超高齢化社会と呼ばれる日本では、今や4人に1人は高齢者という状態です。高齢者の認知症発症率は10〜20%程度ですが、そのうち半数以上はアルツハイマー型認知症と呼ばれる、アルツハイマー病という疾患によって引き起こされる症状です。
このアルツハイマー型認知症は、もの忘れが大きな特徴ですが、嚥下障害にはどんな特徴があるのでしょうか?また、どのように症状が進んでいくのでしょうか?
アルツハイマーの嚥下障害にはどんな特徴がある?
嚥下障害とは、食べ物をうまく飲み込めないという状態です。主に以下のような症状が現れると、嚥下障害ではないかと考えられます。
- 食べるとむせる
- 固形物を噛んで飲み込む一連の動作がやりにくい
- 食事に時間がかかる、食べると疲れる
- 食べものが口からこぼれる
- 飲み込んでも、口の中に食べ物が残っている
アルツハイマー型認知症では、これらのうち「食べるとむせる」といった「誤嚥」の症状は出づらいとされています。むせるのは食べたものや唾液などが食道ではなく気管に入ってしまうからですが、身体機能があまり低下しにくいアルツハイマー型認知症では、このような異常な身体反応はほとんど起こらないと考えられるからです。
というのも、アルツハイマー型認知症によってダメージを受ける脳は、主に記憶をつかさどる「海馬」を中心とした大脳皮質の部分であり、身体機能・生命維持に必要な「脳幹」を構成する「延髄」の部分はほとんどダメージを受けないからです。とくに、初期の食事に関する困難は料理の手順を忘れる程度のごく軽いものです。
つまり、アルツハイマー型認知症で嚥下障害が起こる場合「噛んだ食べ物を喉に送り込みにくい」「食べ物を口に入れすぎてこぼれてしまう、喉に送り込みきれない」などの症状が多いのです。また、「目の前の食べ物を認識できず、食事を始められない」ということや「食事以外の刺激が多く、注意が他に向いて食事をやめてしまう」ということもあります。しかし、喉そのものは正常に機能していることが多く、喉まで食べ物が辿り着けば普通に飲み込めることがほとんどです。
ですから、逆に誤嚥をするかどうかがアルツハイマー型認知症かどうかの診断ポイントの1つにもなりえます。誤嚥をしていなければアルツハイマー型認知症の可能性が高く、誤嚥をしていれば他のタイプの認知症なのではないかと考えられるのです。
ただし、脳卒中を合併している場合や、後期になって歩行障害・運動障害などの身体症状が現れる頃になると、アルツハイマー型認知症でも誤嚥の症状が見られるようになります。
アルツハイマーの嚥下障害の症状の進み方は?
アルツハイマー型認知症の食事に関する困難の症状は、初期・中期・後期と以下のように進んでいきます。
- 初期:脳の萎縮も症状の出方もごく軽度
- 食べたことを忘れてしまう
- 食器の使い方がわからなくなる
- 中期:脳の萎縮が進み、失行や失認などの症状が顕著になってくる
- 食事が認識できず、食べ始められない
- 食事以外の刺激に反応して、途中で中断してしまう
- 食事のペースが乱れる
- 手を使って食べてしまうなど、介助量が増える
- 後期:脳の萎縮が重度になり、嚥下機能自体が障害される
- 口の中の食べ物をうまく粥状にまとめられなくなる
- 口の中に食べ物を溜めたままになり、喉に送り込めなくなる
- 誤嚥を起こすようになり、窒息のリスクが高まる
- 傾眠や意識レベルの低下により、食事がしづらくなる
- 食べる量そのものが減ってくる
このように、アルツハイマー型認知症では、初期にはほとんど食事機能そのものには障害が起こりません。しかし、もの忘れの症状は顕著なため、使い慣れない食器の使い方を忘れてしまったり、食べたことを忘れてしまったりすることはあります。
中期になると、脳の萎縮が進んできますので、口に入れるまで、食事を始めるまでの「食行動」と呼ばれる部分の障害が増えてきます。注意力も散漫になってくるため、食事以外の刺激が多いと食事を中断してしまうなど、食事ペースが乱れるようになってきます。また、人によっては誤嚥もしばしば見られるようになることもあります。
後期になると、誤嚥をはじめとしたさまざまな嚥下障害が現れます。口の中に食べ物を溜めたままにしてしまったり、意識レベルの低下や傾眠によって食事がしづらくなったりという症状が増えてきます。そのため、食べる量が少なくなってきます。
アルツハイマー型認知症に限らず、認知症ではその時期(ステージ)ごとに嚥下機能の特徴があります。また、すべての人で一律に症状が出るわけではなく、個人差も大きいため、その人それぞれの性格や習慣なども鑑み、食事の様子を注意深く観察しながら介助を行うことが大切です。
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おわりに:アルツハイマー型認知症では、誤嚥は後期までほとんど起こらない
アルツハイマー型認知症はもの忘れが特徴的ですが、逆に身体機能障害は初期〜中期にはあまり現れないことも大きな特徴です。嚥下障害には食べ物を喉に送れない、食べ物が食道でなく気道に入ってしまう誤嚥、などが考えられますが、このうち誤嚥は起こりにくいです。
しかし、アルツハイマー型認知症でも後期になると誤嚥も含めた嚥下障害が現れます。症状には個人差も大きいため、食事の様子をよく観察しながら介助を行いましょう。
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