超高齢化社会を迎えた日本では、人口における高齢者の割合が増えたことにより、ニュースで高齢者が起こす自動車事故が報道される機会も増えてきました。自動車は非常に便利な乗り物ですが、一方で身体能力の衰えた高齢者には扱いきれないことも多いのです。
そこで、免許証の更新にあたり「高齢者講習」という講習が実施されるようになりました。この記事では、高齢者講習とはどんなものかや必要な人、内容などをご紹介します。
高齢者講習って?
高齢者講習とは、70歳以上の運転免許取得者に対して、免許証を更新する前に受講することが義務づけられたもので、1998年から始まりました。これを受講しないと免許証の更新ができないほか、2017年に高齢者講習制度が改正された後は、75歳以上のドライバーに対して認知機能検査が強化されることとなりました。
高齢者は一般的に視力や反射神経、記憶力や判断力などが若年者と比べて低下しているほか、認知症を発症するとこれらの能力も大きく低下します。そうした心身の変化は、高齢者本人が思っている以上に進行していることもよくありますから、変化をしっかり自覚するとともに、それに応じた安全な運転を心がけなくてはなりません。
高齢者講習では、70〜74歳までは2時間の講習を、75歳以上の後期高齢者と呼ばれる高齢者では認知機能検査と高齢者講習を受講します。もし、そこで認知症と判断された場合は、本人と周囲の安全のために免許取り消しまたは停止となります。受講が必要な人には、「高齢者講習のお知らせ」がハガキで届きますので、指定の自動車教習所に電話をかけ、受講します。
2時間の講習は座学、運転適性検査、運転講習などで構成されていて、実際に車を運転する運転講習は、運転技能についての認識や理解を深め、安全運転を行うためのものです。基本の高齢者講習の費用は5,100円で、別途更新手数料2,500円がかかります。
関連記事:長谷川式認知症スケールってどうやって使えばいいの?
関連記事:家族が軽度認知障害(MCI)かも?と思ったときの対応方法とは?
講習予備検査が必要なのはどんな人?
「講習予備検査」とは、運転免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上となるドライバーに対して行われる検査のことです。高齢者講習を受ける前に、認知機能検査(約30分、750円)を受け、高齢者講習で一人ひとりに適した内容の講習を行うため、記憶力や判断力を測定します。
検査項目としては「時間の見当識」「手がかり再生」「時計描画」の3つがあり、現在の年月日を答えたり、時刻を時計の絵として検査用紙に書き込んだりします。この検査結果で記憶力や判断力が問題ないと判定されれば、70〜74歳のものと同じような高齢者講習(2時間、5,100円)を受けます。
もし、この検査で「少し低くなっている」「低くなっている」と判定された場合は、別に用意された高齢者講習(3時間、7,950円)を受けなくてはなりません。さらに、「低くなっている」と判定された場合は臨時適性検査または診断書提出を命じられ、診断結果で認知症と判断された場合は、運転免許停止または取消となります。
また、こうした運転免許証の更新時以外にも、75歳以上のドライバーが一定の違反をした場合、「臨時認知機能検査」を受ける必要があります。この検査結果が直近の認知機能検査よりも悪くなっている場合、臨時高齢者講習(2時間、5,800円)を受けなくてはなりません。さらに、検査の段階で「低くなっている」と判定された場合は臨時適性検査または診断書提出を命じられ、更新時と同様、診断結果で認知症と判断されれば、運転免許停止または取消となります。
具体的な講習内容は?
では、具体的な講習内容について見ていきましょう。「70〜74歳や、75歳以上で認知機能検査に問題がないと判断された人が受ける高齢者講習」「75歳以上でやや問題がある場合に受ける高齢者講習」「臨時高齢者講習」の3つに分けて見ていきます。
一般的な高齢者講習(2時間、5,100円)
70〜74歳の人、または75歳以上で認知機能検査に問題がない(※認知機能検査で第3分類とされた)人が受ける高齢者講習です。具体的な内容は、以下のようになっています。
- DVDなどで、交通ルールや安全運転に関する知識を再確認し、指導員から運転に関する質問などを受けながら座学を受ける
- 器材を使い、動体視力や夜間視力、視野を測定する
- ドライブレコーダーなどで運転状況を記録しながら車を運転し、必要に応じて記録された映像を確認しながら、指導員から助言を受ける
これがもっとも基本的な高齢者講習となり、この講習は70歳を超えたらすべての免許更新者が受けなくてはなりません。
やや特別な高齢者講習(3時間、7,950円)
認知症ではないものの、記憶力や判断力がやや低下している(※認知機能検査の結果が第1分類または第2分類)と判断された75歳以上の免許更新者が受ける高齢者講習です。具体的には、以下のような内容の講習を受けます。
- DVDなどで、交通ルールや安全運転に関する知識を再確認し、指導員から運転に関する質問などを受けながら座学を受ける
- 器材を使い、動体視力や夜間視力、視野を測定する
- ドライブレコーダーなどで運転状況を記録しながら車を運転し、指導員から助言を受ける
- ドライブレコーダーなどに記録した映像などを使いながら、運転に関する個人指導を受けたり、DVDなどで安全運転を学んだりする
一般的な高齢者講習との違いは、最後の助言や運転に関する個別指導などです。こうした手厚い指導があるため、一般的な高齢者講習と比べて時間や費用が多くなっています。
臨時高齢者講習(2時間、5,800円)
75歳以上のドライバーが信号無視や通行禁止違反、一時不停止などの違反行為を行った場合、まずは臨時認知機能検査を受け、認知症ではないものの直近の認知機能検査よりも結果が悪くなった場合や、第1分類ではあるものの認知症ではないと判断された場合に受けるのが、臨時高齢者講習です。具体的には、以下のような内容の講習を受けます。
- ドライブレコーダーなどで運転状況を記録しながら車を運転し、指導員から助言を受ける
- ドライブレコーダーなどに記録した映像などを使いながら、運転に関する個人指導を受けたり、DVDなどで安全運転を学んだりする
臨時高齢者講習では座学がないものの、指導員からの助言や個人指導があります。そのため、2時間という長めの時間が設けられています。
関連記事:認知症の人に運転を止めてもらうには、どうすればいいの?
おわりに:高齢者講習は、安全運転を続けるために必要な指導
高齢者講習とは、70歳以上のすべてのドライバーに義務づけられた安全運転のための講習です。75歳以上になるとさらに認知機能検査を受け、検査結果と医師の診断結果などを合わせて認知症と判断された場合、免許の停止や取消となります。
問題ないと判断されれば一般的な高齢者講習のみで構いませんが、この検査によって認知機能がやや低下していると判断された場合は、特別な高齢者講習を受けなくてはなりません。
関連記事:認知症の人の鉄道事故、誰に責任がある?
コメント