徐々に脳機能が低下し、認知や記憶の機能、身体機能に障がいが現れてくる認知症の発症には、その人の栄養状態もかかわっているとされています。
今回は認知症発症と栄養状態とのかかわりについて、認知症発症を予防するための栄養管理のポイントとあわせて、解説していきます。
認知症の予防に役立つ栄養素はあるの?
認知症の一種であるアルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβタンパクという物質が蓄積されることで起こります。
この事実から、アミロイドβタンパクが蓄積されるのを抑制する働きのある以下のような栄養素は、認知症予防に役立つと考えられています。
- 青魚に含まれるEPA、DHAなどの多価不飽和脂肪酸
- 野菜や果物に多く含まれているポリフェノール
- お茶に含まれるうまみ成分として知られるカテキン
- 生姜、唐辛子、胡椒、クルクミン、ターメリックなどの香辛料
- 貝類などに多く含まれるビタミンB12 など
ただ、上記の特定の栄養素だけを多く摂れば良い、と言うわけではありません。
認知症予防のために重要なのは、特定の栄養素を偏って摂るのではなく、多様な栄養素をバランスよく摂取することなのです。
低栄養は認知症を引き起こすことはある?
栄養状態と認知症の関係を調べるために、群馬県と新潟県に住む70歳以上の高齢者約1,150名を対象に行われた実験では、以下のような結果が得られました。
- 大まかな実験内容
- 血液検査で体内の鉄分量を表す赤血球、脂質量を表すHDLコレステロール、タンパク質量を表すアルブミンの血中の数値をそれぞれ計測する
- 4年ほど追跡調査を行い、血液検査の結果から見る栄養状態と認知機能低下との関係を、比較し調査するもの。
- 実験の結果
- 追跡調査を完了できた682名のうち、認知機能が低下していた人は赤血球・HDLコレステロール・アルブミンのいずれの数値も低いことが判明
- 3つの数値が高い人に比べ、数値が低い低栄養状態の人は、約2~3倍も認知機能が低下しやすいと結論付けられた
鉄分や脂質、タンパク質を豊富に含む肉・魚などの動物性タンパク質には、以下のような作用があることが確認されています。
- 細胞の原料となるとともに、脳をスムーズに動かすためのエネルギー源となる
- 神経伝達物質の材料となり、脳の認知機能を高める
- 血管を柔らかくし血流を促進するため、酸素や栄養が行き届きやすくなる
このため脳の機能維持に効果的な動物性タンパク質・脂質を十分に摂取している人は、そうでない人に比べ認知機能が低下しにくいと考えられます。
低栄養の状態が認知機能の低下、認知症を引き起こすと考えられているのはこのためです。
低栄養を避けるにはどんなことに気をつければいい?
低栄養による認知機能の低下を予防するには、以下10品目の食品のうち1日あたり7品目の摂取を目標に、毎日の食事を偏りのないものにすると効果的です。
- 動物性タンパク質やカルシウム、ビタミンDが豊富な「魚」
- 細胞を作り、血管を柔らかくする作用のある適量の「脂(あぶら)」
- 良質なタンパク質であり、脳のエネルギーとなる「肉」
- タンパク質とカルシウムが豊富な「牛乳や乳製品」
- ビタミン類や、食物繊維を豊富に含む「野菜」
- 低カロリーで食物繊維、ミネラルを豊富に含む「海藻」
- 体を動かすエネルギー源となる糖質、ビタミン、ミネラルを含む「いも」
- 手軽に良質なタンパク質を摂取できる「たまご」
- 植物性タンパク質、カルシウムを多く含む「大豆、または大豆食品」
- 食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富な「果物」
最低でも1日2食は、上記の食品をごはんなどの主食、肉・魚を中心とした主菜、野菜や海藻を中心とした副菜に汁物を加えた献立で摂れるよう意識しましょう。
毎日料理をするのが大変なら、コンビニのお弁当やスーパーのお惣菜を買うときに、上記の10品目を摂れるよう意識するだけでもOKです。
無理のない範囲で、低栄養と認知症予防に効果的な食生活を続けてください。
おわりに:栄養状態は、脳の認知機能の低下と認知症発症にかかわっている
からだを作り、脳の働きを左右する日々の食事内容と栄養状態は、脳の認知機能の低下や認知症発症にも深くかかわっています。認知機能の低下と認知症の発症を予防するには、特定の栄養素ばかり摂るのではなく、多様な栄養素を偏りなく摂ることが求められます。食事は1日当たり7品目を目標に、主食・主菜・副菜・汁物の献立を基本に、バランスよい内容になるよう心がけましょう。認知機能の低下とあわせて、低栄養状態も予防できますよ。
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