高齢者によく見られる「認知症」ですが、これは疾患名ではなく症状名で、その原因となる疾患は人によって違います。よく知られているのはアルツハイマー病ですが、他にもレビー小体という特殊なタンパク質が引き起こす「レビー小体型認知症」という認知症があります。
このレビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症とは症状の出方が異なります。チェック項目や医師に伝えるべき特徴も異なりますので、詳しく見ていきましょう。
レビー小体型認知症はどんな病気に間違われやすい?
レビー小体型認知症は、症状によっては以下のような疾患に間違われてしまうことがあります。
- パーキンソン病
- レビー小体型認知症とパーキンソン病は、よく併発することがある
- ところが、パーキンソン病だけが診断され、認知症が見落とされてしまう例もある
- うつ病
- ぼんやりとしているなど意識レベルの低下、気分の変動などから診断されることがある
- その他の精神疾患
- 幻視や、幻視からくる異常な言動によって診断されることがある
また、認知症のうちでも原因が異なるアルツハイマー型認知症と間違われることもあります。この場合は、アルツハイマー型認知症に特徴的な認知機能の障害がレビー小体型認知症でも見られる場合があることと、アルツハイマー型認知症が認知症患者さんの過半数を占める非常にポピュラーな認知症であることが理由と考えられます。
しかし、どんな理由があれ誤診が起こってしまうと、単に適切な対応が遅れるだけでなく、間違った対応によって症状の悪化を招いてしまうこともあります。例えば、レビー小体型の初期の症状に幻視がありますが、幻視は他の人には見えないため、精神疾患から来る妄想と誤診されてしまった場合、抗精神病薬を処方されることがあります。
ところが、レビー小体型認知症に見られる特徴的な症状の1つに、薬剤への過敏性があります。抗精神病薬に対してこの過敏性が現れてしまうと、幻視はますます悪化します。すると、さらに抗精神病薬を変更したり増量したりして処方や投与を長期間繰り返す、という悪循環に陥ってしまうのです。これは患者さん本人にとっても、支える家族にとっても非常に辛いことです。
このような誤診を防ぐため、レビー小体型認知症が疑われる場合はぜひ認知症に詳しい専門医を受診するとともに、家族や周囲の人が一緒に付き添い、本人に現れた症状をできるだけ詳細に伝えましょう。できれば、症状が出たときに忘れないようメモしておき、受診の際にはそれを持っていくと良いでしょう。
レビー小体型認知症のチェック方法は?
レビー小体型認知症は、一般的に認知症として知られているアルツハイマー型認知症と共通する記憶障害、認知機能の障害なども現れますが、レビー小体型認知症だけに特徴的な症状も少なくありません。とくに、初期には記憶障害は比較的軽度で、代わりに早い段階から幻視を中心とする視覚系の認知機能の障害が目立ちます。
このように、レビー小体型認知症に特徴的な症状を集めたチェックリストとして、以下の10項目があります。
- 実際にはないものが見える(幻視)
- 頭(意識)がはっきりしているときと、そうでないときの差が激しい
- 1つ1つの動作が緩慢になった
- 筋肉がこわばることがある
- 小股で小刻みに歩くようになった
- 睡眠時に異常な言動がある
- もの忘れがある
- 抑うつ的である
- 妄想が見られる
- 転倒や失神を繰り返す
目安として、上記のチェックリストの5項目以上に当てはまるようなら、レビー小体型認知症の可能性が高いと考えられます。とはいえ、チェックリストで確実にレビー小体型認知症かどうかがわかるわけではありませんので、確定診断のためには認知症の専門医を受診し、脳の断面図の画像診断や血流・代謝などを調べる検査を行いましょう。
特徴的な幻視やふるえにも注意!
レビー小体型認知症の症状として最も特徴的なのは、前章でもご紹介したとおり、実際にはないものが見える「幻視」です。見えるものは人によってさまざまですが、主に虫・小動物・人などが多いようです。一例として、以下のような幻視が見られることがあります。
- 動物や昆虫に関する幻視
- ネズミが壁を這い回っている
- ヘビが天井に張りついている
- ご飯の上に虫が乗っている
- 人に関する幻視
- 知らない人が座敷に座っている
- おばあさんがこちらを見て立っている
- 子どもたちがベッドの上で遊んでいる
- ○○さん(知人、家族、故人など)が遊びに来ている
- 窓から男の人が入ってくる
- 誰かがベッドで寝ている
- 環境に関する幻視
- 大きな川が流れている
- 床が濡れている、水たまりができている
- 光線が飛んでくる
- きれいな花が咲いている
このような幻視は、一般的にアルツハイマー型認知症では見られず、見られたとしても症状としてはごくまれですから、初期のアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症を見分ける重要なポイントとなります。幻視は「無数のハエが飛んでいる」→「殺虫剤を撒かなくては」、「子どもが来ている」→「自分が世話をしなければ」といったように、妄想やそれに伴う行動に発展する場合もあります。
また、レビー小体型認知症に見られるその他の特徴的な症状として、以下の5つが挙げられます。
- パーキンソン症状(パーキンソン病でよく見られる症状)
- 手足のふるえ、筋肉のこわばり
- 認知の変動
- 頭(意識・認識)がはっきりしているときと、そうでないときの差が激しい
- 抑うつ症状(一般的にうつ病で見られるような症状)
- 気分の落ち込みや悲観的になる、ふさぎこむなど
- レム睡眠行動障害
- 睡眠中にうなされる、大声で寝言を言う、奇声をあげる、怒る、怖がる、暴れるなどの異常な言動
- 自律神経症状
- 起き上がったり、立ち上がったりしたときに急激に血圧が低下して転倒・失神を起こす
これらの特徴的な症状が現れた場合は、レビー小体型認知症の疑いが強くなります。ぜひ、受診の際にはこうした特徴的な症状を伝えることを忘れないようにしましょう。とくに、抑うつ症状のみではうつ病かレビー小体型認知症かの判断が非常に難しいため、他の特徴的な症状が見られる場合はぜひ書きとめておくなどして、必ず伝えるようにしてください。
おわりに:レビー小体型認知症に特徴的な症状を見逃さず医師に伝えよう
レビー小体型認知症は、よく知られているアルツハイマー型認知症と似た記憶障害が現れることもありますが、アルツハイマー型認知症とは異なる症状が現れることもあります。
とくに、特徴的な「幻視」「パーキンソン症状」などはアルツハイマー型認知症に見られにくい症状ですから、注意して観察し、記録しておくことが大切です。そして、受診の際は認知症の専門医を受診するとともに、これらの特徴的な症状を詳しく伝えましょう。
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