動物と触れ合うことで、メンタル面の安定をはかったりストレスを軽減したりする、精神的な癒しを得るセラピーの一つに「アニマルセラピー」があります。例えば、ペットを飼う人は飼っていない人よりも、病院に行く回数が少ないと言われています。
そんなアニマルセラピーは、認知症の人にとっても良い効果があるとされています。具体的にどんな触れ合いをするのか、どんな良い影響があるのかなど、詳しく見ていきましょう。
アニマルセラピーってどんなもの?
アニマルセラピーとは「動物と触れ合うことで精神的・身体的な機能を向上させ、生活の質を向上させる療法」のことを言います。例えば、アニマルセラピー犬と触れ合うことは、精神的な安定につながるとされています。とくに、認知症の人で昔、犬を飼っていたという場合、その頃を思い出して懐かしさや楽しさを思い出してくれるかもしれません。
また、動物のしぐさや行動を愛らしいと感じたり、癒しを感じたり、お世話をしたいと思ったりするでしょう。こうした自発的な感情や欲求により、動物を介して周囲の人とのコミュニケーションが活発になるだけでなく、お世話や可愛がるなどの行動が精神的な安定をもたらすと言われています。
アニマルセラピーの歴史は古く、古代ローマでは馬を用いて負傷した兵士のリハビリが行われていたというものもあります。現在では人間にとってもっとも身近な動物である犬(セラピードッグ)が高齢者施設や病院を訪問するアニマルセラピーが行われることが多いです。中でも、医療現場で医療従事者が主導して行う治療の場合は「動物介在療法」と呼ばれます。
老人ホームなどの施設に訪問する犬の場合、以下のような犬種が選ばれます。
- 元気と穏やかさを兼ね備えている
- アレルギーを起こしにくい
- 毛が抜けにくく、匂いが少ない
このように、元気ではありながらも攻撃性が少ない、アレルギーの原因となりにくい、匂いがきつくないなど、犬種を選ぶ際にはできるだけ多くの人が触れ合えるような配慮がされています。さらに、専門的な訓練もされていることから、一緒にリハビリに取り組めたり、安心して触れ合ったりすることができます。
老人ホームのアニマルセラピーでは、主に以下のようなことを行います。
- 挨拶を交わし、体に触れたり撫でたり、小さい犬なら抱いたりする
- ボールやおもちゃを投げて取らせるなど、一緒に遊ぶ
- 一緒に散歩をする
- エサやおやつを与える
- 動物の名前を呼んで、側に来させる
アニマルセラピーは認知症にどんな良い影響があるの?
アニマルセラピーが認知症の人にもたらす良い影響として、以下のようなことが考えられます。
- 精神的・身体的リハビリを補助する
- 動くのがおっくうだったり、きっかけがなかったりする高齢者の動くきっかけになる
- 動物を能動的に撫でたり、世話をしたりすることがリハビリの補助となる
- 歩行訓練の一種として、訓練を受けたセラピードッグと一緒に無理なく歩く
- セラピードッグと触れ合いたいという意志が目的を生み、前向きにリハビリに取り組める
- これらの心理的な効果により、意欲の向上や免疫力のアップにもつながる
- 情緒を安定させる
- 動物に触れることで、リラックス状態をもたらす神経が刺激される生理的作用がある
- ストレスの緩和やうつ状態の改善を図れるため、活動性や社会性が向上する
- こうした効果により、日常生活の自立度や生活の質が改善されることも
- 表情が豊かになる
- 長く施設に入所していると、活動性や意欲の低下のほか、表情が乏しくなりやすい
- アニマルセラピーによる触れ合いで、自然な笑顔が見られたり、穏やかな表情になったりする
- 表情に変化が見られるとともに、精神的には安定の効果が見られる
- 昔、犬を飼ったことがある人は、とくに情動の変化が現れることも
- 自発性が見られるようになる
- 普段はあまり自発性が見られない人でも、犬に興味を持つことで、自分から撫でる、触るなどの行動が見られる
- 意欲や活動性のほか、身体機能の向上も期待できる
- 責任感や意欲の向上につながる
- 動物に対し「世話をしたい、しなくては」と責任感を持つ
- 動物から「頼られている」と思えることで自尊心が満たされ、意欲が芽生える
- 社会的な効果が促される
- 入居者どうしがセラピードッグを通じてコミュニケーションできる
- 犬に話しかけるほか、犬の話題で周囲の人と盛り上がることができる
- コミュニケーションとともに、社会的な効果が期待できる
長期間施設に入所している人は、コミュニケーションや自発性、活動性、意欲などが低下してしまう傾向があります。身体的な障害や機能の低下などもあいまって、日常生活を自力で行うのが難しくなってくると、不安や苛立ちなどの不快な感情も生じやすくなり、精神的に不安定な状態になってしまうこともあります。
セラピードッグとの触れ合いは、こうした精神的な不安定さを解消し、自発性や活動性を向上させられます。また、犬とのコミュニケーションはもちろん、犬を介して周囲の人とコミュニケーションをとることで、社会的な関わりが促されます。さらに、犬のお世話をするという目的のために、リハビリテーションに対する意欲がわき、免疫力などがアップする効果も期待できます。
セラピーをするときの注意点は?
上記のようにたくさんのメリットがあるアニマルセラピーですが、行うにあたっては以下のようなことに注意する必要があります。
- 対象者、ペットともに健康状態に留意する(動物アレルギー、免疫機能の低下など)
- 動物と関わることで妄想や幻聴がひどくなる可能性がある場合、十分に注意する
- 動物に対する感情を確認しておく(嫌いな人には触れさせない配慮を)
- 動物に対し、暴力や危害を加える可能性がある人は参加させない
- 動物やスタッフと関わることが精神的に大きなストレスになる場合は、メリットとデメリットをよく考慮してから実施する
とくに、昔、噛みつかれたことがあるなど、動物に対して嫌な記憶がある場合は、動物と触れ合うことで精神的に悪化し、吐き気やふるえ、多汗などの症状が起こったり、パニックに陥ったりする危険性がありますので、事前に動物に対して嫌な感情や記憶を持っていないかどうか確認しておくことが必要です。
また、動物に対して危害を加える危険性があるような易怒性・攻撃性を持っている人は、セラピードッグなどの動物を守るため、セラピーの対象としません。
おわりに:アニマルセラピーは精神の安定や自発性・活動性・社会性を向上させる
アニマルセラピーは、動物と触れ合うことで精神的に癒しを得、メンタル面の安定をはかれるとともに、撫でたり抱き上げたり、お世話をしたり一緒に遊んだりと、認知症の本人の自発的な行動を促すことにもつながり、自然に積極的な活動を行えます。
また、犬とのコミュニケーションや、犬を通じた周囲の人とのコミュニケーションで、社会的な関係も築ける可能性があります。注意点を踏まえながら、効果的に利用しましょう。
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