レビー小体型認知症とは、認知症の中でもよく知られているアルツハイマー型認知症や、脳血管性認知症とは少し症状が異なります。もちろん原因となる疾患も異なりますが、その診断基準が確立されてからまだ20年程度しか経過していない、比較的新しく知られた認知症です。
そんなレビー小体型認知症は、どのように検査して診断するのでしょうか?また、治療方法としてはどんなことが行われるのでしょうか?
レビー小体型認知症の治療の特徴は?
レビー小体型認知症は、かつてはアルツハイマー型認知症など、他の認知症と混同されていました。しかし、小阪憲司医師によって発見され、1976年に世界で初めてレビー小体型認知症の症例が発表された後、欧米でもレビー小体病に関する研究が進められ、1996年に「レビー小体型認知症」としても診断基準が確立されたのです。
レビー小体型認知症は、レビー小体という特殊なタンパク質の塊が脳の大脳皮質や脳幹部に生じ、その影響で脳の神経細胞が破壊されて引き起こされる認知症です。なぜレビー小体が生じるのかはよくわかっていませんが、レビー小体は徐々に蓄積し続けていくため、たいていは症状もゆっくりと進行していきます。
また、同じように脳にレビー小体が蓄積されて起こる疾患にパーキンソン症候群があり、これを併発するケースも多く見られますので、レビー小体型認知症に治療・対処するときには、パーキンソン症候群への治療や対処も同時に行うことが必要です。
認知症患者さん全体の約2割がこのレビー小体型認知症を発症しているとされており、とくに女性よりも男性に患者さんが多い傾向があります。アルツハイマー型認知症などと同様、高齢になってから発症する人が多いですが、若い頃にパーキンソン症候群を発症し、それが高齢になるにつれてレビー小体型認知症へと移行していく場合もあります。しかし、現在のところ遺伝的要因は見つかっていません。
診断にはどんな検査が必要なの?
レビー小体型認知症の診断に使われる検査としては、以下のようなものがあります。
- 神経心理検査
- 認知機能を評価する検査で、スクリーニング検査では国際的に広く使われているミニ-メンタルステート検査を行う
- レビー小体型認知症では、記憶障害よりも構成障害・視覚認知障害・注意障害・遂行機能障害などが目立つことから、錯綜図問題やトレイルメイキングテストなどを加えてスクリーニング検査を行うことも
- また、幻覚や錯視の症状が特徴的なため、パレイドリアテストを行うことも
- 脳MRI
- 大脳全体に軽度の萎縮がないかどうか確認する
- アルツハイマー型認知症やその他の認知症と比べ、レビー小体型認知症では萎縮の程度が軽いことから、他の認知症と区別するために検査を行う
- MIBG心筋シンチグラフィー
- 123I-MIBGという薬剤を注射し、その薬剤が心臓に集まる程度を調べ、心臓に分布する交感神経の機能を評価する
- レビー小体型認知症では、交感神経が障害されて心臓に薬剤が集まりにくくなることで診断の一基準となる
- 脳血流シンチグラフィー
- 123I-IMPという薬剤を注射し、脳の血流について調べる検査
- 脳の血流に異常があれば、その部位の脳機能に異常が起こっているとわかる
- とくにレビー小体型認知症では後頭葉の血流低下がよく見られる
- ダットスキャン検査
- ダットスキャンという薬剤を注射し、脳内の線条体という部位に集まる程度を調べ、ドーパミン神経の変性や脱落を評価する
- レビー小体型認知症のほか、パーキンソン病(パーキンソン症候群)などでもドーパミン神経が変性・脱落することから、薬剤が集まりにくくなる
- 脳波検査
- レビー小体型認知症では、後頭部の徐波化(活動が低下していると考えられる)が特徴的
- その他にも前頭部に多く徐波化が見られたり、側頭葉に一過性の鋭波が混入したりすることがある
- 血液検査
- ビタミン欠乏症・甲状腺機能低下症・橋本脳症・血糖異常・電解質異常・肝性脳症・尿毒症・感染症など、認知症を引き起こすその他の原因疾患があるかどうかの検査
- 血液成分や一般生化学検査のほか、ビタミンB1・B12・葉酸・甲状腺ホルモン・アンモニア・梅毒血清反応などを検査する
レビー小体型認知症は、他のタイプの認知症とは異なり、脳の萎縮や死滅はあまり目立ちません。そのため、MRIやCTなどの画像診断だけでは判断ができない場合がほとんどです。そこで、神経心理検査や脳波検査、血液検査などを行い、他の認知症や疾患の可能性がないかどうかを含めて総合的に判断します。
神経心理検査の「パレイドリア」とは、壁のしみ・木目・雲などが人の顔や動物に見えるような錯視のことを言います。これは、レビー小体型認知症に特徴的な幻覚(幻視)の症状としてもよく見られます。そのため、パレイドリアテストでは風景画像の中に見えないはずの人の顔や動物などの錯視が見えるかどうかを検査するのです。
他にも、神経心理検査では認知機能・記憶・実行機能などについて、口頭質問のほか、文字・図形・絵などを描いてもらって検査します。レビー小体型認知症の場合、アルツハイマー型認知症の患者さんが苦手とする記憶や計算機能の課題についてはあまり問題がなく、逆に時計を描画するなどの視覚を使った課題が苦手な傾向があります。
検査以外には、幻覚やレム睡眠障害、パーキンソン症状など、日常生活でレビー小体型認知症に特徴的な症状が現れているかどうかが診断の非常に大きなポイントとなります。ですから、正しい診断のためには、周囲の人や介護者が本人の症状をよく把握し、できればある程度記録しておくなどして、医師にきちんと伝えることが大切です。
レビー小体型認知症の治療内容は?
