「介護疲れ」という言葉を聞いたことはありますか?高齢者や障がい者などの介護をしている人が、文字通り介護に疲れてしまうことを言いますが、介護疲れが重症化すると、そのうち「介護うつ」といううつ病の一種に進行してしまうことがあります。
介護うつを防ぐためには、症状に気づいて早めに対策を取るのはもちろん、原因を知ってあらかじめ予防しておくことも大切です。ぜひ、この記事を参考にチェックしてみてください。
介護うつになると、どんな症状が出る?
「介護うつ」とは正式な病名ではありませんが、高齢者や障がい者などの介護をしている人がうつ病を発症することを指しています。もちろんうつ病の一種ですかられっきとした疾患であり、症状の程度によっては治療が必要になります。一般的なうつ病と同じように、初期の状態では本人も周囲も気づきにくく、気づかないうちに症状が進行してしまうことが多いため、注意が必要です。
もし、以下のような症状が見られたら、介護うつかもしれません。
- 食欲不振
- うつ病を発症した人の多くに現れる症状で、何を食べても美味しくないと感じ、食欲をなくしてしまう
- ものをあまり食べなくなるため、体重の減少にもつながる
- 睡眠障害
- 食欲不振と同様、うつ病の症状として多くの人に見られるものの1つ
- 寝つきにくい、眠っている間に何度も目が覚める、朝早く起きてしまい十分な睡眠がとれない、など
- 疲労感・倦怠感
- 激しい運動や長時間労働をしているわけではないのに、身体がすぐに疲れてしまう
- いつもだるさを感じたり、ひどい肩こりや頭痛がしたりする人もいる
- 身体が重く感じられるため、何をするのもおっくうになり、活動する気力が衰え、無気力になる
- 不安感・焦燥感
- 原因のわからない焦りや不安な気持ちがつきまとい、イライラして気持ちが落ち着かなくなる
- 人によっては、同時に騒音や物音が気になるなど、神経質になる傾向もある
- 憂鬱感・思考障害
- 気分が落ち込んで何事にも消極的になり、人との会話がおっくうに感じられる
- 周囲の出来事や話題に興味・関心が少なくなり、一人の世界に入り込むようになる
- 思考障害が起こると、頭が思うように働かず、仕事の効率が落ちる
- 物事をネガティブに捉えるあまり「自分なんかいないほうがいい」など、自殺願望に至ることもある
上記のような症状が1日中、そして連続して2週間以上続くようであれば、うつ病の可能性が高いと考えられます。症状が進行すればするほど、日常生活に支障が出てしまいますので、「もしかして、介護うつかも」と思ったら、早めに対策を取りましょう。
介護うつになってしまう原因とは?
介護うつになってしまう大きな原因は、身体的・精神的負担によるものだと考えられます。他にも、経済的な負担や認知症の人を相手にする負担なども考えられますが、やはり最も大きなものは精神的な負担です。そこで「精神的な負担」「身体的な負担」「その他の負担」に分け、具体的に見ていきましょう。
介護うつの原因①「精神的な負担」
介護者は、要介護者との関係の他にも、他の家族・親族との関係、介護スタッフとの関係など、さまざまな人間関係の間で板挟みになりがちです。こうした人間関係が煩わしくなると、さらに介護者は一人で介護を抱え込むことになり、どんどん孤立していきます。また、要介護者との関係では、良かれと思ってやったことが伝わらず苛立つ、要介護者の言動を受け流せず怒鳴ってしまい、そのたびに自己嫌悪に陥る、などの問題が考えられます。
そんなとき、他の家族・親族が非協力的だと、介護者は「自分だけが介護することを強いられて自由がない」と、さらにストレスを抱えていくことになります。介護に関わるヘルパーやケアマネジャーとの相性が悪くて介護サービスに不満があっても、なかなか言い出せないという人もいて、それが精神的な負担となるケースもあります。
一般的に、介護うつになりやすい人の性格には、以下のような特徴があると言われています。
- 責任感が強い
- 「自分の家族なのだから頑張らなくては」などという義務感が強くなりやすい
- 途中で疲れを感じたり、自分の体調が悪くなったりしても、他人に任せられず最後まで自力でやりとげようと自分を追い詰めてしまう
- 真面目で几帳面
- 身内の介護に対してもひたむきに、すべてをきっちりこなそうとしてしまう
- 自分のことよりも優先してしまうことがよくあり、そのぶん大きなストレスを感じやすくなる
- 完璧主義
- 適度な手抜きができず、「こうでなければならない」という自分の理想で自分を追い詰めてしまう
- 介護は一人で行うわけではなく、相手がいることなので、思い通りにならずストレスを溜めがち
そもそも、在宅介護者のほとんどは介護の専門的な知識も経験も少ないのに、突然大変な重労働をこなさなくてはなりません。しかも、要介護者が認知症だった場合、せっかく世話をしてあげても感謝の言葉がないばかりか、罵声を浴びせられることもあり、大きなストレスを感じやすくなります。
さらに、高齢者や認知症の場合、献身的に介護しても症状が良くなったり、体力が昔のように戻ったりするわけではありません。その点に対しても、やはり虚しさを感じてしまうことはあるでしょう。介護が長期化するにつれてこうした介護者の負担が増加し、「いつまで続くのか」と終わりが見えない不安にもつながっていきます。
また、家族や親戚の介護をするにあたり、誰か一人に介護の負担が集中してしまうことも介護うつにつながります。作業を分担することはもちろん、介護について相談できる相手を持たないと、介護者は抱え込んで精神的にも身体的にも孤立していき、本人も周囲も気づかないうちにうつ病が進行してしまいかねません。
