高齢者など、自力で薬を飲めない人や薬の管理が難しい人が薬を飲むのをサポートすることを「服薬介助」と言います。在宅介護でも訪問介護でも、高齢者では薬を飲んでいない人の方が少ないですから、この介助は非常に重要です。
そこで、服薬介助を行う上での注意点をまとめました。通常の場合と認知症の場合でも少し気をつけるべきことが異なりますので、ぜひ参考にしてください。
服薬介助って?
高齢になるとかかっている疾患が増え、それに伴って薬の種類も増えてしまいがちです。すると、飲み方も複雑になることが多く、服薬し忘れたり、面倒だからと飲んだふりをしたりする人が出てきます。こうした服薬に関する異常やトラブルをサポートし、きちんと医師に指示されたペースで薬を飲めているか確認するのが「服薬介助」です。
しかし一方で、介護士が服薬介助できないケースも存在します。介護士が服薬介助をしてはならないのは、以下のようなケースに該当する場合です。
- 本人の容態が安定しておらず、入院したり入所したりして治療を行わなくてはならない場合
- 副作用のリスクや投薬量の調整のため、医師や看護師が連続的に容態を経過観察しなくてはならない場合
- 内服薬の誤嚥の可能性、座薬の肛門からの出血の可能性など、専門的な配慮が必要な場合
これらはいずれも、服薬に際して医療行為が必要となる場合です。介護士の業務に医療行為は含まれていないので、介護士は医療行為を行うことはできません。そのため、これらのケースに該当する場合は、看護師などの医療従事者が服薬介助を行います。
厚生労働省の見解では、「軟膏の塗布・湿布の貼付・一包化された内用薬の内服・座薬の挿入・点眼など」といった日常的な範囲の服薬に関しては、原則として医療行為に当たらない、となっています。例えば、内服薬でも誤嚥のリスクがごく少ない人や、肛門周囲に傷などがなく座薬を挿入しても問題ない場合などは、介護士が介助しても構いません。
服薬介助をするときに気をつけることとは?
服薬介助を行うときは、事前にお薬カレンダーなどで服用する薬を分けておき、種類や量を絶対に間違えないようにしましょう。一般的な薬は水以外の飲み物で飲んでも構わないとはされていますが、飲み合わせの悪い薬もありますので、基本的には水または白湯を用意し、薬と一緒に本人に手渡して飲んでもらいます。飲み終えた後も、薬がきちんと飲み込めたかどうかを確認し、飲み忘れや飲まずに隠した薬がないかどうかなどをしっかりチェックしましょう。
服薬介助のポイントとして「飲み物・誤嚥・薬の種類や数・飲み込めたかどうか・飲んだ後の変化」についてチェックする必要があります。それぞれの項目について、少し詳しく見ていきましょう。
服薬介助の飲み物はどうする?
前述のように、薬を飲むときの飲み物は水か白湯がおすすめです。飲みやすさを重視するならぬるま湯が良いのですが、季節に応じて温度を調節しても良いでしょう。
また、どうしても水で飲むのが苦手だという人はお茶でも構いませんが、玉露などのような濃度の濃いお茶は避けます。飲み合わせによっては薬の効果を強めたり、逆に弱めたりして副作用が出てしまうこともありますので、できるだけ水で飲んでもらうようにしましょう。
誤嚥を起こさないかどうか
高齢者は水を飲むだけでも誤嚥を起こしやすいですから、薬を上手に飲めるような工夫をすることも大切です。例えば、そのまま飲んでもらうのではなく、粉末であればゼリー状のオブラートで包んだり、水に溶かしてとろみをつけたりするとむせずに飲み込みやすいです。錠剤でどうしても飲み込みにくい場合、主治医に相談すれば口の中で溶けやすいタイプに変更してもらえることもあります。
薬の種類や数を間違えないよう注意する
服用する薬の種類が多いと、薬によって飲む頻度や回数が違うものもありますので、管理が難しくなってきます。そこで、本人に任せっきりにせず、介助者が薬の種類や数を確認し、本人が正しく服用できるようチェックしておきましょう。
「お薬カレンダー」など、ウォールポケットで日付ごとに分けられるものを使い、その日の分の薬を正しく飲みきれるようにしておくと良いでしょう。自宅で家族の服薬介助をする場合にも、用意しておくと便利なアイテムです。
きちんと飲み込めたかどうかの確認
高齢者の場合、「薬を口に入れること」と、「薬をきちんと飲み込めること」は必ずしもイコールとならないため、飲み込めたかどうかの確認が必須です。とくに麻痺のある人の場合、薬を飲み込むのが難しく、口の中に残ってしまうことがあります。介助したときにこれに気づかず、残ったままになっていると、その後誤嚥してしまうリスクもありますので、必ず飲み込めたかどうかの確認を行いましょう。
また、そもそも飲んでいる最中に誤嚥を起こしてしまうこともありますので、飲み終えるまで目を離さず、本人の様子をよく見ておきましょう。認知症を発症している場合、薬を毒だと疑って飲まないというケースもあります。その場合は、介護施設の別のスタッフや、可能であれば医師や看護師などの第三者に協力してもらい、飲めるようサポートしていきましょう。
薬を飲んだ後の変化を観察する
高齢になるほど、薬の成分に対して反応しやすくなることから、副作用の起こるリスクも高くなってしまいます。それまでずっと飲んでいて異常がなかった薬であっても、体調が悪いときに突然副作用が出ることもありえるのです。そのため、薬を服用した後は、しばらくしても変化がないかどうか様子を見ておき、なんらかの異常など変化が見られた場合には早めに主治医に相談しましょう。
認知症の服薬介助で、とくに気をつけるべきこととは?
