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芸術療法(アートセラピー)の認知症への影響とは?

認知症

芸術というと、なんとなく堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、誰しも子どもの頃から行っていた「砂遊び」「粘土遊び」「お絵描き」など、あらゆる「表現活動」を通じて行う心理療法が芸術療法(アートセラピー)です。

ですから、難しいことではなく、むしろ誰にでもできること、好きなことを行うことがアートセラピーと言えます。認知症の人にとってアートセラピーがどのような役割を持つのか、詳しく見ていきましょう。

芸術療法(アートセラピー)とは?

芸術療法とは、絵や粘土細工などの表現方法を利用し、精神状態に働きかけるもので、絵画療法、アートセラピーとも呼ばれています。1942年にイギリスで始まったとされていて、これまでもさまざまな疾患の治療に利用されてきました。そして、近年では認知症の人のリハビリテーションにも使われるようになってきたのです。

アートセラピーで用いられる表現手段としては「絵画・粘土細工・陶芸・彫刻・写真・連句・詩歌・俳句・自由画・心理劇・ダンス」など非常に多岐にわたっていて、言葉ではなかなか表現しにくい情緒や願望・幻想などを自分の好きな方法、表現しやすい方法で表します。それにより、不安を解消したり、感情を解放したりすることが目的です。

ですから、アートセラピーでは、完成した作品の良し悪しについてはあまり問題ではありません。絵を描いたり、粘土でさまざまな造形を作ったり、そうした過程を楽しむことこそが重要なのです。また、描くモチーフをただ見るのではなく触ったり、香りを嗅いだり、食べ物なら味わってみるなどして五感を刺激し、モチーフにまつわる思い出や楽しかった記憶などを回想したり、話したりすることも良いでしょう。

もちろん、出来上がった作品を褒め合うなど、良い評価を得て本人が自信をつけることも効果的です。作品を作ったり、家族がそれを褒めたりすることは家庭でもできますが、アートセラピーのプログラムを行っている施設やクリニックに赴き、同じことをする仲間と話しながら作るなどもより脳を刺激してくれるため、おすすめです。

アートセラピーの効果とは?

具体的なアートセラピーの効果は、楽しさと同時に脳に適度なストレス(刺激)を与え、脳を活性化するというものです。創作活動をするとき、脳は楽しさと同時にストレスを感じますが、このストレスは脳に刺激を与えて活性化してくれる「良いストレス」なのです。また、絵を描いたり粘土で形を作ったりすることで、色彩感覚がよみがえるとも言われています。

ある研究によれば、認知症の人が創作活動後に知能テストを受けた場合は成績が上がったけれど、楽しくリラックスするだけでストレスのないレクリエーションに参加した後に知能テストを受けた場合は成績が下がったとのことです。つまり、脳を刺激して活性化させるためには、楽しさと同時に適度なストレスが必要だと言えます。

とはいえ、本人の苦痛になるストレスでは、逆に脳機能の低下を招きかねません。あくまでも本人が楽しみながら行う中で、脳に適度なストレスがかかることが必要です。ですから、失敗や試行錯誤を繰り返し、より満足のいく作品を創作するというアートセラピーは、脳にとって良いストレスを与えられるという点で適切なリハビリテーションなのです。

また、最初にもご紹介しましたが、例えば果物を描くときには「見る」「触る」「香りを嗅ぐ」「味わう」など、できるだけ多くの五感を使い、脳のさまざまな部位を働かせることが大切です。上手に描くこと、作ることではなく、一人ひとりが持つ創造性を刺激し、感情や感性を自由に表現してもらうことがメインの目的です。

さらに、完成した作品は残りますので、周囲の人や家族と一緒に鑑賞したり、達成感を得たり、作品が増えていけばこれまで自分が頑張ってきた証拠にもなり、日々に充実感を得ることもできます。ときには家族や周囲の人と一緒に創作活動を行うと、共通の話題が生まれてコミュニケーションも増えることでしょう。

