どんな年齢の人であっても、外見を整えると気持ちがしゃきっとしたり、頑張ろうという気持ちになったりします。逆に、無精ひげが伸び放題、髪の毛はぼさぼさ、という状態ではどうしても気持ちが沈んだり、投げやりになったりしてしまいがちです。
身体整容とは、すなわち身だしなみを整えることと言って良いでしょう。この記事では、一人で身だしなみを整えるのが大変な高齢者の手助けをする身体整容について、詳しくご紹介します。
身体整容って?どんな目的があるの?
身体整容は、訪問介護のサービスの1つで、ADL(日常生活動作)のうち「洗顔・歯磨き・整髪・爪切り・耳かき・ひげ剃り」などを行い、外見はもちろん、衛生的にも清潔な状態を保てるように手助けを行います。動物が毛づくろいをするように、整容は人間にとって基本的欲求の1つですから、個々の患者さんのニーズに合わせながらケアをしていきましょう。
介護・看護で身体整容を行う場合、以下の3つが主な目的として挙げられます。
- 生活習慣の維持や、生活リズムを確立する
- 疾患や安静度の制限によってこれまでの生活習慣が成り立たなくなり、生活リズムが乱れると、ストレスが強まったり意欲の減退が起こったりする
- このような生活習慣の乱れやリズムの崩れを防ぎ、正すためにもメリハリのある生活リズムは大切
- 皮膚や粘膜の清潔を保つ
- 皮膚や粘膜の清潔を保つことで、新陳代謝を促して生理的機能を維持する
- 外気に触れる部分を清潔にしておくと、感染症の予防にもつながる
- 爽快感を与え、気分転換をはかる
- 整容や清潔保持によって、体とともに気持ちもスッキリし、気分転換になる
- 爽快感が意欲の向上や生活の質(QOL)の向上にもつながる
こうしたケアはリフレッシュ効果が得られるほか、生活のモチベーションを上げるのにもつながります。加齢による身体的な不具合や、精神的なストレスなどでなかなか身だしなみまで手が回りにくい高齢者ですが、身体整容のケアを受けることで「他者に見られている」という意識が芽生え、良い意味での緊張感を保つことができます。
身体整容をするときは、どんなことに気をつければいい?
身体整容は、元気な人であれば毎日当たり前のように行えてしまうことであり、今までずっとできていたことが身体的な問題や加齢による理由によって行えなくなってしまったと自覚することで、本人が自信を失ってしまう可能性もあります。そのため、身体整容の介助はあくまでもサポートであることを意識し、本人にできるだけ自分でやってもらいましょう。自ら身体整容を行うことは自立にもつながり、身体的にも精神的にも向上していく効果が期待できます。
また、身体整容は非常にプライベートな部分を手伝うことから、環境やプライバシーに配慮し、安全にサポートを行える場所が確保できるか、事前に確認しておかなくてはなりません。さらに、効率よくサポートできるよう、あらかじめ必要な物品は用意しておくほか、患者さんの状態に応じて臨機応変に対応できるよう、さまざまな状況をシミュレーションしておくと良いでしょう。
それでは、実際に身体整容のポイントを「洗顔・整髪・口腔ケア・爪切り・耳や鼻のケア・ひげ剃りやメイクのケア」の6つに分けてご紹介していきます。
身体整容その1:洗顔
まず、洗面所で本人が洗顔できる場合は、洗面所で行います。洗顔料やタオルなど必要なものをあらかじめ手元に揃えておき、いつでもサポートできるよう近くで待機しておきましょう。洗面所で顔を洗うという動作は、体を曲げて行わなくてはならないため、普通に立って歩ける人でも不安定になることがありますので、洗面台で体をしっかり支えるか、椅子に座って行うのがおすすめです。
他にも、水道の蛇口を力がいらないレバーハンドル式にしたり、水道栓回し(蛇口をひねりやすくする)を取りつけたりすると、高齢者自身で水を出せますので、自立につながります。使う洗顔料や石鹸は必ずしも洗顔用のものを使う必要はありませんが、本人のお肌の状態に応じて刺激の優しいものを選ぶなどの配慮が必要です。
洗う時は、目元や口元など汚れが溜まりやすい部分をしっかり洗ってもらうことが大切ですが、一方でゴシゴシこすりすぎないよう注意しましょう。また、洗顔料や石鹸の洗い残しがないかどうかよく観察し、きれいに落ちていたらタオルで水分を拭き取ってもらいます。
寝たきりの人にはどうする?
