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歯周病がアルツハイマーの原因かもしれないって本当?

認知症

歯周病はいわゆる歯の疾患で、進行すると歯茎や歯が弱まり、最終的に歯が抜け落ちてしまうこともあります。一方、アルツハイマー病は認知症の原因疾患の1つで、一般的にイメージされる認知症といえばこのタイプの認知症です。

一見、何の関係もないように見えるこの2つの疾患ですが、とある研究によって関係があるかもしれないことがわかってきました。今回は、その研究と口腔ケアの重要性についてお話します。

どんな研究でアルツハイマー型認知症と歯周病との関係がわかったの?

アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)とは、認知症患者さんの過半数を占める脳機能障害で、脳内に「アミロイドβ」などの特殊なタンパク質が蓄積し、正常な神経細胞を変化させてしまうことで、脳のさまざまな機能を低下させたり、脳細胞の萎縮を進行させたりします。

アミロイドβはこれまで、脳組織で作られ、その場に蓄積されていくものだと考えられていました。しかし、体内の別の場所で生成されたアミロイドβが血液循環によって脳内に入り込み、蓄積されて神経細胞の機能を損なわせていることを示唆する研究結果や、緑内障・加齢黄斑変性(AMD)・糖尿病網膜症(DR)など、加齢に伴う眼疾患とアルツハイマー病の発症リスクとの間に関連性があるという研究結果なども報告されていることから、アルツハイマー病の発症リスクを高めるアミロイドβは必ずしも脳内で生成されたものだけではないと言えそうです。

そして、今回「慢性歯周炎(歯周病)の原因細菌、ボルフィロモナス・ジンジバリス菌がアルツハイマー病患者の脳内で確認された」という研究結果が、2019年1月にアメリカのルイビル大学の研究チームから発表されました。この研究結果によると、ボルフィロモナス・ジンジバリス菌以外にも、ボルフィロモナス・ジンジバリス菌が産生する毒性プロテアーゼ(プロテアーゼ:タンパク質加水分解酵素)である「ジンジパイン」も確認されています。

しかも、ジンジパインのレベルはアルツハイマー病との関連が指摘されている「タウ・タンパク質」や「ユビキチン」と相関性があると認められました。さらに、研究チームがマウスの口内にボルフィロモナス・ジンジバリス菌を感染させたところ、6週間後には脳内でボルフィロモナス・ジンジバリス菌が確認され、脳内のアミロイドβも著しく増加したことがわかっています。

これらの研究結果から、ただちにボルフィロモナス・ジンジバリス菌がアルツハイマー病を引き起こす一因だ、とは結論づけられません。しかし、この菌とアルツハイマー病に何らかの関連性がある可能性が示された、とは考えられます。因果関係をはっきりさせるためには、今後もさらなる研究が必要だと研究チームのヤン・ポテンパ博士も述べています。

また、この研究ではジンジパインを阻害する分子標的療法を使うことで、ボルフィロモナス・ジンジバリス菌が脳内に感染するのを抑え、アミロイドβの産生を妨げられることも示されました。ですから、将来的に因果関係がはっきりされれば、歯周病の原因菌の感染を阻害することでアミロイドβの産生を妨げ、神経炎症を抑え、アルツハイマー病で最初に標的になりやすい海馬の神経細胞を守る、といった新しい治療法が生まれるかもしれません。今回の研究は、その最初の一歩であると言えるでしょう。

研究からどんなことが予想されているの?

上記の研究から、歯周病の原因菌がアルツハイマー病に関与している可能性があることがわかりました。では、どのように関与していると考えられているのでしょうか。それは、歯周病もアルツハイマー病も「炎症」によって引き起こされる疾患である、ということが関係しているとされています。

一般的に、歯周病は歯に自覚症状が現れることから、口の中に限定した疾患だと思われがちですが、本来は全身に炎症が継続する疾患だと言えます。そもそも、歯周病の始まりは歯肉や歯と歯肉の間の溝(歯肉溝)などの口内組織に歯周病の原因菌が感染することです。人間の体は、このように細菌に感染すると、免疫反応として炎症を引き起こします。

歯茎が腫れて出血したり、歯の周囲の骨(歯槽骨)が失われて歯がぐらついたり、といった歯周病の症状は、この免疫反応の結果である、と言えます。この炎症反応は感染した部位だけに留まらず、さまざまな炎症性物質がそこで産生された結果、血流に乗って全身に影響が及んでしまうのです。

実際に、重度の歯周病患者さんでは、そうでない人と比べて全身の血中の炎症性物質の濃度が高い値を示すとわかっています。しかも、この炎症反応は一過性のものではなく、慢性的に続いているものなのです。

