移動介助とは、疾患による麻痺や加齢による筋力低下などにより、自力での移動が難しい高齢者に対し、移動に関わる動作をサポートするものです。体位変換よりもさらに本人にも介助者にとっても負担の大きい介助ですから、正しい方法で安全に行わなくてはなりません。
この記事では、移動介助の基本動作を行う手順やポイントについてご紹介します。
移動介助って?
移動の介助とは、人間が生活していく上で必要な「起き上がる・座る・歩く」などの移動に関わる動作をサポートすることです。日常生活において、食事・排泄・衣類の着脱など、さまざまな場面で移動が必要になりますので、一人ひとりの生活スタイルに合わせた細やかな介助を行わなくてはなりません。
そのため、移動介助の前には以下のようなポイントを確認しておく必要があります。
- 本人の移動能力や、介護の指示の理解力はどのくらいか
- 普段はどのような方法(杖などの介助器具の有無)で移動を行っているのか
- 服装や履物、装身具など、介助者自身の身支度は万全か
- 車椅子のシートはたるんでいないか、ブレーキは効くかなど必要な器具の点検
訪問介護でも、居宅やデイサービスなどの介護でも、移動介助は常に避けることのできない重要な介助です。いかに安全に、本人にも介助者自身にも負担をかけずに行うかがポイントです。
移動介助はどういう手順ですればいいの?
日常生活における「移動」の基本動作は、「寝返る・起き上がる・立ち上がる・座る・歩く」の5種類で構成されています。どんなに複雑な移動介助(移乗介助)を行うときでも、この5種類の基本動作に対する介助を組み合わせて行います。まずは、この5つの基本動作の介助方法から見ていきましょう。
寝返りの介助
主に着替え・おむつ交換・シーツ交換などの際に行われる動作です。とくに寝たきりの人の場合、床ずれや血行障害などを防ぐ目的でも寝返り介助をする必要があります。具体的には、以下のような手順で行います。
- 介助者は寝返りをする方に立ち、ベッドに片膝をつく
- 本人の両膝を片足ずつゆっくりと立て、両腕を胸の前で組んでもらう
- 無理のない範囲で頭を少し上げ、顔と視線を寝返る方に向けてもらう
- 膝と肩を支えながら、ゆっくりと寝返る側に引いていく
寝返りの介助を行うときのポイントは、この手順で行うことでベッドとの接地面積を少なくし、本人にも介助者にも負担を少なくすることです。加えて寝返る側に顔を向けておいてもらうことで、楽に重心を移すことができます。
起き上がる介助
主に食事・入浴・排泄などのために部屋を移るときに必要な移動です。ベッドから起き上がる介助の場合、ベッドから転がり落ちないよう気をつけましょう。起き上がる介助は、以下のような手順で行います。
- まず寝返る方向と反対側に体をずらし、腕をつけるスペースを確保する
- 起き上がる側に寝返り介助を行い、体を横向きにする
- 介助者は、本人がベッドの端に座ったときに体を支えられる位置に立つ
- 介助者の腕を本人の首の下から差し入れ、もう片方の腕を本人の膝に添える
- 両足(膝から足先まで)をベッドから下ろす
- 本人の上半身を起こし、ひじ立ちの状態になるようにする
- てこの原理を使い、お尻を軸にして頭が弧を描くような動きで起こす
- 本人がベッドの端に座る姿勢になったら、倒れないよう支える
起き上がり介助のときは、本人との間に適度なスペースを作り、動きの邪魔にならないよう気をつけましょう。また、その後で車椅子への移乗も続けて行う場合、あらかじめ車椅子も適切な位置にセットしておきましょう。
立ち上がり、座る介助
立ち上がって座るという一連の動作は、主に車椅子を使うときに必要な動作です。車椅子をベッドの側面に対して10〜30度の角度(本人の状態に応じて変える)で設置し、必ずブレーキをかけ、フットサポートを上げておきます。片麻痺がある場合は、麻痺がない側に車椅子を設置しましょう。
立ち上がる動作の介助は、以下の手順で行います。
- 本人の両足が床につくようお尻をずらし、浅めに座ってもらう
- 本人の両腕を介助者の肩に回してもらう
- 介助者は足を大きく開き、腰を低くして両腕を本人の背中に回す