寝たきりの人や体調が悪くて洗面所まで行けないという人には、蒸しタオルで顔を拭いてもらいます。蒸しタオルの作り方は、以下のように電子レンジを使うやり方と使わないやり方の2つがありますので、どちらもできるようにしておきましょう。
- 電子レンジを使う場合
- 水で濡らしたタオルを固くしぼり、電子レンジで使えるビニール袋に入れる
- 500〜600Wで3分程度加熱する
- ※ビニール袋は密閉しないタイプのものを選ぶ
- 電子レンジを使わない場合
- 洗面器に55℃程度のお湯を溜め、タオルを浸す
- 厚手のゴム手袋を使ってタオルを固く絞る
- ※ゴム手袋がないときは、タオルの両端を持ち、中心部だけをお湯につけてそのまま絞るとよい
蒸しタオルによる清拭も、基本的には本人にやってもらいましょう。もし、体調が良くないなどの理由で本人が行えないときだけ、介助を行います。額→目→鼻→頬→顎と上から順に、力を入れすぎないよう、声をかけながら優しく拭きましょう。とくに皮脂が溜まりやすい小鼻や耳、耳の後ろなども忘れずに拭いていきます。
また、目やには目頭から目尻へとそっと拭き取ります。皮膚が柔らかい部分なので、ゴシゴシ擦らないよう気をつけ、目やにが固まって取れにくいときは蒸しタオルをしばらく当てておき、ふやかしてから拭き取るようにしましょう。黄色や緑色っぽい目やにが増えた場合は感染症が疑われますので、眼科の医師に相談してください。
身体整容その2:整髪
整髪とは、髪をブラッシングしたりくしでとかしたりすることです。もし、髪が絡まっている場合は無理に引っ張らず、髪の根元を押さえてお湯や整髪用の水を使い、優しくほぐしていきます。これもできるだけ本人に行ってもらうのがおすすめですので、腕が上がりにくくて髪をとかしづらいという場合は、持ち手が長いくしやヘアブラシ(介護用のものなど)を使うと良いでしょう。
ブラシの選び方は、以下のようなことを目安にするのがおすすめです。
- 長柄ブラシ
- 肘の関節に運動制限があり、手や指が頭部まで上がらない人に
- 太柄ブラシ
- 手指などの筋力が低下していて、柄をしっかりと握れない人に
- 太長柄ブラシ
- 手や指が頭部まで上がらず、筋力も低下していて柄をしっかりと握れない人に
- ホルダーつきブラシ
- 手に固定して使うブラシ。手や指でブラシを握ることができない人に
肩にタオルなどをかけ、鏡を見ながら本人の好みの髪型に仕上げていきます。必要があれば、髪を結うのも良いでしょう。整髪で抜けた髪を見るとショックを受ける人もいますので、抜けた髪の毛はできるだけ本人に見せないよう、すぐ片付けます。さらに、整髪後は鏡を見てもらい、きれいになったことを実感してもらうと本人の気持ちも明るくなり、身だしなみを整えることへのモチベーションも上がりやすいでしょう。
身体整容その3:口腔ケア
口腔内は、歯垢や舌の汚れが残っている部分です。とくに食事がとれない人は唾液による殺菌効果が得られにくいことから口腔内に雑菌が増えやすく、そこからさまざまな疾患を発症することがあります。ですから、口腔ケアは単なるニオイケアではなく、口腔内の清潔を保ち、食欲の増進とともに肺炎などの感染症の予防にもなる大切なケアなのです。
実際に歯を磨くときは、入れ歯や義歯があるかどうか、咳き込みやすいかどうかなど、個々の状態に合わせて行いましょう。歯ブラシを使うと出血してしまう場合や、乾燥がひどい場合には無理に歯ブラシを使わず、綿棒を湿らせたもので口腔内を清潔にしていきます。
また、ブラシと同じように、肘関節が動きにくく手が口元に届かない人には長い柄の歯ブラシを、筋力低下で握りにくい人には太い柄の歯ブラシを用意し、できるだけ自分で歯磨きしてもらうことが大切です。
身体整容その4:爪切り
加齢に伴い、爪は変形したり、厚く固くなったりしています。深爪や出血に十分注意しながら、お風呂上がりで爪が柔らかいときに切ると良いでしょう。入浴が難しい場合は、爪を蒸しタオルで包んで温めると、同じように爪が柔らかくなり、切りやすくなります。切った爪が散らからないよう、手の下にゴミ箱やティッシュを用意して行いましょう。
爪切りもできるだけ本人に行ってもらうのが理想ではありますが、ブラッシングなどと違って刃物を使いますので、手が震えたり切りすぎたりすると出血や深爪のリスクが高くなります。爪を切るのが難しそうな場合は無理に本人に行わせず、介護者が行いましょう。
切る時には、以下のようなポイントに気をつけます。
- 一気に切ろうとせず、少しずつ切っていく