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症など他の認知症と同じように、根本的な治療方法があるわけではありません。そのため、多彩に現れる症状それぞれに対して、対処療法的な治療を行い、進行を遅らせるケアが中心となります。方法としては薬物療法、リハビリテーション、食事療法などがあります。それぞれ、以下のように症状に対してアプローチしていきます。
- 認知機能障害や幻覚
- アルツハイマー型認知症の治療に使われる「ドネベジル」「リバスチグミン」などの薬がレビー小体型認知症の認知機能障害や幻覚・妄想などの症状にも有効
- 副作用として、吐き気・嘔吐・食欲不振などが見られることがあるので、少ない量から飲み始める
- 幻覚や妄想に対しては、非定型型抗精神病薬の「クエチアピン」「オランザピン」なども有効
- 症状が緩和される必要最小限の使用にとどめ、パーキンソン症状の悪化や過鎮静・ふらつき・転倒などが出現しないか注意する
- 日常のケアにおいては、幻覚や妄想を否定せず、いったん本人の話を聞くことで安心してもらうのが重要
- パーキンソン症状
- パーキンソン病の治療に使われる抗パーキンソン病薬「レボドパ」が有効
- 比較的幻覚や妄想などの精神症状が起こりにくい薬だが、まれに悪化することもあるため、少ない量からはじめて増量も必要最小限にとどめる
- その他の抗パーキンソン病薬「ドーパミンアゴニスト」「抗コリン薬」などは、幻覚などの精神症状を悪化させるため基本的に使わない
- 認知機能が比較的良いときを見計らい、リハビリテーションを行うことも
- ストレッチ・筋力強化・バランス訓練・運動プログラムなどの理学療法は、歩行速度やバランスを改善し、転倒しにくくする
- レム睡眠行動異常症
- クロゼナパム」が有効であると確認されている
- 鎮静作用があるため、早朝の過鎮静・ふらつき・転倒に注意が必要
- 一般的には、投与量を調整して飲み続けることが可能
- 便秘
- 緩下剤(下剤の一種)や、消化管運動改善薬「モサブリド」「ドンペリドン」などが使われる
- 食物繊維を豊富に含む、野菜類・いも類・豆類・キノコ類・パンなどを食べる食事療法も有効
- 起立性低血圧
- 弾性ストッキングを着用し、血圧を上げる
- 昇圧薬(血圧を上げる薬)「ドロキシドパ」「ミトドリン」「フルドロコルチゾン」などが使われることも
- 失神予防として、立ち上がるときはゆっくりと行い、眼前暗黒感が現れたらしゃがみこんだり、横になったりするなどの指導をする
- 脱水状態だと血圧が下がりやすいため、普段から水分補給を十分にするとともに、汗をかきすぎないよう室温調節に気をつける
レビー小体型認知症の特徴的な症状として、薬剤への過敏性もあります。ですから、薬物療法を行う際は副作用を起こさず適切な効果を引き出せるような量に調整するのが非常に難しいのです。信頼できる主治医・看護師・薬剤師などと密に連携し、服薬後の体調や、薬剤の量を変更した後にどんな変化があったかなど、よく観察して報告していきましょう。
また、動作に支障が生じるパーキンソン症状に対しては、投薬が行われることもありますが、基本的には運動療法としてリハビリテーションを行います。理学療法士などに指導を受けながら、散歩などの日常的な運動、ストレッチ、バランス訓練などを行っていきましょう。
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おわりに:レビー小体型認知症は幻覚とパーキンソン症状に対する治療が中心
レビー小体型認知症に特徴的な症状として、幻覚とパーキンソン症状があります。パーキンソン病と同じレビー小体という特殊なタンパク質が脳内に蓄積することで起こるため、同じような症状が出るのです。
これらの症状に対しては薬物療法のほか、リハビリテーションが行われます。薬物療法の場合、レビー小体型認知症の症状の1つとして薬剤への過敏性がありますので、慎重に投与量を調節する必要があります。
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