グリーフケアとは、直訳すると悲しみのケア、となります。身近な人を亡くすと、人間は多かれ少なかれ、心に深い傷を負ってしまいます。そんなとき、その強い悲しみや傷を癒やすために、グリーフケアを受けると良いとされています。
この記事では、グリーフケアが必要な理由について、また、グリーフケアを受けるべき状態の人や、グリーフケアの方法などをご紹介します。
グリーフケアって、なんのこと?
グリーフ(Grief)とは、英語で「死別などによる深い悲しみ・悲痛」などを表します。身近な人の死別を経験すると、人は大きなショックや深い悲しみに襲われますが、多くの場合、傷ついた心は時間の経過とともに少しずつ癒えていきます。しかし、自分ひとりだけの力で乗り越えようとすると時間がかかったり、辛さに耐えられず乗り越えられなかったりすることもあります。
また、昔はこうした悲しみは、大家族や地域社会の中でたくさんの人とふれあいながら自然に癒やされていったのですが、社会が変化していくに従い、傷ついた心を自分一人で抱え込んでしまう人が増えてきました。深い悲しみを誰かと共有できないと、社会的にも精神的にも孤立してしまいます。
ときには、自殺や犯罪によって死が訪れるなど、ただでさえ辛く苦しい状況に、さらに複雑な問題が重なることもありえます。そんなときに理解者が得られないと、場合によっては一人で乗り越えられず「複雑な悲嘆」と呼ばれる病的な状態に陥ってしまうこともあります。このような状態に陥る前に、本来は適切なサポートが必要なのです。
こうした遺族の心を適切にサポートし、悲しみを乗り越えられるようケアすることをグリーフケア(グリーフサポート)と言います。もちろん、身近な人に限らず、ペットを亡くすなどでも大きな喪失感から心に傷を負って苦しんでいる人もグリーフケアの対象に含まれます。
グリーフケアを受けたほうがいいのは、どんな人?
人間は、生きている以上、病気にかかることもあれば老化することもあり、やがては人生に終わりが来ます。ですから、いずれは「愛別離苦」という、身近な人の死に遭遇することを避けられません。パートナー、子供、両親、兄弟姉妹など、長い間ともに過ごした大切な人を失うと、深い悲しみに襲われ、その悲しみがストレッサーとなり、以下のようなさまざまな不調を引き起こします。
- 精神的な不調
- 悲しみ・感情麻痺・怒り・恐怖にも似た不安・孤独感・寂しさ・やるせなさ
- 亡くなった人への罪悪感・自責の念や、無力感・空虚感などが現れる
- 亡くなった人を思い出し、長く積み重なった思慕の情に襲われる
- 新たな対人関係の中で人と違う気持ちになったり、気後れしたり、疎外感を感じたりする
- 身体的な不調
- 睡眠障害・食欲障害・体力の低下・健康感の低下・疲労感・頭痛・肩こり・めまい
- 動悸・胃腸不調・便秘・下痢・血圧の上昇・白髪の急増・自律神経失調症・体重減少
- 免疫機能低下などの身体の違和感・全身の疲労感
- 日常生活や行動の不調
- 集中力が低下し、混乱や動揺する、何かを探すような行動を繰り返してしまう
- ぼんやりする、涙があふれてくる、「なぜ」「どうしよう」などの際限ない問いかけが生まれてきてうつ状態になり、引きこもる
- 落ち着きがなくなる、逆に動き回って仕事をしようとする、故人の所有物やゆかりのものを一時的に避けるが、時間が経つと逆に愛おしむようになる
こうした症状は、どれか一つだけが現れることは少なく、混在しながら時間や場所を選ばずに現
れます。しかも、きっかけがあれば何年か後でも再発することがあります。グリーフというのはそれだけ根の深い事柄なのです。
グリーフケアは、単なる気分的な落ち込みと区別がつきにくい部分もありますが、症状が出ているのに放置したままにしてしまうと、やがてはうつ病・PTSD(外傷性ストレス障害)・不安障害などの精神的な疾患を引き起こしてしまう可能性もあります。ですから、これらの症状に心当たりがあれば、適切なグリーフケアを受けましょう。
グリーフケアは、どうやってすればいいの?
