高齢化社会が進む日本社会で増えているのが、一人暮らしの高齢者です。子供が都市部に移住し、配偶者と離別して一人で暮らす高齢者も多いですが、突然倒れて孤独死をしたり、オレオレ詐欺などの犯罪被害に遭ったりなど、高齢者の一人暮らしには様々な問題が伴います。今後家族はどう支援をしていくべきなのでしょうか。
高齢者の一人暮らしには、火事や孤独死、犯罪被害などのリスクが
一人暮らしの高齢者は年々増加傾向にあり、2025年には約680万世帯の高齢者(高齢者世帯のおよそ37%)が一人暮らしをすると見込まれています(厚生労働省「今後の高齢化の進展~2025年の超高齢化社会像~」)。
「親は一人暮らしをしているが、元気そうだし、本人も大丈夫だと言っている」という認識のご家族もいらっしゃいますが、高齢者が一人暮らしを続けると、下記のような問題に直面することがあります。
生活意欲の低下
一人暮らしの高齢者は、日常的に人と関わる機会が少ないです。そのため、日常的な喜びや生きがいを見いだせていない人が約17%もいることがわかっています(内閣府「平成28年度 高齢者の経済生活に関する意識調査」)。
認知症の進行
内閣府の将来推計によれば、認知症の患者数は2012年時点では約462万人(高齢者の1/7の割合)でしたが、2025年には約700万人(高齢者の1/5の割合)にまで増えると見込まれています(内閣府ホームページ)。
このデータが示すように、一人暮らしの高齢者が認知症にかかってしまったり、もともと認知症だった高齢者が離別により症状が進行してしまうケースは少なくありません。すると近所と住民トラブルを起こしたり、後述するような犯罪被害に遭ったりする可能性があります。
振り込め詐欺などの犯罪被害
内閣府の調査によれば、振り込め詐欺の被害者の80%超は60歳以上で、特に高齢者はオレオレ詐欺や還付金詐欺の被害者になるケースが多いです。
また、70歳以上になると、訪問販売などで消費者トラブルに巻き込まれるケースも高い傾向にあります(内閣府「令和元年版 高齢社会白書」)。特に認知症の高齢者は、判断能力の低下からこういった消費者トラブルや詐欺被害に遭いやすいので注意が必要です。
火事
住宅火災による高齢者の死亡者数は、年々増加しています。一人暮らしかつ認知症の高齢者の場合は、ガスの消し忘れによって、火事につながるケースもあると報告されています。
孤独死
周囲との交流が少ない一人暮らしの高齢者が、突然病気や怪我で倒れて寝たきりになると、そのまま孤独死を迎えることがあります。孤独死は東京23区内で増加傾向にあり、平成29年には3,333人が孤独死をしたと報告されています。
一人暮らしの高齢者のおよそ半数以上は、孤独死を身近な問題だと感じていることもわかっています(内閣府「令和元年版 高齢社会白書」)。
高齢者の一人暮らし、家族はどう支援していくべき?
