朝起きて身支度をする、というのは、ほとんどの日本人にとって当たり前のこととして身についていることでしょう。しかし、高齢になって身体能力や機能が衰えてきたり、疾患などによって体が思うように動かなくなったりすると、この身支度という動作が億劫になってしまいがちです。
そこで重要視されるのが、モーニングケアです。朝の身支度を中心としたこのケアについて、詳しく見ていきましょう。
モーニングケアには、どんな目的がある?
モーニングケアとは、高齢者が朝、起きてから朝食を食べるまでの間に行われる一連のケアのことを指します。「おはようございます」という挨拶の声かけからスタートし、着替え・洗顔・歯磨き・トイレ誘導などのケアを行います。適切なモーニングケアが行われると、高齢者は気持ちよく一日のスタートを切ることができ、朝食も美味しく食べられるなど、その日の生活の質を高められます。
モーニングケアは、主に以下の3つの目的をもって行われます。
- 快適感・爽快感
- 洗顔・歯磨き・着替えなどをケアする
- 寝ている間の汚れを落とし、気持ちの良い刺激で意識をはっきりさせられる
- 寝間着から普段着へ着替えることで1日の始まりを認識し、脳と体が目覚める
- 活動性アップ
- 個人差はあるものの、朝が苦手である、寝起きが悪いと感じる人は多い
- 起きたばかりの体と脳は完全に覚醒しておらず、代謝も下がっていて活動性が低い
- 挨拶で目覚め、カーテンを開けて陽の光を浴び、換気をして新鮮な空気を吸って徐々に脳や体を起こしていく
- ベッドから出てトイレ・洗顔・歯磨き・着替えと順に行っていくにつれ、活動性もアップしていく
- 朝食に向かうころにははっきりと目が覚めて、美味しく朝食を食べられる
- 生活・健康の改善
- モーニングケアが適切に行われると、活動するための力が高まり、日中の活動性も上がる
- 活動性が上がると日常生活の中で動く機会が増え、日常生活動作を能力や身の回りのことを行う能力もアップする
- リハビリに積極的に取り組むこともでき、身体機能を維持・改善することにつながる
- 人とのコミュニケーションも増え、脳が活性化し認知症予防につながる
- 昼間の活動量が増えることで一日が充実し、充実感によってストレスの軽減が期待でき、うつなどの精神疾患を発症するリスクが下がる
- 消化器官も活発に活動できるため、食事から十分に必要な栄養素を取り込むことができ、健康増進や風邪などからの回復も促される
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モーニングケアの実際の内容は?
実際に行われているモーニングケアを順にご紹介すると、以下のようになります。
- 朝の挨拶
- 「おはようございます」という挨拶で起床を促す
- 採光
- ブラインドやカーテンを開けたり、室内灯の調整をしたりする
- ※太陽の光は人間の体内時計をリセットする働きがあるとされ、目覚めてすぐ太陽光に当たることは心身の健康につながる
- 起居動作の介助
- 環境整備
- ベッドメイキング、ベッド周辺の整理、ゴミ捨て、花の水換えなど
- 清拭
- 手や顔の清拭、洗顔や手洗い・手浴、場合によって全身清拭やシャワー浴など
- 口腔ケア
- 歯磨き・うがい・口腔清拭・義歯のケアなど
- 整髪・結髪
- 寝ている間に乱れた髪を整える
- 整容(ひげ剃り・化粧水・メイクなど)
- 清潔を保つだけでなく、生活へのモチベーションを上げたり、身体状況に良い効果も期待できたりする
- とくにメイクには力を入れている介護施設もあるなど、身だしなみに自身が持てると活発に日常を送ることができる
- 着替え
- 寝間着から普段着へ着替える
- 排泄ケア
- トイレ誘導・尿失禁に対するケア・おむつ交換・カテーテルケア・ストーマケアなど
- 水分の準備・摂取
- バイタルサイン測定
- 血圧や脈、体温を計測する
- 朝食の準備・介助
- 朝食の席に誘導し、朝食を食べてもらう
- その他のケア
- 朝刊を届けたり、室温を調節したり、チューブ類を交換したりなど、個々に応じたケア(医療ケアを含む)を行う
このようにモーニングケアとして列記すると、たくさんの項目があるのがわかります。元気なうちはとくに意識することもなく、当たり前のように朝の身支度として行っているものですが、介護が必要な状態になるとこれらの煩雑な作業をあれこれと手伝ってもらわねばならないことから、一人ひとりに必要なケアを全て提供することは、介護士や看護師といったプロであっても非常に大変なことです。
モーニングケアは、その日一日の生活の質を左右すると言っても過言ではない重要なケアなのですが、医療・介護の現場においてはこれまで非常に軽視されてきたところがあります。もちろん、上記のようにモーニングケアは内容が煩雑であり、朝の看護師・介護士は多忙なことから、なかなかモーニングケアまで手が回らず、急を要する検査や処置が優先されてきたという仕方のない部分が大きいのは言うまでもありません。
しかし、忙しいところではおしぼりと水が一杯提供されるだけ、もっと簡素化されると起きると同時におしぼりでサッと顔を拭かれ、すぐに朝食、というケースもあると言われています。このように体も脳も目覚めていない状態のままでは、朝食を健康的にとることはおろか、誤嚥のリスクを高めることにもつながってしまいます。
このようにモーニングケアが軽視されてしまう背景には、看護師・介護士向けのテキストの中にモーニングケアという用語が使われておらず、環境整備や衛生面としての洗面介助に含まれてしまっていることも挙げられます。モーニングケアに関する教育がそもそも施されていなければ、スタッフ自身も重要性を認識できていないのも当然と言えるでしょう。
モーニングケアを簡素化・画一化された流れ作業としないためにも、今後は看護師・介護士を育成するテキストの中でもモーニングケアの重要性をきちんと周知するとともに、しっかりとした教育を行っていくことが重要です。
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おわりに:モーニングケアは、その日一日の生活の質を高める重要なケア
モーニングケアは、ただ朝目覚めて顔や口腔を清潔に保ち、朝食をとる、というだけのものではなく、寝ている間に乱れた髪を整えたり、ひげ剃りやメイクをしたり、といった整容にまで及びます。
身だしなみを整えることで、自信を取り戻し活発な日常を送れるようになる効果も期待できます。意欲的に生活できればその日一日の生活の質もぐっと高まり、充実した日常を送ることができる、という好循環を生み出せるでしょう。
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