認知症は、何らかの理由で脳が損傷・委縮し、徐々に機能低下していく病気です。
近年ではその発症の一因として、一部睡眠薬の影響が取りざたされています。
今回は認知症と睡眠薬の関係について、薬を使わず睡眠障害を放置した場合の認知症発症リスクと比較しながら、解説していきます。
睡眠薬は認知症の原因になるの?
睡眠薬のうち、認知症発症に影響すると言われているのは、以下のようなベンゾジアゼピン(BZ)系に分類される睡眠薬です。
- ベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬の例
- トリアゾラム、ブロチゾラム、ロルメタゼパム、リルマザホン塩酸塩水和物、フルニトラゼパム、ニトラゼパム、エスタゾラム、ニメタゼパム、クアゼパム など
しかし、BZ系睡眠薬が認知症発症に直接的に影響するという化学的根拠はありません。
東京医科歯科大学脳統合機能研究センターの朝田隆認知症研究部門特任教授によると、BZ系睡眠薬が認知症発症に与える影響は、以下の通りです。
「認知症の前段階や、軽度認知症(MCI)と診断され、脳の活力が低下している段階で生じている不眠症に対しBZ系睡眠薬を使用すると、認知症発症につながる可能性がある」
つまり、脳の活動が弱り認知症になりかけているとき、その初期症状として現れる不眠症にBZ系睡眠薬を投与すると、認知症を誘発するかもしれない、ということですね。
このため現段階では、認知症の初期症状が現れている段階でBZ系睡眠薬を使用すると、認知症を誘発するリスクが指摘されている、という表現が適切でしょう。
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睡眠不足を放置する方が睡眠薬よりもリスクがある?
BZ系睡眠薬の使用で認知症リスクが上がるという仮説がある一方で、睡眠不足が続く方が、認知症発症リスクを高めるという指摘もあります。
睡眠薬による睡眠障害の治療と、睡眠薬を使わずに睡眠不足を我慢すること、一体どちらの方が認知症リスクを高める行為なのでしょうか。
認知症のうち、最も発症頻度の高いものとしてアルツハイマー型認知症があります。
アルツハイマー型認知症は、脳にβアミロイドと呼ばれるタンパク質が蓄積していくことで引き起こされる認知症です。
脳内に溜まったβアミロイドは通常、深い睡眠中に処理されますが、眠りが浅く睡眠不足の状態が続くと、処理しきれずにどんどん蓄積されていきます。
このため睡眠不足の人は、そうでない人に比べアルツハイマー型認知症の発症リスクが高くなるのです。
また睡眠不足でβアミロイドが溜まると、さらに睡眠の質が悪くなり、睡眠不足と認知症リスクが進行する悪循環が起こることも分かっています。
上記の事実を整理すると、仮説を根拠に睡眠薬や睡眠導入剤の使用を避けるよりも、不眠症からくる睡眠不足を放置する方が、よほど認知症発症リスクを高めると言えるでしょう。
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睡眠薬を使うときの注意点は?
睡眠薬を使用する上で本当に注意すべきなのは、仮説レベルの認知症発症のリスクよりも、医師の指示を守らないことによる副作用です。
以下に、睡眠薬や睡眠導入剤を飲むときに正しく理解しておくべき注意点をまとめていますので、よく確認してくださいね。
- 副作用や転倒のリスクを下げるため、指示された用法・用量を守り服用すること
- 服用後の事故や記憶障害を防ぐため、睡眠薬を飲んだらすぐ布団に入ること
- 肝臓での代謝を阻害し副作用のリスクが高まるため、アルコールと一緒に飲まないこと
- 不眠症状が悪化するリスクがあるため、自己判断での服用中止や減薬は絶対しないこと
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おわりに:睡眠薬は正しく服用して、認知症リスクと副作用を遠ざけよう
睡眠薬のうちベンゾジアゼピン(BZ)系のものには、認知症の初期段階に使用すると、認知症を誘発する恐れがあると指摘されています。しかしこれはまだ仮説段階であり、明確な化学的根拠を持つものではありません。睡眠薬よりも、むしろ認知症発症リスクを高めるとわかっているのは、睡眠障害による慢性的な睡眠不足です。認知症の発症リスクを減らしたいなら、用法・用量を守って睡眠薬を使用し、睡眠不足を改善しましょう。
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