一方、アルツハイマー病の方は、最初にご紹介したように脳にアミロイドβなどのタンパク質が蓄積することで神経細胞が変性してしまうと知られています。これは、アミロイドβが脳内に蓄積すると、脳の炎症に関わる細胞が活性化されて脳内で炎症反応が起こってしまい、その炎症反応によって正常な神経細胞が破壊され、脳の萎縮が起こっているのだ、と考えられています。

つまり、アルツハイマー病も歯周病も、いずれも体内で起こる「炎症反応」が引き金になっている疾患だという共通点があることがわかります。ですから、ざっくり言えば、歯周病の炎症反応によって生じた炎症性物質が血流に乗って脳に入り込み、そこでアルツハイマー病の炎症反応を増強してしまうのだ、と考えられます。

しかし、脳は本来体の司令塔ですから、もっとも重要な器官の1つです。それなのに、このように簡単に炎症性物質がどんどん脳内に侵入できてしまっては、脳細胞はもっと早いうちに破壊されてしまうでしょう。そのため、本来は脳内に血流を通って何らかの物質が入り込もうとするとき、「血液脳関門」と呼ばれるゲートがあり、脳の神経細胞に有害な物質を入れないようにしています。健康な人の脳ではこのゲートがきっちり働いているため、細菌に感染して作られた炎症性物質などは脳内に入り込めないようになっているのです。

ところが、歯周病の人は慢性的に炎症が起こっているため、炎症性物質が常に体内をめぐり、当然血液脳関門にも到達してずっと関門を攻撃し続けます。この攻撃によって、人によっては血液脳関門が正常に機能できなくなり、炎症性物質が脳内に侵入することを許してしまう、と考えられます。ときには、口腔内に潜んでいるはずの歯周病細菌自体も脳内に侵入を許してしまう場合があります。

とはいえ、前章でも触れたとおり、この炎症反応はあくまでもアルツハイマー病発症リスクを高める1つの要因ではないかと考えられているだけであり、歯周病の炎症反応がただちにアルツハイマー病を発症させる、とは言えません。つまり、発症の時期を早めたり、症状の程度を強めたり、進行を早めたり、という「増強」の作用ではないかと言われています。

もちろん、これはまだ可能性の段階ですから、前述のように因果関係はまだはっきりと立証されていません。今後のさらなる研究が待たれます。

お口のなかの健康維持は認知症予防にどう役立つの?

ここまでで、歯周病と認知症の関連性はあくまでも可能性に過ぎないことをお話しましたが、咀嚼機能を保つためにも、早いうちから口腔ケアを心がけておくことは大切です。認知症予防という観点も含めて考えると、遅くとも50代に入ったら口腔ケアを行いましょう

これは、アルツハイマー型認知症を発症する率が高いのは70歳代ですが、その原因物質とされるアミロイドβの蓄積は発症の10〜20年前から始まっているとされることによります。もちろん、これは最低限始めた方が良い年代を示したもので、早ければ早いほど良いことに変わりはありません

さらに、咀嚼機能が保たれていると、認知症の発症リスクを下げたり、認知症の進行を抑えたりするのに役立つと考えられています。歯周病や虫歯によって歯が失われると、ものを噛むという脳への刺激も失われます。この刺激は脳の活動に非常に重要で、実際に残っている歯が少ない高齢者ほど、記憶や学習能力に関わる「海馬」や、意志や思考を司る「前頭葉」という脳の部位が小さく萎縮してしまうことがわかっているのです。

日本も含め、先進国では医療技術の発達により、昔よりも長生きできるようになってきました。そのため、今は「健康で元気に長生きする」、すなわち健康寿命ということが声高に叫ばれています。単に「生命が続いている」というだけの長生きではなく、いつまでも元気に活動し、満足のいく幸せな生活を続けていくためにも、歯や口内の状態を健康で良好に保っていくことは大切なのです。

おわりに:歯周病はアルツハイマー病の発症リスクや進行を「増強」しているかもしれない

アメリカの研究チームによる今回の実験では、歯周病の原因細菌がアルツハイマー病に何らかの関係があるかもしれないということが示されました。また、歯周病によって慢性的に口内で炎症が続くと、本来侵入できないはずの脳に炎症性物質や細菌が侵入できてしまうのではないか、とも考えられます。

ですから、認知症予防のためにも、口腔ケアを心がけ、咀嚼機能を保つことは大切です。健康寿命を伸ばすためにも、歯を守りましょう。

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