発症している認知症の種類によっては、症状の1つとして被害妄想や、妄想による家族・介護者への暴言などが現れることがあります。
今回は、認知症によってどのような被害妄想が現れやすいのか、その特徴や周囲の適切な対処法などについて、解説していきます。
認知症の人が抱く被害妄想の種類
認知症の人の被害妄想は、認知症が進むことや老化への不安、周囲への不満、日ごろの寂しさや尊厳が傷つけられたと感じた悲しみなど、複数の感情から生じるとされます。
認知症の人が抱きやすい被害妄想のパターンとしては、以下が挙げられます。
物盗られ妄想
ご近所さんや家族など、身近な人にカギや財布、現金など「私の大切なものを盗まれた!」と妄想してしまうパターンです。
本人の記憶違いで大切なものの置き場所を忘れてしまったことへの羞恥心や、以下のような理由から自尊心を傷つけられたと感じたことがきっかけで起こるとされます。
- 大切なものの置き場所を忘れた事実を、認めたくない
- ずっと家計を預かっていたのに、誰かが私から役割ごと財布を奪ったに違いない
- 宝飾品がなくなったのは、身近な人が盗って恋人にあげたに違いない など
暴言・暴力を受けているという妄想
家族や介護をしてくれている周囲の人に「みんなが私に怒って、悪口を言っている」「のけ者にして、虐待してくる」などの妄想を抱くパターンです。
このような妄想は、以下のような思考になることで起こるとされます。
- 認知症状に不安を感じる家族の表情や話し方を見て、悪口を言っていると勘違いする
- 自身が抱く認知症への不満や不快感を周囲に投影し、周囲が自分に怒っていると感じる
いずれも認知症による認知能力の低下や感情の暴走によって起こるものですが、警察などに訴えられると家族が虐待の疑いをかけられ、大事になることもあるようです。
対人関係にまつわる妄想
配偶者が浮気をしている、または、特定の人物が家に度々侵入しているなど、対人関係にまつわる妄想をしてしまうパターンです。
例えば、「特定の若い男が、しょっちゅう家に来て勝手に食事している」「夫が息子の嫁と不倫している」など、非現実的ながら生々しい妄想をするのが特徴です。
このような妄想の背景には、以下のような心理・原因が隠れていると考えられます。
- 妻や夫など、家庭のなかの居場所を失っていくことの悲しみや孤独感
- いつも頼り、相談してくれていた人が頼ってくれなくなったことへの寂しさ
- 上記の理由から、自分には生きている価値がないように感じるようになる
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認知症の人の被害妄想へは、どう対応すればいい?
前項でご紹介したような認知症による被害妄想は、家族や介護サービス事業者、近隣の人など身近な人に対して行われるケースが多いです。
ここからは、自分が認知症による被害妄想の登場人物になった、または認知症の人の被害妄想を訴えられた場合の適切な対応方法をご紹介していきます。
基本的な対応方法
- 本人は妄想を事実と想い悲しみや憤りを感じているので、否定せず最後まで話を聞く
- 否定され何度も話していると、感情はより強くなります。どのような内容でも話は一旦、最後まで聞いてください。
- 妄想を全面的に肯定したり、解決策を示す必要はない
- 認知症の人は「話を聞いてほしい」「私の気持ちをわかってほしい」という想いで妄想内容を話していることが多いです。本人の感情や立場を受け止めてあげましょう。
被害妄想の種類別、具体的な対応方法の例
- 物盗られ妄想の場合
- 否定も肯定もせず、まず「大切なものをなくして困っている事実」に着目して話を聞きます。その後は一緒に紛失物を探し、自分で見つけられるよう手伝ってあげてください。
- 暴言・暴力を受けているという妄想の場合
- 虐待の訴えは、事実・妄想のいずれの可能性も考えられます。大きなトラブルになる前に、ケアマネジャーなど介護専門職の人を第三者として呼び、一緒に話を聞きましょう。
- 対人関係にまつわる妄想の場合
- 配偶者とのつながりや、自分の役割・居場所を確認できるようにすると、対人関係の妄想は落ち着きやすいです。配偶者が丁寧に接する時間を長くしたり、定期的にアドバイスを求めるようにして、本人の役割を確認させてあげましょう。
認知症に被害妄想は、話を聞くだけでも自分が妄想の対象となるのも、どちらも辛いものです。一人で戦わずに、地域包括支援センターやケアマネジャーの助けを借りてくださいね。
おわりに:認知症の人が抱く被害妄想は、複雑な感情や悩みの現れ
認知症の人の一部は、症状として物盗られや虐待、対人関係にトラブルがあるなどの被害妄想をすることがあります。これらの多くは、認知症で脳の機能が低下し感情のコントロールが難しくなることで、老化や認知症への不安や負の感情が暴走した結果です。
妄想に関する訴えをされたら専門職の助けも借りつつ、まずは否定も肯定もせず、話をすべて聞いてあげましょう。本人の感情や立場に着目することで、妄想症状が軽減することも期待できます。
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