高齢になると、身体能力や認知機能などの衰えから、これまで日常生活で行っていたことや、歩く・入浴するなどの生活が困難になり、介護が必要となることがあります。
介護が必要な状態であることを自治体から認定されると、介護保険サービスを始めとしたさまざまな支援を受けられることから、要介護の認定のためには調査が必要です。そこで、調査の流れや調査の前に準備しておくことについて説明します。
要介護認定調査って何?
要介護認定調査とは、市区町村に要介護認定を申請した後、原則1〜2週間以内に訪問調査員(認定調査員)が申請者の自宅などを訪ね、申請者の心身の状態について聞き取り調査を行うものです。
要介護認定の流れは「申請→認定調査→一次判定→二次判定→通知」となり、申請から通知までは約1ヶ月がかかります。それぞれに必要なものや詳細は、以下のようになっています。
- 申請
- 市区町村の介護保険課や、地域包括支援センターなどに本人または家族が申請する
- 申請書、介護保険証(40〜64歳の場合は医療保険証)、マイナンバーカードまたは通知カード
- ※主治医が決まっている場合、氏名・病院名・所在地がわかる診察券なども一緒に
- 認定調査
- 市区町村から派遣された調査員が自宅などを訪問する
- 心身の状態について、全国共通の「調査票」を使い、聞き取り調査を行う
- 一次判定
- 認定調査の「調査票」の結果をコンピュータ処理し、「要介護状態区分」を判定する
- 二次判定
- 「医療・保健・福祉」の専門家の話し合いにより、要介護状態区分を判定する
- 判定にあたっては「一次判定でコンピュータが判定した区分」「訪問調査時の聞き取りでわかった特記事項」「主治医意見書」の3つを使用する
- 最終的な判定として「要支援1〜2、要介護1〜5」のいずれか、または「非該当」となる
- 通知
- 申請から約1ヶ月後、申請者の自宅などに通知が届く
要介護認定調査のために必要な準備は?
要介護認定調査は、聞き取り調査です。当日、調査員が来てから「緊張して、何も話すことが浮かんでこない」「伝えたいことはあるのに、うまく話せない」ということがないよう、事前にしっかり準備し、当日もポイントを押さえてきちんと調査員に普段の様子を伝えましょう。それぞれ、どのようにしたらいいかご紹介します。
事前にどんな準備をしたらいいの?
要介護認定調査では、全国共通の「調査票」がありますので、あらかじめ聞かれることは決まっています。しかし、質問数が50項目以上と多いため、何の準備もしないままだと慌ててしまって、申請者の普段の正しい状態を伝えられないかもしれません。そこで、どんな質問をされるのか、厚生労働省の「認定調査員テキスト」などを利用して確認しておきましょう。
例えば、以下のような質問をされます。
身体能力について
- 麻痺があるかどうか
- 「ない」または「身体のどこにあるか」
- 関節が動かしにくい場所はあるかどうか
- 「ない」または「身体のどこにあるか」
- 歩行ができるかどうか
- 「つかまらないでできる」「つかまればできる」「できない」のいずれか
- 身体を洗うとき、介助が必要かどうか
- 「介助されていない」「一部」「全部」「行っていない」のいずれか
- ※本人が自分で洗えているなら「介助されていない」、身体を洗うのではなく、介助者が清拭している場合は「行っていない」となる
- 視力・聴力
- どの程度見えるか、聞こえるかを距離や声の大きさで判断する
日常生活について
- 移動や移乗、食事や排泄など
- 「介助されていない」「見守る程度」「一部介助」「全介助」のいずれか
- 口腔清潔や洗顔、洗髪など
- 「介助されていない」「一部介助」「全介助」のいずれか
認知機能について
- 毎日の日課ができるか、生年月日や年齢を言えるか、今の季節や場所がわかっているか
- 認知症に関係する「見当識障害」の確認。「できる」「できない」の2段階
- 徘徊、物盗られ妄想、情緒不安定、昼夜逆転、介護への抵抗などがあるかどうか
- 認知症の症状の確認。「ない」「ときどき」「ある」の3段階
また、このときに「調査項目ではっきりとは答えられないけれど、気になる症状がある」「普段から手がかかっているポイントがある」というときは、特記事項に記載しておいてくれます。ですから、こうした内容もすぐ伝えられるよう、普段から以下のようなことについてメモを取っておきましょう。
- 普段の介護内容について
- 誰が・いつ・どのような介護を行っているのか、できるだけ細かくメモしておく