認知症の人に服薬介助するときは、通常の服薬介助よりも少し配慮することが多くなります。具体的には、以下のような7つのポイントに気をつけましょう。
- 服薬に納得してもらってから始める
- 病気の治療や体調管理に薬が必要なことを説明し、本人が納得してから介助を行う
- 認知症の人は服薬の必要性を説明しても忘れてしまうことが多いため、繰り返し説明する
- 説明しないと薬が必要なことがわからず、服薬しなくなってしまうことも
- 服薬を本人の生活タイミングに合わせる
- 薬を飲むのを拒否したときに無理やり飲ませても、状況が悪化してしまう可能性がある
- 前もって医師に服薬時間をずらしても良いか確認しておき、服薬できそうなタイミングを狙うのが良い
- 薬を食事に混ぜない
- 食べ物に混ぜてしまうと味が悪くなり、毒を混ぜられたと被害妄想が強まることも
- 食事を食べなくなってしまう可能性もあるため、薬の服用はなるべく単独で行う
- 薬をゼリーやオブラートに包む
- 通常の服薬介助と同様、薬の量や味・形状によってはオブラートやゼリーに包むと飲みやすい
- 介助の方法と確認
- 口腔内に水を含ませたあと、嚥下反射で飲み込んでもらうため、スプーンで舌の上の奥の方へ入れる
- また、薬が口腔内に残っていないかの確認も行う
- 薬の形状が変えられるものは、飲みやすいものに変える
- 唾液や少量の水でも溶ける「口腔内崩壊錠(D錠、OD錠など)」が増えてきている
- 口からの服薬が難しい場合、剤型の変更ができれば貼付薬・座薬などに変更するのも良い
- 服薬を手伝ってもらう
- 介護保険サービスを利用し、訪問看護師や訪問ヘルパーに服薬介助をしてもらったり、デイサービス中に服薬介助を行ってもらったりするのもおすすめ
認知症の人は、とくに自分が飲む薬を忘れたり、どうしてこの薬を飲まなくてはならないのかを忘れたりしやすいです。そこで、服薬介助をする人は毎回のことで大変ですが「あなたにはこういう症状がありますので、治療のためにこの薬を飲んでいきましょう」といった声かけをして、本人に納得してもらってから服薬介助を行う必要があります。
もし、どうしても普段担当している人では薬を飲んでくれない場合、介護保険サービスで訪問看護師などを呼んで説明してもらうなど、第三者を挟むことも効果的です。こうしたサービスを上手に活用しながら、本人が正しく薬を飲めるようサポートしていきましょう。
おわりに:服薬介助では、飲み込めたかどうかきちんと確認しよう
服薬介助とは単に薬を手渡して終わりではなく、本人が管理しきれない服薬スケジュールや服薬の量を確認したり、オブラートやゼリーで包んで飲みやすくしたり、誤嚥や副作用がないか観察したりといった細やかな配慮が必要です。
とくに、飲み込んだつもりでも口の中に残ってしまって後から誤嚥したり、飲んだ後で突然副作用が出たりすることもあります。薬を飲んでいる間は本人から目を離さず、慎重に観察しましょう。
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