最近、もの忘れが激しくなったような気がする、日時や場所を忘れてしまうことが多くなった、という場合は、もしかして認知症かもしれない、と疑うこともあるでしょう。そんな場合に一つの指標となるのが「長谷川式認知症スケール」という簡単な検査です。
長谷川式認知症スケールの良いところは、特別な道具がなくても誰にでも簡単に行えるところです。そんな長谷川式認知症スケールのやり方や結果の見方について、ご紹介します。
長谷川式認知症スケールってなんのこと?
「長谷川式認知症スケール」とは、聖マリアンナ医科大学の長谷川教授によって1974年に考案された知能検査テストです。このテストにより、軽度の認知障害があるかどうか、または認知症かどうかを簡単に診断できます。医療機関でも利用されるほど信頼性が高いことや、医師だけでなく誰でも行える簡便さから、広く普及し使われています。
テスト時間は約10〜15分で、満点は30点、得点が20点以上の場合は認知症の可能性が低いと判断されます。16〜19点の場合は軽度の認知症の疑いあり、15点以下の場合は認知症の可能性が高くなります。もちろん、このテストはあくまでも簡易なものですから、15点以下なら即座に認知症、と診断されるわけではありませんが、19点以下の場合は一度、医療機関でより精度の高い検査を受けておいた方が良いでしょう。
長谷川式認知症スケールが開発された背景には、認知症で医療機関を受診するとき、既に手の施しようがないほど深刻な状態になっているケースが多いということが挙げられます。認知症を発症する前の段階や、認知症のごく初期の状態では、認知機能の低下が見られても日常生活には大きな支障がないため、違和感を感じても「加齢のせいだ」などと思い込んでそのまま放置してしまうことが多いのです。
すると、完全に認知症となり、日常生活を自力で送れない状態になってから初めて「これは認知症だ」ということになり、家族など周囲の人が診療に連れてくるということになります。しかし、認知症の状態に進行する前には、多くの人が「軽度認知障害」と呼ばれる認知機能の低下を経験します。
この段階では日常生活に大きな支障がないだけでなく、この段階で気づいて適切な処置を行うことができれば、認知症への進行をある程度抑えられたり、健常な状態に戻すこともできる場合があります。ところが、この状態のときに全く処置を行わずに放置すると、約50%という高い確率で認知症を発症することがわかっています。
ですから、長谷川式認知症スケールなどを利用し、ごく初期の「軽度認知障害」のレベルでご本人、またはご家族の状態に気づくことが非常に大切なのです。
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長谷川式認知症スケールのやり方とは?
長谷川式認知症スケールは、以下の9問から構成されます。
- 1:自分の年齢はいくつですか?
- 正解1点、不正解0点
- ※2年までの誤差は正解に含める
- 2:今年は何年の何月何日、何曜日ですか?
- 年・月・日・曜日それぞれ正解1点、不正解0点ずつ
- 3:私たちが今いるところはどこですか?
- ※正答がない場合、5秒後にヒント(自宅?病院?施設?)を出す
- 自発的に答えられれば2点、ヒントありで答えられれば1点、不正解0点
- 4:これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとの設問でまた聞きますので、よく覚えておいてください。
- 系列1:桜、猫、電車 または 系列2:梅、犬、自動車
- 言葉ごとに各正解1点、不正解0点ずつ
- 5:100-7は?また、それからさらに7を引くと?
- 各正解1点、不正解0点ずつ。最初でつまずいた場合、2問めは聞かない
- 6:これから言う数字を逆から言ってください。
- a)6、8、2 b)3、5、2、9 の2問
- 各正解1点、不正解0点ずつ。最初でつまずいた場合、2問めは聞かない
- 7:先ほど(※4で)覚えてもらった3つの言葉をもう一度言ってみてください。
- ※正答がない場合、「植物」「動物」「乗り物」のヒントを与える
- 各言葉について自発的に答えられれば2点、ヒントありで答えられれば1点、不正解0点ずつ
- 8:これから5つの品物を見せます。それを隠しますので、何があったか言ってください。
- ※1つずつ名前を言いながら並べて覚えさせ、5つまとめて隠す
- ※時計・くし・はさみ・タバコ・ペンなど、相互に無関係な5つのものを使う
- 各正解1点、不正解0点ずつ
- 9:知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。
- ※答えた野菜の名前を記入していき、途中で詰まって約10秒以上経過した場合はそこで終了とする
- 正答数10個以上で5点、9個で4点、8個で3点、7個で2点、6個で1点。0〜5個の場合は0点
以上9門の合計得点を計算し、前述のとおり、20点以上で認知症の疑いが低いと考えられます。16〜19点は軽度認知障害の疑いが、15点以下は認知症の疑いが高いと考えられます。なお、認知症の重症度別の平均点は以下のようになっています。
- 認知症ではない人…24.3点
- 軽度認知症…19.1点
- 中等度認知症…15.4点
- やや高度の認知症…10.7点
- 高度の認知症…4.0点
ただし、やはりこのテストですべてが決まるわけではありませんので、20点以上でも日常生活で強い違和感を感じていたり、気になる症状があったりという場合は医師に相談してみましょう。逆に、ご本人に通院の意思がなくても、19点以下の場合は一度、医療機関で精度の高い検査を受けておいた方が安心です。
テストの評価が悪ければ、必ず認知症なの?
長谷川式認知症スケールは、医療機関でも使われている信頼性の高さが特徴ですが、しかし、この記事内でも何度かご紹介しているように、このテストだけで認知症を確定診断することはできません。というのも、このスケールの点数が低下する要因は認知症だけとは限らず、検査を行うときのコンディションによっても多少数字が変わってくるからです。
例えば、うつ病など何らかの精神症状があるときには、認知機能が低下します。高齢者でうつ病によって認知機能が低下している場合、仮面認知症とも呼ばれ、認知症と非常に間違えやすいのですが、認知症とは違うというややこしい状態になることがあります。この場合も当然、このスケールの点数が低くなるのです。
また、耳の聞こえが悪くて聞き間違えをしてしまう場合、検査を受ける人が非協力的な姿勢を貫いている場合なども、正しい点数をつけることができません。認知症かどうかを疑われることが大きく本人のプライドを傷つけてしまうこともありますので、検査を行う際には、聞き取りやすいように行ったり、本人の心情を気遣うなどの配慮が必要です。
このように精神症状やその他の体調不良、点数が低くなる要素がある場合、その症状がある程度落ち着いた状態で検査を行わないと、正確に認知機能を評価することができません。そのため、本当に認知症かどうかを確実に診断するためには、専門的な知識と経験を持つ医師の診断が必要となります。
長谷川式認知症スケールの良いところは、「あれ?認知症かな?」という疑いの段階で、家庭でも簡単に検査ができるところです。結果を数値化することで、安心感や危機感につながります。しかし、検査結果だけですべてが判明するわけではありません。点数が低かった場合もそれだけで落ち込みすぎることなく、まずは医療機関で精度の高い検査を受けてみましょう。
おわりに:長谷川式認知症スケールは誰でも簡単にできるスクリーニング検査
長谷川式認知症スケールは、医療機関でも採用されているほど信頼性の高いテストであり、特別な道具や用紙がなくても誰にでもできることから、家庭などでも簡単に行いやすいのが特徴です。
ただし、テストはあくまでも一つの目安であり、テストで点数が低かったら必ず認知症である、というわけではありません。点数が低かった場合は、ぜひ医療機関でより精度の高い検査を受け、認知機能の低下を早い段階で発見しましょう。
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