- とくに、要介護者が認知症などで症状に波がある場合、それらの言動を記録し、調査当日に調査員にまとめて渡すと、当日の様子だけではわからないことも伝えられる
- 介護日記などをつけている場合、とくに気になる出来事があった日に付箋を貼っておき、調査員に見てもらうのも良い(その部分だけコピーで抜き出して渡すと親切)
- これまでにした病気や怪我について
- 主治医の診断書には、必ずしもすべての既往歴が書かれるとは限らない
- 介護をしていて、気になる病気や怪我の既往歴があれば、細かくメモしておき、当日調査員に手渡す
- 今、何に困っているか
- 介護していて、何についてどのように困っているのか、できるだけ詳しくメモしておき、当日伝えるか手渡すと、より正確な調査となる
- 「要介護者の困りごとや不便さ」「介護家族の困りごとや不便さ」に分けて要点を整理しておくと、よりスムーズに説明できる
- 要介護者の前で言いにくいこと
- 要介護者によっては、困りごとや不自由を他人に知られることに強い抵抗を感じることも
- 調査員に家族が話すこと自体を拒否したり、当日に家族と違うことを話し始めたりすることもある
- 要介護者のプライドや羞恥心に配慮したいことは、メモに書いておいて調査員だけが見られるようにしておくと、調査員を混乱させることなくスムーズに伝えられる
調査員が知りたいのは「普段、要介護者がどのように生活しているか」「介護の上で、要介護者や介護家族がどんな困りごとや不便さを感じているか」といった部分です。限られた時間の中で口頭だけで伝えようとすると、どうしても後から「あれも話し忘れた、これも話し忘れた」といったことが起こりがちです。
そこで、普段から介護をしながら、要介護者の様子を観察したり、実際に困ったことがあったり、気になる症状や既往歴があれば細かくメモしておきましょう。介護日記をつけておくのも一つの方法です。メモはなるべく原本を渡すのではなく、コピーをとって渡す方が良いでしょう。
当日に気をつけるべきポイントって?
要介護認定調査の当日は、以下のようなポイントに気をつけましょう。
- 必ず家族が立ち会う
- 要介護者だけで認定調査を受けると、プライドや思い込みが混じって普段できないことを「できる」と答えてしまうなど、正確な調査ができない
- 調査当日は必ず介護をしている家族が立ち会い、詳しい実情を伝える
- 担当のケアマネジャーにも相談すると良い
- 気がついたことは遠慮なく伝える
- 要介護者の日頃の様子や行動などを具体的に特記事項に記入できれば、要介護度検討の資料になる
- 質問に答えるだけではなく、気づいたことや日常生活の困りごとがあれば、どんどん伝えておくのが良い
- 困っていることは、できるだけ具体的に伝える
- 「困っている」だけではなく、「足の力が弱くなり、洋式トイレでも手すりがないと立ち上がれない」というように、なぜ困っているのか、どのように困っているのかをできるだけ具体的に伝える
- ありのままの状況を、正確に伝える
- 要介護者任せにして控えめに話すことも、実際の状況よりもオーバーに伝えることも、いずれも適切な要介護度認定ができず、再調査になってしまうことがある
- ありのままを正直に、正しく伝えることが大切
メモなどを用意したら、当日は調査員の質問に対して正直に、ありのままの状況を伝えることを心がけましょう。要介護者のプライドに配慮して控えめに伝えたり、逆に要介護度を上げてもらおうとオーバーに伝えたりすると、適切な要介護度の判定ができず、再調査になって通知までの時間が長引くこともあります。
また、要介護者が認知症などを発症しておらず、受け答えがきちんとできる状態であったとしても、必ず家族の立ち会いが必要です。できるだけ直接介護をしている家族が立ち会い、実情を正確に詳しく伝えましょう。日頃、本人が気づいていない症状や困りごとも、実際に介護をしている家族ならわかるということもあります。
おわりに:要介護認定調査のためにも、普段から介護の記録をつけておこう
要介護認定調査では、調査員が要介護者(申請者)の自宅を訪ね、普段の要介護者の様子や、介護で困っていること、不便なことなどについて聞き取り調査を行います。調査には全国共通の「調査票」が使われ、50項目以上を聞かれます。
そのため、普段から介護記録をつけておき、調査の前には質問を確認してある程度答えをまとめておくと良いでしょう。また、質問になくても気づいたことや困っていることは積極的に伝えましょう。
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