ボディメカニクスは、介護など肉体労働の現場を変えると言われている技術です。
今回は、ボディメカニクスがどのように介護に役立つのか、活躍するシーンの具体例や取り入れることのメリットと一緒にわかりやすく解説します。
ボディメカニクスってなんのこと?
人間が体を動かすときの力学的関係に基づき、負担を軽減しつつ、最小限の力で動かすことを目的に考え出された、体の動かし方のことです。
英語の「body=体」と「mechanics=機械」を組み合わせた造語であり、以下の7つの原理を基本として成り立っています。
ボディメカニクス、7つの基本原理
《1》支持基底面積を広くする
体重を支えるための面積=支持基底面積を広くすることで、重さが分散しやすくなり、より安定して体重を支えられるようになります。
具体的には足を左右、または前後に広げることで、支持基底面積を広げることが可能です。
《2》重心の位置を低くする
支持基底面積を広げるとともに重心を低く落とすと、より安定感を持って体重を支えることができ、腰痛予防の効果も期待できるようになります。
《3》重心の移動をスムーズにする
重心を移動させるときは、垂直より水平方向の方が負荷が少なく、楽に行えます。
重い物を運ぶとき、垂直方向に動かして持ち上げるのではなく、できるだけ水平方向にスライドさせるようにすると体への負担が軽くなります。
《4》重心は体に近づける
重心は、その重心を運ぶ本人と密着させた方が、少ない力で安定的に運ぶことができます。
《5》てこの原理をうまく使う
力を支える支点・力を加える力点・力が働く作用点の3点を意識し、てこの原理を利用することで、最小限の力で大きな力で高いパフォーマンスを出せるようになります。
《6》小さくまとめる
同じ重さのものでも、より小さい方が移動をさせやすいと言います。
人間を運ぶときも、大きく手を広げた状態より小さく体を丸めた状態の方が、スムーズに移動を行えるのです。
《7》できるだけ大きな筋肉を使う
重い物を運ぶとき、腕だけでなく背中や腰、足に至るまで、筋肉を全身の広範囲にわたって使うことで、体にかかる負荷を分散させられます。
このように最低限の力で、体に最大限のパフォーマンスを発揮させることを目的に考えられたボディメカニクスは、介護や肉体労働の現場での活用が期待されています。
ボディメカニクスにはどんなメリットがあるの?
介護の現場でボディメカニクスを活用することによる介護者、被介護者へのメリットとしては、以下が挙げられるでしょう。
- 介護者にとってのメリット
- 身体介助がしやすくなるので、介護への肉体的負担が減る
- 介護による、腰痛や筋肉痛、ケガなどの身体的トラブルのリスクが減る
- 被介護者にとってのメリット
- より安定した姿勢や体勢で、身体介助を受けられるようになる
- 介護してくれる人への申し訳なさや不安、心理的負担が軽減される
ボディメカニクスが活躍する状況とは?
ボディメカニクスは、特に以下のように介護現場で非介護者を動かす場合、また自立運動を補助する場合に、非常に役立つと考えられます。
被介護者を動かすとき
立ち上がらせる
座った姿勢から被介護者を立たせるとき、ボディメカニクスに基づき重心の移動を意識すると、スムーズに行えます。
腰を低く落とした状態の介助者の肩に、非介助者の腕をまわして前かがみの姿勢をとってもらい、2人で一緒に立ち上がるようにしましょう。
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体の向きを変える
仰向けに寝ている被介護者の体の向きを変えたいとき、体を小さくしてもらい、てこの原理を利用するとスムーズです。
この方法なら、被介護者が介護者より大柄でも、簡単に体の向きを変えられます。
被介護者を補助するとき
座る
被介護者の座る動作を補助するときは、介護者が支持基底面積を広く取ると、双方の重心が安定してうまくいきます。
まず介護者が足を広げ、被介護者につかまってもらってから、一緒に腰を落とすようにして座らせましょう。
歩く
重心の移動や密着の原理を知っておくと、自力で歩行する介護者の補助も、適切に行いやすくなります。
歩行に伴う本人の体重移動を邪魔せず、かつ何かあったとき体を支えられる斜め後ろのポジションを基本に、被介護者の状況に合った方法で介護を提供してくださいね。
おわりに:ボディメカニクスは、介護者・被介護者双方に役立つ技術
人間の体の構造と力学関係に基づき、可能な限り小さな力で大きなパフォーマンスを上げられるよう考えられた体の動かし方をボディメカニクスと言います。ボディメカニクスの7つの基本原理を知っておくことで、介護現場における身体介助が楽になるばかりか、介護される側の肉体的・心理的負担も軽減できるのです。ボディメカニクスは、知識さえあれば誰でも活用できます。本記事を参考に、ぜひ取り入れてくださいね。
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