頑張りすぎから燃え尽き症候群を発症する例もあります。心身が限界に達したとき、突然やる気を失い、何もかも嫌になって投げやりな思考になったり、現状への怒りや不満がつのったりするものです。介護の最中にも起こりますが、要介護者が亡くなった後、一気にやることがなくなって燃え尽き症候群になってしまうケースもありますので、注意が必要です。
介護うつの原因②「身体的な負担」
毎日の起床介助、座る場所や寝る位置を変える移動介助・体位介助、衣服の着脱、トイレや入浴の介助など、介護者は要介護者の身体を1日に何度も持ち上げたり、支えたりといった重労働を行わなくてはなりません。そのため、腰・膝・腕などに過剰な負担がかかってしまいます。さらに、散歩や通院に付き添うことによる疲れも発生します。
夜になったからしっかり眠って疲れを取ろう、と思っても、夜中に何度もトイレ介助やおむつ交換で起こされ、十分な睡眠がとれない介助者も多くいます。このような状態が続くと、当然介護者の身体には非常に大きな負担が積み重なっていきます。さらに介護者が仕事をしている場合、過労から体調不良を引き起こし、それがうつ病の引き金となるケースもあります。
介護うつの原因③「その他の負担」
その他の負担としては、経済的な負担や認知症介護の負担が挙げられます。経済的な負担としては、在宅介護のために直接かかる紙おむつ・防水シーツ・介護食品などの負担に加え、介護をするために仕事を辞めたり減ったりすると貯蓄や要介護者の年金に頼らざるを得ず、経済的な不安を抱えることも負担になりえます。
デイサービスなどの介護サービスは介護保険の支給がありますので、限度額内で使うという方法もあるのですが、支給までの間は先に払っておかなくてはなりませんので、一時的に経済的な問題が生じる可能性もあります。
また、認知症の介護は認知症でない人の介護よりも介護者の負担が大きくなりやすいです。要介護者が朝から晩まで同じことを繰り返したり、夜中に起きて探しものをするなど歩き回ったり、失禁が増えたり、介護者に暴言や暴力をふるったり、といったさまざまな症状に対応しきれず、介護者がどんどん疲弊してしまうケースは少なくありません。
認知症でない人は、夜中に起きるのはせいぜいトイレぐらいですが、認知症の場合は徘徊や探しものなど、予想もつかないことで何度も起きて物音を立てることもあります。そのため、認知症介護の人は睡眠不足の問題も起こりやすい傾向にあります。
介護うつを防ぐ方法はあるの?
介護うつを防ぐには、できるだけ上記のような原因を取り除き、あるいは軽減すれば良い、ということになります。うつ病を発症してしまうと治るまでに長い時間がかかりますから、介護うつになる前に予防しておくことが大切なのです。主に、以下の5つのポイントに気をつけ、介護うつを予防しましょう。
- 「一人でやらなければ」という思い込みをなくす
- 何もかもを一人で行うのは非常に難しいことを念頭に置いておく
- 介護者自身が弱ってしまっては介護が続けられないため、要介護者にとっても良くない
- 介護者自身が無理をしすぎないよう、家族や親戚・介護サービスなどに頼ることも必要
- 自分のストレスを自覚する
- 「いいことがあっても気分が晴れない」「物事に興味・関心がなくなってきた」「身体がだるくて、動くのがおっくう」などの場合は、一時的な疲れと思い込まない
- このような症状が出たときは「ストレスが溜まっている」のだと自覚する
- 手遅れになる前に自分のストレスを自覚し、そのつど発散させていくことが大切
- 誰かに相談する
- 介護のことで悩んだら、一人で抱え込まず家族・親戚・友人・プロのカウンセラーなどに相談する
- 小さなことであっても遠慮せず、誰かに聞いてもらうだけでも気持ちが軽くなる
- プロのカウンセラーに相談すると、アドバイスによって気づきを得られることも多い
- 介護に関する情報を集める
- いざというときに頼れるサービスや知識を増やしておくのも重要
- 地域包括支援センターや市町村の窓口、書籍、インターネットなどで情報を集める
- 自治体や福祉団体が講習会や研修会を無料で開催することも多い
- 認知症に関する知識や、実践的な移乗介助・褥瘡防止などを知れることも
- 介護サービスを利用する
- 介護は一人で行わず、必ず複数人で分担する
- 家族や親戚で分担し合うのも良いし、介護保険サービスだけでなく、介護保険外の有償サービスを組み合わせるのも良い
- 毎日の介護の一部を訪問ヘルパーに頼んだり、デイサービス・ショートステイなどを活用したりして、介護者が自分のための時間をとれるようにする
- 訪問ヘルパーや施設の専門家と時々接することで、普段とは違った要介護者の心身の様子に気づけることもあるので、このようなサービスは要介護者にとっても有益
おわりに:介護うつは、発症する前に予防することと、早めの対策が重要
介護うつはうつ病の一種で、高齢者や障がい者の介護をしている人が介護疲れののちに発症してしまう疾患です。一般的に真面目で責任感が強く、几帳面な完璧主義者が発症しやすい傾向にあります。
介護うつを防ぐためには、介護を一人でなく複数人ですることや、ストレスを上手に発散すること、介護サービスを上手に利用することなどが重要です。介護に関する情報を集め、行政の支援などを上手に使っていきましょう。
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