場合、言動そのものではなく気持ちに寄り添うようにする
- 言動の意味はわからなくても、本人なりの理由がある
- 言動そのものの意味ではなく、それをした理由に焦点を当て、理解を示す
- 「その人らしさ」を大切に
- 「わからない、できないこと」ではなく、「わかること、できること」に目を向ける
- ときどき、好きなことや得意なことをやってもらい、自信につなげる
- 人格を否定するような命令口調や叱責は避け、嫌な表情を見せないよう注意する
- スキンシップをはかる
- 認知症の人は、不安や疎外感を感じやすいため、冷たい態度には敏感
- 「自分はあなたの味方ですよ」という気持ちを込め、手や肩にやさしく触れる
- 威圧感を与えないため、目線を同じ高さにする
認知症の人は、健康な人からするとなにもわからない、どうせ忘れてしまうと思ってしまいがちですが、確かに最近のことは忘れてしまっても、古い記憶は残っていることが多いです。
そのため、感情ももちろん豊かに生きています。認知症を発症すると、本人も不安や混乱・焦燥感などのストレスを抱えてしまいがちですから、疎外感を与えたり自尊心を傷つけたりしないようにしましょう。
徘徊や被害妄想があるときの接し方は?
認知症の症状の中でも大きな問題の1つが徘徊です。家族や周囲の人が気づかない間に外に出て行ってしまうことも多く、家族にとっては非常に悩ましい問題です。
しかし、徘徊には、ほとんどの場合において「その人なりの目的や理由」があります。
不用意に責めたり無理に止めようとしたりしてしまうと、かえって逆効果になってしまうことも多いため、まずは共感しながら話をよく聴いてみましょう。
また、外へ出たら後ろからついていき、本人が歩き疲れた頃に「帰りましょうか」と声をかけてみると素直に帰ってくれることもあります。
念のために徘徊感知機器やGPSつきの発信機などを設置しておくとともに、近所の人や近くの交番にも協力を仰いでおくと、いざというときにも安心です。
被害妄想はいわゆる「もの盗られ妄想」というもので、お財布などの持ち物をなくしたとき、誰かに盗まれたと考えてしまうことです。
まずは、否定せず本人の訴えをよく聴き、話に合わせましょう。そして、「一緒に探してみましょう」「調べてみますね」などと対応します。
また、ケアをする人が高齢者から学ぶ姿勢を見せるなどして普段から対等で良好な関係を築けていると、本人の心理的な負担が軽くなり、被害妄想が改善することもあります。
否定しないことが大切!
認知症の人は、記憶力が低下しても、羞恥心やプライドは変わらず残っていると言われています。
ですから、その点をよく理解した上でコミュニケーションを図りましょう。まずは上記でも説明してきたように、本人の言動に対してむやみに否定したり叱ったりせず、受け入れる姿勢を示しましょう。
例えば、認知症の人が既に成人した子どもに対して「今日のテストの点数はどうだった?」などと聞くことがあります。
これに対し、「もう大人だから小学校は数十年前に卒業したよ」などと否定的に答えてしまうと、本人は理解できずに混乱してしまいます。
ですから「算数はよくできたよ。国語はちょっと漢字を間違えたかな」などと、本人と調子を合わせて会話してみましょう。
認知症がそれほど進行していない場合、訂正すると本人が間違いを認知できることもあるので、つい元の状態に戻ってほしくてご本人の認知を否定し、訂正してしまうご家族は多いです。
その気持ちはある意味当然のことなのですが、認知機能が進んで同じことを何回も繰り返し聞くようになってきた状態で訂正しても、本人にはわからずただ混乱してしまうだけなのです。
また、これは行動に対しても同じです。
例えば、洋服を便器の中に詰め込もうとしている高齢者がいたとき、常識で考えれば「汚い」「何がしたいのかわからない」などと思ってしまいますが、このように叱っても本人は理解できず、ただ叱られて嫌だったという記憶だけが残ってしまいます。
なかなか難しいことではありますが、「洋服を洗濯しようとしてくれたのね、ありがとう」など、本人の気持ちを汲むように声をかけてあげましょう。
とはいえ、コンロの火をつけたまま忘れてしまう、横断歩道のない道路を渡ろうとしてしまうなど、安全上大きな問題があるという場合はむやみに褒めたり肯定したりしてしまうのは危険です。
こうした行動がある場合は、きちんと注意をするとともに、専門家に相談するなどしてしっかり対策を行いましょう。
おわりに:認知症の人とのコミュニケーションの基本は「否定しない、叱らない」
認知症を発症した人でも、感情や昔の記憶は十分生きています。
つまり、叱られれば嫌だと感じますし、否定されると不安になります。認知症の人は健康な人からすると理解出来ない言動をしてしまうことが多いため、ついつい否定や訂正してしまいがちですが、これは逆効果になりやすいのです。
まずは、否定せず話を聞き、理解する姿勢を示しましょう。ただし、火元や道路など危険性が高い場合は、きちんと対策を取る必要があります。
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