グリーフからの回復過程では、「ショック期→喪失期→閉じこもり期→再生期」というプロセスを辿ります。このとき、「落ち込んでいてはいけない」「悲しんでいてはいけない」と感情を抑圧すると、かえって回復が遅くなります。
そこで、グリーフケアでは自らの正直な感情を抑圧することなく、むしろ自分の感情をきちんと自覚することで、徐々に大切な人の死を受け入れて乗り越え、再び積極的に他者や社会と関わって活動できるようにサポートしていく必要があります。そのため、グリーフケアの過程は「グリーフワーク」「モーニングワーク」などと呼ばれることもあります。
とはいえ、その過程は一朝一夕には進まず、朝は回復傾向だったのに、1日の終わりには再び深い悲しみの状態に戻ってしまう、などということもよくあります。グリーフケアを行う際には、このように回復と後退を何度も繰り返しながら、徐々に前へ進んでいくものだということを理解し、少しずつ元の状態へ戻れるようサポートしていくことが重要です。
グリーフケアには、以下のような方法があります。
- 悲しみを肯定する
- グリーフケアを行うときの重要なポイント
- 日本人はとりわけ自己表現が苦手で、悲しみを感じても人目を気にして抑え込んでしまいやすい
- まず、「いま悲しいと感じていることは自然で、なにも恥ずかしいことではない」と自分の感情を肯定することが大切
- 語り合い、思いを吐き出す
- 故人との思い出を語り合ったり、故人にあてた手紙を書いたりすると効果的とされる
- 自分の気持ちを表面に出すのが苦手なら、写真や遺品など故人を連想しやすいものを手元に置いて行うとスムーズに表現しやすい
- 身内や知り合いに直接思いを吐き出すのが難しい場合、同じような境遇の人が集まって思いを話す会に参加するのも有効
- お互いの気持ちを理解しやすいからこそ、素直に気持ちを話して悲しみを乗り越えやすいとされる
- お別れの儀式を行う
- 葬儀やお別れ会など、故人とのお別れのセレモニー自体もグリーフケアの1つ
- 故人の遺品整理や、お墓への納骨などもお別れの手段であり、亡くなったことを現実として受け止めることにつながる
- その際も、感情を押し殺さず、素直に吐き出すことが重要
- ケアをされる人が、周囲の視線を気にして平常心を保とうと感情を押し殺してしまわないようなサポートも大切
- 遺品整理などは無理に行わず、ケアが必要な人の状態に合わせたタイミングで行う
- 専門家に相談する
- グリーフケアは基本的に家族・友人などの近しい人が行うが、どうしても感情を表に出せず、非常に強い不安感や絶望感に襲われている場合、専門家や団体に相談する方法もある
- 専門家のカウンセリング(電話やテレビでも)を行っているところも
- 費用は面談時間によって60〜90分で10,000円〜20,000円程度と、利用する機関による
悲しみをはじめとしたマイナスの感情は、とくに日本人が人目を気にして出すのを苦手とする感情です。そのため、まずは自分が感じている感情を肯定する必要があります。同じ悲しみや苦しみを感じている人どうしだと、素直に感情を吐き出しやすいこともありますので、そのような会に参加するのも良いでしょう。
また、お別れのセレモニーについては、葬儀や火葬・納骨は時期があるため無理にでも行わなくてはならないこともありますが、遺品整理やお別れ会などは、ケアが必要な人の状態に合わせ、無理に周囲が急かしたりしないよう気をつけましょう。その人がようやく故人の死を受け入れ始めたときなど、区切りになりそうなタイミングで行うのが大切です。
周囲の人にはなかなか気持ちを吐き出せず、強い絶望感や喪失感から抑うつ状態などの深刻な症状が見られる場合には、専門家に相談するのも良いでしょう。カウンセリングを行っているかどうか、またその費用は利用する機関や団体によって異なりますので、機関や団体のホームページを見たり、問い合わせたりしてみましょう。
おわりに:グリーフケアは故人の死を受け入れ、再び他者や社会と関わるために必要
グリーフとは「死別などによる深い悲しみ」のことで、人間が生きている以上、身近な人の死は避けられないものですが、その悲しみを無理に一人で抱え込んでも、なかなか心の傷が癒えないことがあります。
そこで、故人の死を受け入れて乗り越え、やがては再び他者や社会と積極的に関わって生きられるようにするのがグリーフケアです。家族や友人などの身近な人が行うことが多いですが、専門家に相談する方法もあります。
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