認知症は、そのもの自体が生命を脅かす症状ではありません。そのため、認知症が進行を続けて終末期を迎えるとき、多くは持病の悪化や衰弱などが原因となります。
終末期は、家族にとってはさまざまな感情が複雑に絡み、なかなか素直に受け入れられるものではないかもしれません。しかし、その限られた時間を有意義に過ごすためにも、ぜひケアする際の注意点をおさえておきましょう。
認知症が末期になると、症状はどう変化する?
認知症も末期になると、介護が比較的楽になると言われています。身体的・精神的な衰えが進行してくるので、徘徊や暴力などの介護者の負担が大きい問題行動が少なくなってくるため、このような問題行動や幻覚・幻聴などに悩まされやすい初期〜中期と比べると楽だと言えそうです。とはいえ、それは認知症の症状が回復し、健常に近づいてくるということではありません。
末期の症状は人によってさまざまですが、認知症の悪化が原因で亡くなるというわけではなく、体調が変化したり、もともとの持病が悪化したりということが直接的な原因となる場合が多いです。しかし、この段階では本人に「治療」を認識させることが難しく、体調や持病を治療しよう、あるいは治療を継続しようとしても抵抗されたり、自ら点滴や尿道のカテーテルを抜いてしまうような場合もあります。
逆に、体力の低下が激しいと、黙り込んで何も話さなくなり、目だけはかろうじて開けるものの表情の変化にも乏しくなり、家族が面会に来ても無反応でそのまま衰弱していく、という人もいいます。食事も自力で摂取できなくなるほか、日常生活における異常行動で余計に体力をすり減らして衰弱してしまうケースもあります。
このような状態が、だいたい認知症の末期と言えるでしょう。本人も、認知機能が低下している状態とはいえ、そのことに薄々と気づいている場合も少なくありません。
終末期のケアで心がけたいこととは?
終末期になると、以下のような症状が特徴として現れます。
- 家族の顔がわからなくなる
- 表情が乏しくなり、反応がなくなる
- 会話ができなくなる、意思の疎通がはかれなくなる
- 尿・便の失禁が常態化する(尿意や便意を伝えられなくなった結果、失禁する)
- 歩行や座位が保てなくなり、寝たきりになる
また、もの忘れの症状も激しくなるため、何度も同じことを言ったり、ご飯を食べたのに忘れたり、物がなくなったと訴えることが多くなったりします。これらの症状が出た場合、ごく初期であれば「さっき食べましたよ」と事実を伝えても良いのですが、末期では症状が進み、自分の状況がわからなくなっているため、否定せず「いま作っているので待っていてくださいね」など、落ち着かせてあげましょう。
精神面でのケアで気をつけることは?
家族で認知症介護を行っている場合、同じことを何度も話されたり、物を失くしたときに「お前が盗んだんだろう」などと怒鳴られてしまうと、どうしても感情的になってしまいます。しかし、これらの症状はすべて脳機能が低下しているせいであり、本人に悪意があるわけではないのです。
何度も同じことを言われる場合、自分が言ったことが通じていない、真剣に受け止められていないと感じてしまっていることもあります。そこで、まず否定したり遮らずに話を聞いてあげることが必要です。「本気で聞いている」という演技で構いませんので、本人を落ち着かせてあげることが大切なのです。
「物がない」と探すとき、本当になにか身近なものが失くなったわけではなく、喪失感や不安感が背景にある可能性があります。年齢とともに周囲の人やパートナーが先に亡くなってしまったり、仕事ができなくなってこれまで築いてきたものが失われた、ということで不意に不安になってしまうことがあるのです。
人間は、不安にかられると何度も何度も確認を繰り返したり、本当はないものを探し始めたりしてしまいます。このときもできるだけ否定せず、一緒に探してあげると良いでしょう。もし、見つかったら一緒に喜んであげましょう。それだけで、本人は安心してほっと落ち着くことができるはずです。
身体的ケアや、家族へのケアで気をつけることは?
排泄・入浴・食事・衣服の着脱などの介助や、医療的措置などを行うことに抵抗を示す人も多いのが末期です。この場合も否定や叱咤激励は効果がなく、不安がっている場合に安易に「大丈夫」とだけ言うのも「子供扱いされている」と、本人の自尊心を傷つけてしまうことがあります。適切な距離感と話し方が重要になってくるのです。
とは言っても、家族で介護をしている場合、かつての親やパートナーの変化に複雑な感情があり、理屈ではわかっていても「適切な距離感や話し方」などができないことも多々あります。そのような場合は、主治医やケアマネジャー、訪問ヘルパーなどの専門家に相談し、適切な接し方を学ぶと良いでしょう。疲れ切ってしまいそうなときは、ショートステイやデイサービスなど、介護を代行してくれるサービスを利用するのも良いでしょう。
また、食事の際にエプロンをして汚しながら食べている、チューブで胃へ流し込んでいる、などの様子を見るとやはり精神的なショックは避けられません。介護者の場合は利用者本人に尊厳を持って接すること、家族へしっかりと状況の説明を行うことが必要ですし、家族の場合はこれらの説明をきちんと聞き、時間をかけてでも受け入れることが大切です。
認知症の末期は、必ずしもすべてのことがわからなくなっているわけではなく、ときには電気を消すときに「おやすみなさい」と挨拶したり、問題行動ばかり起こしていた人がすっかり穏やかになったりすることもあります。これらの変化に対して、やはり家族は複雑な気持ちになってしまうことが多いでしょうが、本人にとっても家族にとっても末期を有意義な時間にするために、少しの気遣いと工夫を心がけていきましょう。
おわりに:終末期の認知症ケアは「受け入れ」が重要
終末期の認知症ケアのキーポイントは、「受け入れる」ということです。本人の訴えや話を受け入れる、状態や状況を受け入れる、など、家族からすれば複雑な感情が先に立ち、すぐには難しいかもしれませんが、少しずつでも終末期に向き合っていくことが大切です。
家族が介護するのは精神的にも肉体的にも負担が大きいものです。介護サービスを上手に利用しながら、終末期を本人とともに有意義に過ごしましょう。
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