既に定年退職をし、近い将来介護を受ける可能性のある高齢者や、定年間近で一人暮らしをしている人にとって、かなり気がかりなのが「老後の生活費が足りるのか」ということでしょう。特に一人暮らしの高齢者は、年金の受給だけでは十分な生活が送れず、困窮してしまうケースが少なくありません。この問題と対策について、お伝えしていきます。
一人暮らしの高齢者の生活費、年金だけでは足りない?
近年、一人暮らしをする高齢者が増加傾向にあります。
平成29年度の国の統計によれば、高齢者世帯(65歳以上の者のみ、もしくは65歳以上の者に18歳未満の未婚のものがいる世帯のこと)のうち、65歳以上で一人暮らしをしている高齢者の世帯は全体の47.4%と、およそ半数を占めます。
また、男女別・年齢別に見ると、特に多いのは65~69歳の男性で36.2%、75~79歳の女性で21.8%です(厚生労働省「平成29年 国民生活基礎調査の概況」)。
こうした一人暮らしの高齢者と切り離せない問題が、経済的な困窮です。65歳以上で一人暮らしをしている世帯の相対的貧困率は、男性で約29%、女性で約45%にのぼるという統計も出ています。この貧困率は高齢者全体の2倍近くに相当し、他の世帯と比べても、一人暮らしをする高齢者の貧困率が最も高い水準にあるとされています。
「厚生年金」を受け取れない一人暮らしの高齢者は、特に困窮しやすい
一人暮らしの高齢者の貧困率が高い原因としては、「高齢者夫婦の世帯と比べ、国民年金(基礎年金)だけを受給しており、厚生年金や共済年金を受給していない人の比率が高い」ことが挙げられます。
厚生年金は、民間企業に勤めた正社員や公務員、私学教職員が受給できる年金です。厚生労働省「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、厚生年金保険第1号(民間企業のサラリーマン)受給者の平均年金月額は、約14万7000円となっています。これに、下記の国民年金受給額が上乗せされます。
一方、自営業やパート等の非正規雇用で働いていた人は、国民年金しか受け取ることができません。平成30年度の国民年金支給額は、40年間満額支払っていた場合でも年77万9300円、月に約6万5000円です。国民年金に加えて厚生年金も受給できる高齢者と比べれば、倍以上、年金の受給額が少ないことがわかります。
月に約6万5000円の年金受給だけでは、老後の食費や生活費は工面できず、健康的な生活を送るのはほぼ不可能でしょう。食事をまともにとれず栄養状態や健康状態が悪化しても、お金がないので介護や治療を受けたくても受けられない、という悪循環に陥りやすくなります。
一人暮らしで女性の高齢者の貧困化も問題に
配偶者との離婚や離別、あるいは未婚が理由で一人暮らしをしている高齢女性も、老後の貧困問題に直面しやすいです。
1960~90年代の女性の就業率は5割程度であり、賃金も男性より少ないことが一般的、かつ就労期間が短い人が多いため、現役世代に納めた厚生年金額が少なく、その分受給額が減るという側面があります。なお、非正規雇用だった女性も多く、国民年金しか受け取れない高齢女性も少なくありません。
一人暮らしの高齢者の生活費をなんとか工面するには?
年金だけでは生活が立ち行かない一人暮らしの高齢者が生きていくためには、子供や親族に頼るのが一つの手でしょう。ただ、老後の資金は高齢者自身が何とか工面するのが原則であり、子供や親族も経済的に余裕がなく、援助が見込めないケースも多いです。また、頼れる親族のいない高齢者は、自力で状況を脱却せざるを得ません。
定年後も働く
老後の生活費を工面するには、貯金を切り崩しながらも、「元気なうちは定年後も働く」のが有効な選択肢の一つです。
近年は日本社会の高齢化に伴い、高齢者向けの再雇用制度も充実してきています。一例として、公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会の会員になれば、60歳以上の高齢者でも働き口を紹介してもらえることがあります。
生活保護を受ける
年金収入が最低生活費(厚労省が定めた金額。住んでいる地域や本人の年齢等によって異なる)を下回る場合は、年金受給者でも生活保護が受けられ、最低限の衣食住は保証されます。
ただ、「子供が親の扶養義務を果たせない」ことや、「持ち家を売却しなくてはならない(生活保護受給者は資産保有ができない)」ことなど、いくつかの条件を満たさなくては生活保護は受けられません。まずは最寄りの市役所で、詳しい条件について確認することをお勧めします。
持ち家を担保にする
一人暮らしの高齢者が持ち家に住んでいる場合は、持ち家を不動産会社に売却し、家賃を支払うことで引き続き自宅として住み続ける「リースバック」という手段もあります。
リースバックでは、契約時に不動産の売却額を一括で受け取ることができます。ただ、そのまま住み続けるには、売却額に応じた家賃(年間で売却額の10%相当)を支払わなくてはなりません。
例えば持ち家の売却額が1000万円だった場合、年間家賃は約83万円です。長年住み続ける場合、家賃が売却額を上回って損をしてしまう可能性が高いので、慎重に検討する必要があります。
公営住宅に住む
一人暮らしの高齢者で賃貸物件に住み続けている場合や、持ち家を売却してもお金がない場合、公営住宅に引っ越すという手段があります。
公営住宅は、自治体が高齢者や年収160〜200万円程度の低所得世帯を対象に貸している、家賃の低い賃貸住宅です(家賃は入居者の収入の1/3程度です)。
入居を希望する人が多く、各自治体によって入居者募集期間は決まっているので倍率は高いですが、高齢者や年収が低い人ほど入居しやすいという特徴があります。
一人暮らしで困窮する高齢者には、社会的な支援も必要
上記では、高齢者自身ができる生活費の工面方法をいくつかご紹介しましたが、健康状態によって働くことのできない高齢者も多いです。特に一人暮らしの高齢者は、全体的に収入が低く、また社会的なつながりが少ないため、うつ病などの精神疾患にかかりやすいという統計も出ています。
一人暮らしの高齢者のうつ病や低収入問題を改善するには、自治体が地域や近所での交流イベントを増やしたり、健康状態に波がある人でも働けるような雇用制度を充実させたりすることが求められます。高齢者自身が対処せざるを得ない側面もありますが、国や自治体全体も危機意識をもって、今後増えていくであろう「高齢者の一人暮らし問題」の改善に動くことが望まれます。
おわりに:一人暮らしの高齢者の貧困問題は、社会規模での対処が望まれる
一人暮らしをしており、年齢や健康状態が理由で働けず、年金だけでは生活できない高齢者の増加が、年々問題になってきています。公営住宅に住んだり、短時間で働ける仕事を見つけたりなど、高齢者自身でもできる問題解決策は多少ありますが、今後は自治体や国が大規模に救済措置をしていくことが望まれます。
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