高齢になり、さまざまな身体能力や脳機能が低下してくると、自立して一人で生活できなくなってしまいます。その際、身近な人に生活の助けをしてもらう必要があり、これを介護と呼んでいます。
しかし、家族だけで介護を行うには負担が大きいのも事実です。そこで、在宅介護の負担を軽減するために考え出されたのが「デイサービス」です。さらに、近年になって認知症の人に特化した施設としてできたのが「認知デイサービス」です。
認知デイサービス(認知症対応型通所介護)とは?
認知デイサービスとは、認知症の人を専門に対応してくれるデイサービスのことです。認知症の人を自宅から施設まで送迎し、施設で食事や入浴など生活のお手伝い・レクリエーションなどを行います。自宅に帰ったあともできるだけ自立した生活を送れるよう、適度な運動やレクリエーションなどの活動を通じて、機能訓練や口腔機能の向上などの訓練を行い、心身の機能を維持・回復するよう目指してくれます。
また、施設に行くことで、一般的に自宅にこもりがちな認知症の人に対し、職員・利用者同士など、地域との交流の機会を提供する役割もあります。地域との交流によって孤独感や社会的孤立感を軽減するとともに、普段どうしても密着状態で介護を行わなくてはならない家族の負担を減らすことも目的としています。
具体的なサービス内容としては、以下のようなことを行います。
- 行き帰り(朝・夕)の自宅から施設までの送迎
- 血圧測定などの健康チェック
- 入浴サポート
- 食事
- 口腔機能を維持するための訓練
- 身体機能を維持・回復するための訓練
- レクリエーション
これらは通常のデイサービスと基本的に同じですが、認知症に特化している「認知デイサービス(認知症対応型通所介護)」の場合、認知症のご本人それぞれの状態に合わせたより細やかなケアを受けられます。また、認知デイサービスは施設規模によって以下の3つの形態に分けられます。
- 単独型
- 特別養護老人ホームや病院などに併設されていない、単独で運営する施設
- 民家などを改築し、専用施設として運営しているところも
- 併設型
- 単独型の特別養護老人ホームや医療施設などに併設されている施設
- 共用型
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護)などの施設の一部を使ってデイサービスを行う
- 地域密着型老人福祉施設の設備(食堂や居間など)を共同利用するため、入居者と一緒にサービスを受ける
- より多くの人と交流できる施設でもある
普通のデイサービスとは、何が違うの?
では、具体的に一般のデイサービスとは何が違うのでしょうか。大きく分けて、以下の3つの点が挙げられます。
- 介護が手厚い
- 定員が少人数(12名以下)となっているため、一般的なデイサービスよりも一人ひとりへの介護が手厚い傾向にある
- 介護職員1人あたりの利用者人数は介護保険法にも定められている
- 認知症の人は、大人数でのレクリエーションや共同作業、知らない人との交流が苦手な人も多い
- 一般のデイサービスでは落ち着かず、興奮したり逆に引きこもったりしてしまうこともある
- 認知デイサービスでは、少人数制のためそうしたデメリットが少ない
- 認知症に対する専門的なケアが受けられる
- 認知デイサービス施設の管理者は、都道府県で実施される「認知症対応型サービス事業管理者研修」を修了していることが義務づけられている
- この研修を受けた人は、高度に専門的な認知症ケアの提供が期待される
- 利用者は、認知症の診断を受けた人またはそれに準ずる診断を受けた人(※自治体による)が対象
- 認知症ケアは利用者一人ひとりの認識や感情を重視し、オーダーメイドかつ専門的なケアを行うことが重要
- 地域密着型サービスである
- 地域密着型サービスとは、事業所のある市区町村が指定や指導監査を行い、利用者は原則としてその市区町村に住む人に限られるサービス
- 事業内容を透明化し、地域と連携した運営・サービスを行うため、地域住民や団体に向けて半年に1回、運営推進会議を開催することが定められている
- 社会から孤立しやすく、新しい環境になじむには負担が大きい認知症の人にとって、慣れ親しんだ地域や人間関係のつながりを持ち続けることは大切
- 外出や散歩などの日常生活に加え、お祭りなどの地域イベントでも自然に地域とつながっていくことができる
一般的なデイサービスと認知症専門のデイサービスの大きな違いは、個別対応の重要さ、そして人間関係など社会生活の維持というポイントです。認知症の人は、その症状や認識が個人で大きく異なるため、一律なサービスでは対応できないことが多く、したがって介護職員一人に対して利用者の数を絞り、専門的なケアを行う必要があります。
加えて、どうしても認知症の人は社会的な生活が送りにくいことから、自宅に引きこもりがちになり、余計に認知症の症状が進行してしまう悪循環に陥りがちです。しかし、こうしてデイサービスなどの施設に来ること、さらに施設で地域の中を散歩したり、ときにはお祭りなどの地域行事に参加することで、地域とのつながりを保ち、脳を活性化することが期待できます。
認知デイサービスの費用はどれくらいかかる?