このように、創作活動を通じて脳を活性化し、本人の潜在的な能力を引き出したり、楽しく取り組んで成功体験を重ねたりすることで、本人の自信や精神的な安定をはかることが、認知症におけるアートセラピーの主な目的と言えます。精神的に安定することで、徘徊や不安など認知症の症状が軽減される可能性もあります。

また、認知症の人は概日リズム(体内時計)が乱れやすく、昼夜逆転しやすい傾向がありますが、アートセラピーによって昼間の活動量を増やし、その分の覚醒時間を確保することで、昼間に起きて夜に眠るという睡眠のリズムを整える効果も期待できます。

アートセラピーをするときの注意点

では、アートセラピーを実際に行う際には、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。

始める前
  • トイレを済ませて手洗いをし、心身の緊張をほぐすために軽く準備体操を行う
活動場所
  • 本人にとってなじみのある、落ち着いた場所が望ましい
  • とくに認知症の人は不安や混乱を抱えやすいため、穏やかな雰囲気作りを心がける
活動中
  • プログラムは一人ひとりの状態を見ながら選び、個別対応やグループ分けを行う
  • できれば本人の普段の様子をよく知る施設スタッフが付き添いサポートする
  • 段取りがうまく立てられない場合、内容を丁寧にわかりやすく、繰り返し説明する
  • 制作のペースがゆっくりでも、本人のペースに合わせることが重要
作品が完成したら
  • 参加者全員で一緒に鑑賞会を行い、褒め合うなどポジティブに盛り上がれるようにする
解散時
  • 活動が終わったら、前向きな言葉をかけて終わり、次回の約束をする
  • 約束したこと自体は忘れてしまうこともあるが、前向きでポジティブな感情が残れば、次回も楽しんでできる可能性が高い

認知症の人に対するアートセラピーの場合、本人のペースに合わせて行うことや穏やかな雰囲気作りに加え、活動が終わったときにもポジティブな声かけを心がけましょう。アートセラピー自体にポジティブな印象を持ってもらえれば、次回の活動の際により積極的に楽しめる可能性が高まります。

そのために、以下の2点については十分に注意が必要です。

異食を防ぐ
  • 認知症の症状の1つとして、食べ物以外のもの(紙、粘土、絵の具など)を食べてしまうことがある
  • とくに絵の具や粘土などは人体に入ると毒性のあるものもあるため、食べてしまわないよう十分に注意する
  • 異食の傾向がある人には「スタッフが目を離さない」「目の前に材料を多く置かない」「材料を食べても安全なものにする」などの配慮をするとよい
不安や混乱・集中力の途切れなどに臨機応変に対応する
  • 不安や混乱などが見られる場合、安心できるような声かけや、一緒に制作する
  • 集中力が途切れて途中で退席してしまう場合は、無理に引き止めず次回につなぐようにする
  • 自分の作品に自信が持てない場合、良いところを見つけてポジティブな言葉をかける

アートセラピーは、あくまでも本人が楽しみながら創作活動を行い、脳を活性化するとともに自分の感情を解放できることが大切です。異食などの健康を害してしまう事態を防ぎ、不安や混乱がある人には安心できるようなサポートが必要です。本人にとって創作活動が楽しい、と思えるよう、その場その場で臨機応変な対応をしていきましょう

おわりに:アートセラピーは楽しみながら適度な刺激を与え、脳を活性化させる

アートセラピーによって創作活動を行うと、より良い作品にしよう、満足のいく出来にしよう、と何度も失敗や試行錯誤を繰り返すことで、脳に適度なストレス刺激が加わります。このストレスは本人が楽しみながら感じるものですから、脳を活性化させてくれることがわかっています。

また、完成した作品を褒め合ったりすることで、自信や精神的な安定にもつながります。本人が楽しんで活動できるよう、サポートしていきましょう。

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