- 足の爪はとくに巻き爪になりやすいため、爪の両角をまっすぐに切る「スクエアカット」にする
- 厚くなった爪や巻き爪を普通の爪切りで処理しにくいときは、対応した介護用の爪切りを使う
- 爪が思ったより伸びていないときは、無理に切らずヤスリで整えるだけでも良い
分厚くなった爪や巻き爪は、介護用の爪切りで切れる範囲は切り、皮膚に食い込んでいたり出血していたり、化膿していたりといった異変がある場合は無理に切らず、皮膚科や外科に相談しましょう。他にも、足にできた魚の目・タコ・水虫などから感染症を引き起こす場合もありますので、爪や足の皮膚の色には十分注意しながら行います。
もし、爪やその周辺の皮膚に化膿や炎症などの異常があった場合は、ヘルパーなどの介護職員は爪切りの介助ができません。また、糖尿病などの疾患に伴う専門的な管理が必要な場合にも、やはり介護職員ではその管理を行えません。これらの異常がある場合は、医師や看護師など、医療職員に処置を行ってもらいましょう。
身体整容その5:耳や鼻のケア
耳や鼻は、いずれも汚れなどが溜まりやすい部分ですが、皮膚が柔らかかったり粘膜だったりとデリケートな部分ですから、十分注意しながら行いましょう。とくに、耳の中に垢が溜まると難聴や耳鳴りなどの原因になりますが、耳の中は傷つきやすく痛みにも敏感ですので、よく見える範囲の垢をしっかり取り、あまり奥まで耳かきや綿棒を入れないように行いましょう。
お風呂上がりには耳垢が湿気を吸って柔らかくなっているため、取り除きやすいです。湿ってベタベタとしたタイプの耳垢は、綿棒を使って絡めるように取り除きましょう。もし、耳の奥に耳垢が詰まっている場合は、耳鼻科を受診して除去してもらいます。
鼻も綿棒でそっと、入口から1cm以内の部分を内回り、外回りの順にゆっくり数回なぞっていきます。耳垢と同じようにお風呂上がりの方がよく取れますので、お風呂上がりに行うと良いでしょう。鼻汁が出る場合はかんでもらい、固まってしまっている場合はお湯やオリーブオイルなどで湿らせた綿棒を使って軽く回しながら静かに取り除きます。鼻毛が伸びている場合は、専用のハサミでカットしましょう。
身体整容その6:ひげ剃りやメイクのケア
男性のひげ剃り、女性のメイクはいわゆる「仕上げのケア」と言っても良いでしょう。いずれもさっぱりと仕上げることで外出しやすくなり、その人本来の社交性や自信を取り戻すことができます。外へ出てさまざまな人と交流する機会が増えれば、認知症の予防効果も期待できるでしょう。また、ひげを剃るのはお肌の状態を良くする意味でも重要です。
ヘルパーを含む介護職員は刃物を使ったケアを行えないため、基本的には安全な電気シェーバーを使ってひげ剃りを行います。できるだけ本人に行ってもらいますが、これも難しい場合は無理をせず介助者が行いましょう。もし、最初などでどうしても安全カミソリしかない場合は、できるところを本人にやってもらい、残りを家族にやってもらうなどします。
剃り終わった後は必要に応じて洗顔や清拭を行い、化粧水やシェービングローションなどを使って保湿します。
女性のメイクの場合、洗顔の後、化粧水や乳液でお肌の調子を整えてから行います。メイクにも好みがありますので、できるだけ本人に鏡を見ながら行ってもらいましょう。もちろん、どうしてもできないところは本人の希望を聞きながら、介助を行って構いません。
また、最近ではネイルカラーを積極的に楽しむ高齢者の方も増えてきて、高齢者を対象とした「福祉ネイル」などのサービスも出てきています。もちろん、爪や皮膚に異常がある場合は負担を考慮して行えませんが、ネイルにもメイクと同じように、自信や社交性を高める効果が期待できますので、本人の希望があればぜひやってみましょう。
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おわりに:身体整容とは、清潔を保つだけでなく自信や社交性を取り戻すケア
身体整容は、口腔や皮膚・粘膜などの清潔を保つという実務的な目的もありますが、生活習慣を維持したり、爽快感を得て気分転換をはかったり、外見を整えて自信や社交性を取り戻すなど、さまざまな目的があります。
とくに、鏡で本人と一緒に確認しながら「キレイになりましたね」「さっぱりしましたね」などと声かけするとより効果的です。女性なら、本人の希望に合わせてメイクやネイルカラーを楽しむのも良いでしょう。
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