認知デイサービスの費用は、要介護度や時間・施設形態などによって異なりますが、一例として東京都内の共用型施設、自己負担が1割の場合では以下のようになっています。
- 3〜5時間未満の短時間
- 要支援…400〜500円程度
- 要介護…500〜700円程度
- 5〜7時間未満の中程度の時間
- 要支援…650円〜750円程度
- 要介護…750円〜1,100円程度
- 7〜9時間未満の長時間
- 要支援…750円〜850円程度
- 要介護…900円〜1,250円程度
一定の収入があり、自己負担が2割になる場合は単純計算で2倍程度の料金がかかりますが、詳しくはサービスを希望する施設のホームページを見たり、直接問い合わせてみるのが良いでしょう。
また、料金だけでなく、利用者本人が快適に過ごせるかどうかも重要なポイントです。認知症の人はとくに、突然の環境の変化や見知らぬ人と接することに大きな抵抗を示すこともあります。そこで、施設との相性などをよく考慮するとともに、ケアマネジャーなどの介護の専門家に相談しながら選ぶと良いでしょう。
実際に探す際のポイントとしては、デイサービスを頼む家族自身が現地に行ってみるのがもっとも確実です。見学だけでも快く引き受けてくれる施設は多いですから、ぜひ実際に一度行ってみましょう。見学の際には、以下のようなことに気をつけて見ておくのがおすすめです。
- 施設全体の雰囲気を見る
- 利用者や職員に笑顔が多い、時間がゆったりと穏やかに流れているなど
- 認知症のご本人が受け入れやすそうな、好みそうな雰囲気かどうかを確認する
- 職員の専門性やケアへの姿勢を見る
- 少人数ならではのきめ細やかなケアができているかどうか
- ちょっとしたやりとりにも現れることが多い
- 利用者の様子を見る
- 利用者の表情や落ち着き、利用者どうしの交流の様子を見る
- 利用者たちが居心地よく過ごせているかどうかを見る
- 本人が「楽しい」「居心地がいい」と感じられるかどうか
- 本人の好みに合うかどうかも大切なポイント
- どんなリハビリやレクリエーションを行うのか、入浴や食事はどうかなど
- 事業所によっては体験利用を行っているところもあるため、利用してみるとよい
また、事業所が半年に1回行う運営推進会議に参加してみるのも大切です。この会議は誰でも参加でき、さまざまな人や情報が集まっているだけでなく、基本的に事業所側も地域住民の参加を歓迎しているからです。既に利用している人のご家族も参加していることが多く、見学だけではわからないことを知ることもできます。
おわりに:認知デイサービスは専門的・個別対応のケアが受けられる
認知デイサービスでは、デイサービスの中でもとくに利用者を認知症の人に特化したサービスです。管理者は都道府県の認知症対応型サービス管理者の研修を受けることが義務づけられていますので、認知症に関する専門的な知識を持っています。
また、少人数制のサービスによって症状がさまざまな認知症患者さんに対して個別のケアを行えます。認知デイサービスの利用を考えていれば、一度施設に見学に行ってみると良いでしょう。
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