- 介助者の肩を本人の胸に合わせ、前傾姿勢で立ち上がる
そして、そのまま続けて車椅子に座る動作も行います。
- 介助者の車椅子に近い方の足を軸足にし、車椅子に向き合う形に方向転換する
- 本人にアームサポートを掴んでもらいながら、ゆっくりと浅く座ってもらう
- 介助者は車椅子の後ろ側へ回り、本人の両脇下から腕を入れる
- 本人の上半身をやや前傾させ、少し引き上げるように手前側(車椅子の背側)に引き、深く座ってもらう
- フットサポートを上げ、本人の両足を乗せる
車椅子に移動(移乗)するときは「車椅子の座面とベッドの高さを同じくらいに揃える」「方向転換するときは、本人の無理のない姿勢で少しずつ」という2点に気をつけましょう。
歩く動作や杖歩行の介助
歩く介助では、本人の横に立って腰を支えながら、反対側の手で本人の手を下から支えるように軽く握り、歩調を合わせてゆっくりと歩きます。動きやすい衣服と滑りにくい靴を選んでもらい、段差や溝などに注意しましょう。片麻痺のある人では、介助者は原則として麻痺のある側に立ち、そちらを支えるようにして移動します。
杖歩行の介助は、以下の手順で行いましょう。
- 杖の固定ネジのゆるみや杖先ゴム(チップ)のすり減りがないか確認する
- 原則として、麻痺などのない側の手で杖を持ってもらう
- 介助者は杖を持った手と反対側に立ち、「杖→調子が悪い側の足→健康な足」の順に歩いてもらう
杖の長さは「足先から外側に約15cm離して杖先をついたとき、ひじが約150度に曲がる長さ」を目安として調節します。この目安がわかりにくい場合は「立った状態で腕を自然に下ろし、床面から手首の骨の出っ張り(茎状突起)までの高さ」を目安にしましょう。最初に杖を選ぶときは、理学療法士などの専門家に相談してアドバイスを得るのがおすすめです。
杖歩行の介助では、以下の4つのポイントに気をつけましょう。
- 転倒予防のため、杖先のゴム(チップ)はすり減ったら取り替える
- 杖を健康な側に持つことで、より安定した歩行にする
- 杖をつくとき、原則として介助者は杖の反対側に立つ
- 本人が右足を出すときには介助者も右足を出す、というように揃えるとぶつからず、歩きやすい
杖を使って階段の上り下りをするには?
階段に手すりがある場合は、介助者が杖を預かり、手すりにしっかりつかまってもらいながら上り下りします。手すりがない場合、介助者は本人の一段斜め下側(上る時は斜め後ろ側、下るときは斜め前側)に立ち、「杖を一段先に出す→調子の悪い側の足を出す→健康な足を出す」の順で階段を上ったり下りたりします。
移動・移乗介助で気をつけることは?
移動・移乗介助全般においては、以下のようなことに気をつけましょう。
- 本人の身体能力をよく把握し、自宅の環境にも注意しながら介助する
- 転倒や転落のリスクをできるだけ予測し、事故が起こる前に防ぐ
- 介助前はもちろん、一つ動作を行うごとに声かけをしていく
- 本人の動きについていくのではなく、介助者が先に動いて誘導しながら一緒に行動することを意識する
本人の身体機能の維持・向上のため、介助は必要最低限にするのが望ましいですが、とくに歩行の際は本人が歩くのに介助者がついていくのではなく、介助者がやや先回りして動きを誘導するようにすると良いでしょう。できるだけ本人の力で移動したり歩いたりしてもらうことで、意欲や自立の意識を高められます。もし、介助が難しい場合には、専門家に相談するなどして適切な福祉用具を使うのも1つの方法です。
おわりに:移動介助を正しく安全に行うため、手順をしっかり意識しよう
移動介助は、体位変換よりもさらに介助者にとっても本人にとっても負担のかかりやすい介助です。そのため、手順通りに正しく行うこと、転倒や転落などのリスクを常に意識し、介助者が予測しながら防ぐことが大切です。
車椅子に乗る場合はベッドの高さに合わせておくこと、杖で歩行する場合は杖の長さを本人の体格に合わせることなども必要です。一人ひとりの体の状態やライフスタイルに合わせた介助を行いましょう。
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