高齢者の睡眠障害の治療には睡眠薬が有効?

老後の不安・悩み

「朝早く目が覚めてしまう」「就寝中トイレで起きてしまい、熟眠感が得られない」といった睡眠の悩みを抱える高齢者は多く、睡眠薬を服用している人も多いです。ただ、睡眠障害の程度や原因によっては、服用に注意が必要なケースもあります。副作用のリスクを含め、解説していきます。

高齢者の睡眠障害は「生活習慣」が原因のことも多い

高齢者の睡眠障害には睡眠薬が効果的なケースもありますが、生活習慣を改善する「睡眠衛生指導」によって症状が緩和される人も多いです。

そもそも、高齢者の「朝早く目覚めてしまう(早朝覚醒)」「眠りが浅い」という症状自体は病気ではありません。高齢になると、脳の松果体(しょうかたい)から分泌される「メラトニン」(自然な眠りを誘うホルモン)の分泌量が減ってしまうため、若い頃に比べると眠りが浅くなります。また、睡眠のリズムを司る「体内時計」も加齢変化で前倒しになるので、早寝早起きになる傾向にあります。

つまり、睡眠トラブルは健康な高齢者でも起こりうる現象です。若い人や働き盛りの世代は7~8時間の睡眠が推奨されていますが、高齢者は必ずしも8時間睡眠にこだわる必要はありません(70代になると、6時間程度の睡眠しか取れなくなる傾向にあります)。

高齢になると、若い頃と比べて運動量は低下し、日光を浴びる量も減ります。また、寝床でうとうと昼寝をしてしまったり、寝酒が習慣化している高齢者も少なくありません。そういった生活習慣が原因で、夜間の睡眠の質が低下してしまっているケースも多いので、睡眠薬を服用する前に、下記の生活改善を行うことが大切です。

「8時間睡眠」にこだわりすぎない
年をとると必要な睡眠時間は短くなります。また睡眠時間の長さは個人や季節によって異なるので、こだわりすぎないようにしましょう。
規則的に運動をする
運動は熟眠を促進します。朝はもちろん、日中や夕方も散歩などの習慣をつけることが大切です。過度の「早朝覚醒」で困っている方は、朝よりも夕方の散歩をお勧めします(過度に朝日を浴びると、刺激で体内時計がさらに朝型になってしまうため。夕方以降の光は夜型にする作用があるとされます)。
規則正しく3回食事を摂る
朝食は心身の目覚めに重要とされます。夕食は軽めにしましょう(夜、大量に脂っこいものを食べると、消化に負担がかかり眠りの質が低下する可能性があります)。
昼寝は15時前の20~30分に留める
長く昼寝をしてしまうと、かえってぼんやりしてしまいます。また夕方以降の昼寝は、夜の睡眠の質を下げてしまいます。
寝床にいすぎない
寝床で長く過ごしすぎると、うとうと寝る習慣がつき、熟眠感が低下してしまいます。
眠くなったら寝床につく
「この時間になったから眠らなければ」と意識しすぎてしまうと、かえって頭が冴え、寝つきが悪化してしまいます。自然な眠気がやってきたら寝床に入るようにしましょう。
就寝前の刺激物は避ける
カフェイン摂取は就寝の4時間前まで、喫煙は就寝の1時間前までにしましょう。
寝酒はやめる
睡眠薬の代わりに寝酒をする人もいますが、寝酒は睡眠の質を低下させ、夜中に目覚める原因となります。

高齢者の睡眠障害で睡眠薬を服用するケースとは?

前述の「睡眠衛生指導」を行っても症状が改善されない場合は、睡眠障害の原因に応じた治療を行うのが重要です。

例えば、高齢者がかかりやすい「睡眠時無呼吸症候群」や「レストレスレッグス症候群」等による睡眠障害は、通常の睡眠薬では改善しないため、専門外来で検査と治療を受ける必要があります。また、うつ病による睡眠障害の場合は、心療内科の受診が推奨されます。
しかし、そういった病気が原因の睡眠障害ではない場合は、症状に応じて睡眠薬が処方されることになります(うつ病が原因の睡眠障害も、睡眠薬が有効な場合があります)。

高齢者の睡眠障害で処方される睡眠薬は?

睡眠薬には多数種類があり、効果の強さや弱さ、持続時間もそれぞれです。患者さんの症状に合ったものが処方されますが、高齢者の睡眠障害では下記の「非ベンゾジアゼピン系」の睡眠薬が推奨されます。

ゾルピデム(商品名:マイスリー©️)
エスゾピクロン(商品名:ルネスタ©️)
ゾピクロン(商品名:アモバン©️)

いずれも薬の作用は「超短時間型」で、効果のピークは服用から1時間未満、作用時間は2~4時間です。なかなか寝つけない入眠障害の患者さんに有効で、作用時間も短いため、眠気等を日中に持ち越す恐れはほとんどありません。なお、各薬の最高用量で作用の強さを比較すると、「アモバン©️>マイスリー©️>ルネスタ©️」の順になります。

また、近年では「ラメルテオン(商品名:ロゼレム©️)」という新しい睡眠薬も、高齢者の不眠治療に安全かつ有効と報告されています。

参考:小曽根基裕・黒田彩子・伊東洋「高齢者の不眠」

ロゼレム©️は、眠気を促すホルモン「メラトニン」に働きかける薬で、体内時計のリズムを調整する作用が見込めます。「早朝覚醒」や「熟眠障害」、途中で起きてしまう「中途覚醒」などの症状に広く有効とされますが、他の睡眠薬と比べて効果の実感が得られにくく、服用から2~4週間経った頃から効果が出てくるようになります。この点から、入眠障害の患者さんにはあまり向いていない睡眠薬といえます。

高齢者が睡眠薬を服用した際の副作用は?

高齢者は若い人と比べて肝機能や腎機能が低下しているため、薬物の代謝や排出が遅く、その分薬の作用や副作用が強く出やすいです。また、睡眠薬の筋弛緩作用によって夜間にふらつき、骨折するリスクも高まります。そのため、筋弛緩作用のあるベンゾジアゼピン系の睡眠薬(ハルシオン©️、レンドルミン©️など)は、高齢者にとってリスクを伴う薬といえます。

しかし、先ほど紹介した非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬(マイスリー©️、ルネスタ ©️、アモバン©️)は筋弛緩作用が少なく作用時間も短いので、ふらつきによる骨折のリスクは低いです。ロゼレム©️も比較的安全性が高く、依存性も少ない薬とされています。

参考:小曽根基裕・黒田彩子・伊東洋「高齢者の不眠」

まずは少量から服用し、また万が一の転倒リスクに備え、夜間のトイレ歩行時には点灯を心がけることが大切です。

おわりに:睡眠薬を服用する前に、生活習慣の見直しを

「若い頃に比べて眠りが浅く、熟眠感が得られない」という不安から、睡眠薬の処方を求める高齢者も多いですが、まずは睡眠障害の原因となる生活習慣の改善が大切です。それでも症状が続いたり、異変が起きたりした場合には専門外来を受診し、原因に沿った治療を受けるようにしましょう。

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