認知症は、一般的に高齢者の症状であり、加齢に伴う避けられない状態だと思っている人も少なくありませんが、最近ではそうではなく、何らかの疾患などの原因があることがわかってきました。認知症を引き起こす原因の疾患はさまざまですが、今回はアルコールが引き起こす認知症についてお話します。
アルコール性認知症とは?
アルコール性認知症とは、アルコールを大量に摂取したことが原因と考えられる認知症のことです。大量に飲酒する人は、若くても認知機能が低下したり、認知症の症状が見られますし、アルコール依存症の人は飲酒によって前頭葉の機能が障害されていることもよくあります。そして、高齢のアルコール依存症の人はもの忘れと認知症を高確率で発症しています。
認知症の原因疾患の中でも、アルコールは「多発性脳梗塞を含む脳血管障害」「頭部外傷」「肝硬変」「糖尿病」「ウェルニッケ・コルサコフ症候群を含む栄養障害」など、多くに関係しています。さらに、既に認知症になっている患者さんが自分をコントロールできなくなり、過度の飲酒をして問題を起こす例もあります。
動物実験では、アルコールを大量に投与すると脳障害が起きることがわかっていますが、人間の場合は脳障害との関連性はまだよくわかっていません。そのため、アルコールを大量に飲む人が認知機能に障害を持つ場合、その原因についてはよく検査する必要があります。検査の結果、アルコール以外に認知症の原因がないと判断されれば、アルコール性認知症と診断されます。
アルツハイマー性認知症などの神経変性疾患が原因の認知症の場合、進行性のため食い止めることはできても回復することはできませんが、アルコール依存症が引き起こす認知症の場合は長期間断酒を続けることで認知機能やもの忘れが改善することがあります。そのため、アルコールが脳の働きを悪くしていること、その変化は可逆的であることは間違いないようです。
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どのくらいの量を飲むと認知機能に影響するの?
認知症と飲酒量に関する研究では、高齢男性の1週間あたりの飲酒量と認知症のリスクを調査した結果があります。飲まない人のリスクを1とした場合、350mLのビールを1本として1本未満・1〜6本・7〜13本・14本以上の人では以下のようにリスクが変化することがわかりました。
- 1本未満…0.8
- 1〜6本…0.3
- 7〜13本…1.4
- 14本以上…2.3
この結果から、1〜6本程度の人で最も認知症リスクが少なく、7本以降は飲酒量に伴って認知症のリスクが上がっています。つまり、少量の飲酒はむしろ認知症リスクを下げてくれますが、1週間に7本以上飲酒する場合は認知症リスクが高まる、さらに量が増えるほど認知症リスクが高まることが示唆されました。
また、フィンランドの調査で中年期の飲酒と認知症の関係を調べた結果によると、非飲酒・低頻度(月に1回未満)・高頻度(月に数回以上)では、軽度認知障害のリスクが低頻度飲酒と比べて非飲酒で2.2倍、高頻度で2.6倍となることがわかっています。このことからも、少量の飲酒は認知症リスクを下げるものの、高頻度の飲酒はリスクを上げることがわかります。
さらに、ハワイの日系人男性を調査した研究結果によると、中年期の非飲酒者と大量飲酒者(1日に350mLのビール4本相当を超える飲酒量)は高齢になったとき、認知機能が最も低下する、逆に1日にビール1本相当以下の飲酒量の人は、高齢になったときの認知機能の低下が最も少ないことがわかりました。また、少量から中等量の飲酒は、高齢になったときの認知機能の低下リスクを22〜40%下げるという結果も出ています。
認知症の施設に入所している高齢者の29%は、大量飲酒が原因と考えられるという調査結果もあります。また、別の調査で、過去に5年間以上アルコールを乱用したり、大量飲酒をしたりした高齢男性は、そうした経験のない男性と比べて認知量リスクが4.6倍、うつ病のリスクが3.7倍になることもわかっています。
以上のことから考えると、少量から中程度の飲酒は認知症リスクを下げる、あるいは関係しませんが、大量の飲酒は認知症リスクを上げる可能性があるとわかります。しかし、これはもともと飲酒する人のデータであり、非飲酒だった人が中年期に飲酒を始めた結果ではありませんので、認知症予防のために少量の飲酒を始めるのがいい、とは限りません。
こんな変化が出たときは注意しよう!
アルコール性認知症では、以下のような症状が出ることがあります。
- 記憶障害
- もの忘れ、ついさっきのことも覚えられない
- 見当識障害
- 今何時か、ここはどこかなど、周りの状況が理解できなくなる
- 作話
- 忘れてしまった部分について、覚えていることをつなぎ合わせて話す
- 結果的に嘘になることもあるが、嘘をつこうと思ってついているわけではない
また、アルコール依存症と同じような以下の症状が出ることもあります。
- 歩行が不安定になり、何かにつかまらないと歩けなくなる
- 抑うつ状態と似たような状態になり、意欲や興味が低下する
- 行動や衝動が抑えられなくなり、攻撃的になる、他人のものを盗む、食べたいものを食べる、などの問題行動が見られる
このような行動が目につくようになってきたら、まずは断酒を試みましょう。アルコール性認知症の場合は、変化が可逆的ですから、断酒によって症状が改善することがあります。脳の萎縮は多量の飲酒が長く続くほどひどくなると考えられますので、まずはアルコールを大量に飲む生活を改善することから始めましょう。
また、アルコール性認知症を引き起こす原因の1つになるウェルニッケ・コルサコフ症候群(ビタミンB1不足)の場合、早期の治療によって延命や記憶障害を改善できる場合もありますので、断酒しても症状の改善が見られない場合は早めに病院で検査と適切な指導・治療を受けるようにしましょう。
そのほか、日常生活では生活習慣を見直すことも大切です。ウェルニッケ・コルサコフ症候群はビタミンB1不足ですし、他にも認知症の原因となる疾患にはビタミンなどの栄養不足によるものが多いです。そこで、普段からバランスの良い食生活を心がけましょう。
ストレスや不眠をお酒の力で解消しようとしないことも重要です。イライラや寂しさなどのストレスを解消しようとしたり、眠るためにお酒を飲んだりしていると、体は次第にお酒の量に慣れ、だんだんとお酒の摂取量が増えていってしまいます。
ストレス発散のためには、適度な運動が最も効果的で、健康にも良い影響があります。また、人体は体温が下がると眠りに入りやすくなることがわかっています。そのため、寝る1〜2時間前にお風呂に入って体温を上げ、体温の下がってくるタイミングで布団に入ると自然に寝つきやすくなります。こうした工夫で、お酒に頼らない生活を目指しましょう。
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おわりに:大量の飲酒は認知症のリスクを上げる
認知症の中には、アルコールが原因のものもあります。大量にアルコールを飲む人は認知機能が低下したり、前頭葉の機能が障害されたりします。少量の飲酒は認知症リスクを下げる可能性がありますが、大量の飲酒は認知症リスクを上げるという調査結果もあります。
しかし、アルコール性認知症は断酒で改善される可能性があることもわかっています。アルコール性認知症かもしれないと思ったら、お酒に頼らない生活を目指しましょう。
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