一人暮らしの高齢者の異変に気付き、孤独死や犯罪被害等を防ぐためには、家族の支援が不可欠です。具体的には、下記のような対策を検討する必要があります。
親との同居
高齢で一人暮らしの親とは、同居を検討しても良いでしょう。特に認知症の高齢者は腐ったものを食べてしまったり、暑くてもエアコンをつけずに脱水を起こしたり、火を付けっぱなしにしてしまったりするので、同居によってそうした事故を未然に防ぐことができます。
同居のデメリット:介護うつや介護離職
高齢の親が認知症などで介護を必要とする場合、同居した家族の負担が増えてしまうというデメリットがあります。子育てと介護の両立、または仕事と介護の両立ができずに「介護離職」をしてしまったり、そこから経済的負担が増えて「介護うつ」になってしまうと、親子で共倒れする恐れもあるでしょう。
介護する側の生活や心身の健康を守ることも大切なので、同居生活で介護しながら仕事をする場合は、介護休暇や介護休業制度を上手に活用しつつ、介護離職はなるべく避けることをお勧めします。
訪問介護などの介護サービス利用
訪問介護とは、介護福祉士やホームヘルパーが高齢者の家を直接訪問し、食事や入浴、排泄、掃除、洗濯、通院時の外出サポートをしてくれるサービスです。要支援1~2、要介護1~5に該当すれば、訪問介護を受けることができます。
「高齢の親と同居はできないけれど、自分が介護に行く余裕がない」「高齢の親と同居したが、仕事も両立したいので頻繁にお世話ができない」という人は利用を検討してみると良いでしょう。委託する際は当然費用が発生するので、前述のように、介護離職を避けた方が利用しやすいサービスになります。
訪問介護サービスを利用する前に、自治体に相談を
各市区町村には、高齢者の介護サービス導入や健康増進支援をする「地域包括支援センター」が配置されています。介護サービスを受けたい、内容について相談したい等の要望がある場合は、まずはここで専門家のアドバイスを聞くようにしましょう。
「見守りサービス」の利用
高齢者の一人暮らしや孤独死が問題化してきている現代では、様々な自治体、民間業者が一人暮らしの高齢者向けの「見守りサービス」を提供しています。
担当者が遠方の家族に代わって訪問し、高齢者の様子を直接見てくれたり、高齢者の自宅にセンサーやカメラを置くことで家族が安否確認をできるようにしたり等、たくさんの種類の見守りサービスがあります。サービス内容によって費用は大きく異なるので、経済事情や高齢者の健康状態に合わせ、適切なものを選んでみると良いでしょう。
自治体支援の活用
自治体による一人暮らしの高齢者支援は、「地域包括支援センター」だけに留まりません。自治体によっては高齢者の安否確認や緊急通報システムの設置、配食サービスなどを提供している場合があります。
「同居は難しいけれど、代わりに地域で親の安否を確認してほしい」という人は、高齢のご家族が済む自治体のホームページから、利用できるサービスがないか確認してみましょう。
成年後見人になる
高齢になると判断能力が衰え、さらに認知症を患ってしまった場合は、日常的な判断がさらに難しくなります。すると詐欺の被害に遭ったり、不要なものを外出やネットショッピングで買ってしまったりと、別のトラブルに発展するケースもあります。
そういった判断能力に不安のある高齢者に代わって、日常生活に必要な金銭管理・契約等を支援するのが「成年後見制度」です。高齢者の家族が成年後見人になっていれば、後見人の同意を得ずに行った不利益な契約などを後から取り消すことも可能になります。
成年後見制度には、下記の2種類があります。
- 法定後見制度
- 既に判断能力が不十分な時、申し立てによって家庭裁判所で選任された後見人をつけ、本人に代わって財産や権利を守る制度。
- 任意後見制度
- 判断能力が将来的に不十分になった時に備え、本人が任意後見人を選び、公正証書で任意後見契約を結ぶ制度。
できれば高齢者の判断能力があるうちに、「任意後見人」を選んでおくのが勧められます。任意後見人は家族や親戚、友人、弁護士、司法書士や法人、または複数の人を選ぶことも可能です(ただし、未成年者や破産者、本人に対して訴訟をした直系血族や配偶者、不正行為をした者などは対象外)。
おわりに:一人暮らしの高齢者を支援するには、家族がたくさんの選択肢を知っておくことが重要
一人暮らしの高齢者は、元気に見えても突然病気や怪我で倒れることがあります。ただ同居をすると、今度は子供が介護離職や介護うつなど、別の問題を抱えてしまう可能性もあるので、「一人で頑張らない」ための支援やサービスを活用することも大切です。成年後見制度など、事前に知っておくと役立つ制度もあるので、親や家族が元気なうちに話し合うようにしましょう。
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