認知症は、複数の原因疾患からさまざまな症状を発します。このため、症状の現れ方に個人差が大きくなるのが特徴です。
今回は、認知症状のなかでも特に個人差の大きい「周辺症状」について、その定義や進行のきっかけ、対応のうえで心がけるべきことをご紹介していきます。
認知症の周辺症状ってどんな症状のことなの?
認知症状には、大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」と呼ばれるものがあります。このうち「周辺症状」は、認知症そのものによる脳機能の低下に付随して起こる「外界への神経機能の反応」だと考えられている症状のことです。
別名BPSD(Behavior and Psychological Symptoms of Dementia)とも呼ばれる認知症による周辺症状では、以下のような行動・精神症状が現れます。
認知症の周辺症状
- 行動症状
- 体内時計がくるってしまうことで、眠りすぎや不眠症状を伴う「睡眠障害」
- 認知症により、介護者への不安や不信を感じるようになるため起こる「拒絶」
- 記憶障害や失認から、食事をうまく摂れなくなってしまう「過食や異食」
- 記憶障害や見当識障害で、外出の目的や現在地を見失うことによる「徘徊」
- 脳内の神経伝達物質量の変化による、介護者や周囲の人への「暴言・暴力」
- 排便が困難になることへの不快感や不安から来る「不潔行動」
- 精神症状
- 失敗することや孤独による、将来への不安から生じる「不安や焦燥感」
- 認知症による脳の機能低下が原因で、いないものの存在を感じる「幻覚・幻聴」
- 認知機能の低下の影響を受けて起こる「抑うつ気分・物事への意欲の低下」
- 実際には起こっていないことを強く信じ込み修正できなくなる「妄想」
周辺症状は何をきっかけに進んでいくの?
認知症による周辺症状は、以下のような認知症による中核症状から派生するかたちで発症・進行していきます。
- 認知症による中核症状の例
- 自分の行動や発言・約束などを忘れる記憶障害
- 自分の居場所や外出の目的・時間や季節がわからなくなる見当識障害
- 排泄や食事の段取り、手順がわからなくなってしまう実行機能障害
- 言葉の理解や、発言が難しくなる失語
- 衣服の着脱法や、品物の使用方法を理解できなくなる失行
- 目に見えるものや聞こえる音を、正しく認識・理解できなくなる失認
例えば、自分の行動・発言・体験・約束を忘れてしまう記憶障害は、混乱や周囲の家族・介護者への疑いを生じさせ、妄想や拒絶、暴言・暴力の周辺症状の原因となります。
認知症の周辺症状は、認知症の中核症状を経験することで生じ、少しずつ募っていく不安や混乱をきっかけに発症し、進行していくのです。
周辺症状へ対応するときに心がけること?
周辺症状は、進行すると本人と周囲の介護者の日常生活を妨げ、生活の質を著しく下げたり、介護上の経済的負担を増やす一因ともなってしまいます。
以下を参考に適切に対応して、認知症による周辺症状の改善・軽減をめざしましょう。
- 認知症の周辺症状が現れたら行うべき、適切な対応方法
- まず本人の身体状態、周囲の環境・対応の仕方など、幅広く目配りして原因を探る
- 原因が見えてこないときは、ひとまず本人の自尊心を傷つけないよう対応してみる
- 本人の混乱や疑いを解く説明と、家庭内の役割を担わせ自尊心を保つことを心がける
- 介護者側は、認知症の周辺症状が一時的なものであるという事実を正しく理解する
- 介護者側に周辺症状に対応する余裕のないときは、遠慮せずプロの力を借りる
一方で以下のような対応を取ると、認知症による周辺症状を進行させ、状況をより悪化させてしまう恐れがあります。
- 認知症の周辺症状を悪化させてしまう、誤った対応方法
- 混乱している本人に対し、頭ごなしに叱責したり無視したりする
- 認知症の初期段階で、自分の認知機能が失われることに不安・焦り・恐怖を感じている人から、役割や立場を奪ってしまう
認知症による周辺症状は適切に対処すれば改善しやすく、間違った対応をすれば悪化しやすいとされます。患者本人と介護者、双方のために適切な対応を知っておきましょう。
おわりに:認知症の周辺症状には正しく対応し、改善・軽減をめざそう
認知症による認知機能の低下ではなく、これに付随して発症・進行していく行動や精神症状のことを周辺症状と言います。別名BPSDとも呼ばれ、主に認知症の中核症状から起こる混乱や不安、周囲の人への不信感から生じるものです。認知症の周辺症状は、適切に対応すれば改善しやすく、誤った対応をすれば悪化しやすいとされます。患者本人と介護者の双方が少しでも長く快適に暮らせるよう、適切な対応を知っておいてくださいね。
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