介護の現場で話題のタクティール®ケアってどんなセラピー?

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介護の現場では、利用者さんの身体機能を維持するため、精神的な安定をはかるため、さまざまなケア方法が編み出され、活用されています。タクティール®ケアは中でも精神的な安定を目的としていて、比較的最近考案されたケア方法です。

そんなタクティール®ケアとはどんなセラピーなのか、どのように行うのか、事例と実際の手技を中心にご紹介します。

タクティール®ケアとは?

タクティール®ケアは福祉大国であるスウェーデン発祥のタッチケアで、1960年代に未熟児のケアを担当していた看護師によって考案されました。語源はラテン語の「タクティリス(Taktilis)=触れる」で、未熟児に毎日タッチケアを行っていたところ、乳児の体温が安定し、体重の増加が見られたという経験に基づいたものです。

人間には、もともと「優しく触れられたい」という願望があります。前述のタッチケアは、乳児の背中や手足に優しく触れることで、乳児が体温を感じて安心感を得、母親からの愛情を受けたのと同様の効果をもたらしたと考えられます。この願望が満たされることは、乳児だけでなく大人や高齢者にも「精神的不安を解消する」「痛覚を抑え、痛みを軽減する」などの効用をもたらします

また、タクティール®ケアは認知症緩和ケアの理念に基づいて使われることもあります。認知症緩和ケア理念とは、1996年にやはりスウェーデンで始まったもので、以下の4点を主軸としてケアを行い、認知症の本人にも家族にも良質なQOL(生活の質)を提供するというものです。

  • 本人を中心とした症状コントロール
  • 認知症の人の家族への支援
  • 互いを尊重するチームワーク
  • 本人が望むコミュニケーション方法によって良い関係を築く

具体的には、以下のような事例があります。

事例1:部屋から出てこない利用者さんへのタクティール®ケア

グループホームに入居したてで自室にこもりがちだった利用者さんに対し、そばに座ってしばらく肩に手を置くという触れ合いを行いました。本人から「温かいね」とその触れ合いを肯定する反応があったので、了解を得てタクティール®ケアを実施しました。

以降、1日に1回のタクティール®ケアを行ううち、この利用者さんは自室からホールを眺めるようになり、やがてスタッフの声かけでにこにこと自室から出てこられるようになりました。この事例では、「本人が望むコミュニケーション方法で良い関係を築く」というポイントに重点を置いたケアを行っています。

事例2:自分の手を認識できない利用者さんへのタクティール®ケア

手に麻痺や障害がないにも関わらず、認知症の症状「失行」によって、自分の手を認識することができず、食事を始められない利用者さんに、食事の前にタクティール®ケアを行いました。すると、この利用者さんは自分の手をじっと眺め、握ったり開いたりを繰り返し、やがて周囲の人と同じように箸を持って食事を始めることができました。

このような事例は「本人を中心とした症状コントロール」の一例です。

事例3:介護に疲れた家族へのタクティール®ケア

夫の介護を自宅で行っている妻へ行ったタクティール®ケアの事例です。介護サービスを利用しながらとはいえ、妻の主介護者としての負担は少なくありません。そのため、妻の疲れた表情に気づいた訪問看護師が、いつも認知症の本人にしているタクティール®ケアを妻にも行いました。すると、すぐにリラックスして少しの間眠ることができ、起きたときには笑顔を取り戻すこともできました。

この場合は、「認知症の人の家族への支援」というポイントからタクティール®ケアを行ったわけです。

タクティール®ケアには、どんな効果がある?

上記の事例でも示されるように、タクティール®ケアは「不安やストレスの解消」のために活用されることが多いですが、他にも「痛みを抑制する」という効果も期待できます。これらの効果は、触れ合いの際にもたらされる「オキシトシン」というホルモンの働きだということがわかってきています。

オキシトシンは俗に「幸せホルモン」などと呼ばれ、タクティール®ケアで皮膚に触れると脳の視床下部から血液中へと分泌されます。血中に放出されたオキシトシンはやがて体内に広がり、不安やストレスを和らげてくれます

オキシトシンによって不安やストレスが軽減され、心地よさや安心感を感じることによって、脊髄にある「痛みを脳に伝えるゲート」が閉じると言われています。このゲートは不安や悲しみを感じていると開くため痛みを感じやすくなりますが、気分が良いときや安心しているときは閉じているため痛みを感じにくくなるのです。

さらに、タクティール®ケアは触れ合い(触覚)によってオキシトシンを分泌させるというケア方法です。つまり、タクティール®ケアを受けている人だけでなく、行った人も同じようにオキシトシンが分泌され、癒やされるケアだと言えます。

どうやってやればいいの?

ここでは一例として、もっとも行いやすい背中へのタクティール®ケアをご紹介します。合計でだいたい10分程度の時間を目安とし、始めから終わりまで背中から手が離れないよう注意して行いましょう。

1:両手を利用者さんの肩に置き、ケアを始めることを伝える
  • 「これから始めますね」など、短くわかりやすい言葉で穏やかに伝える
2:両手を肩から滑らせるように背中の中心へと移動させる
  • その後、両手を揃えて中心から外側へと、楕円を描くようにゆっくり触れる
  • 背中の外側まで来たら、1と同じ肩の位置に手を戻す
3:両手を再び、肩から背中の中心へと移動させる
  • 片手ずつ、交互に外に向けて滑らせ、中心に戻す動きを一周する
4:両手を腰の低い位置に当て、その手を中央に寄せる
  • 両手で背骨に沿って肩まで触れ、そのまま背中の外側の輪郭をなぞって戻る
5:4と同様に、腰の低い位置に両手を置く
  • 背骨に沿って首まで、両手でそれぞれ左右に小さな楕円を描きながら上っていく
  • 首まで来たら、両手を肩の上に置く
6:片方の肩に両手を寄せる
  • 両手を一緒に左右に動かしながら、背中の隅々まで触れていく
  • 触れていないところがないよう、隙間を開けないように触れていく
7:両手を首に移動させ、背骨に沿って触れる
  • その後、左右の肩からわき腹に沿って触れる
  • 終わったら、手は腰の低い位置に戻す
8:背中の中心に両手を移動させる
  • 2と同様、両手を揃えて背中の中心から外側へと楕円を描くようにゆっくり触れる
  • 背中の外側まで来たら、両手を肩に戻す
9:肩に手を置いたまま、利用者さんに「ありがとうございました」と伝える
  • 感謝の気持ちを穏やかに伝える

タクティール®ケアは、手が離れないように注意することだけ忘れなければ、手技として難しいものではありません。興味があれば、そして本人の了承が得られれば、ぜひタクティール®ケアを行ってみてください。

おわりに:タクティール®ケアは本人にとっても、施術者にとっても癒やされるケア

タクティール®ケアは、1960年にスウェーデンで考案されました。その後、1996年に認知症緩和ケア理念の柱を得て、認知症の本人にも家族にもQOLを高められるようにと活用されています。

タクティール®ケアは、触れ合いによってオキシトシンを分泌させ、不安やストレス、痛みなどを軽減します。そのため、ケアを受ける人だけでなく、施術している人も触れ合いによってオキシトシンが分泌される、お互いに癒やされるケアだと言えます。

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