認知症は脳の変質を伴うもの、脳の病気・外傷が原因で起こるもの、他の部位の病気が原因で起こるものなど、いくつかに種類分けされています。
今回は認知症のうち「血管性認知症」と呼ばれるものについて、主な治療法やその目的を、発症の原因や現れやすい症状とあわせて、解説します。
血管性認知症は何が原因で発症するの?
認知症のうち血管性認知症は、脳梗塞や脳出血によって脳血管に障害が起き、一部の脳神経に深刻なダメージが起こることで発症します。
一般的に認知症は時間の経過とともにゆっくり進行しますが、脳血管障害を原因とする血管性認知症は急激に発症・悪化し、脳のどの部分が障害されるかによって症状の現れ方にも違いが出るのが特徴です。
血管性認知症の代表的な症状としては、以下3つが挙げられます。
一部認知機能の低下(まだら認知症)
損傷した脳神経の場所により、一部の認知機能が低下します。
どの機能が低下するかには個人差がありますが、血管性認知症では、判断力や記憶力は比較的保たれやすい傾向があります。
一方で、特徴的な幻覚や錯覚、精神の不安定さを伴う「せん妄」を生じやすいのが特徴です。
行動・心理的症状
物事への意欲や自発性が低下し、感情の起伏が激しくなる症状です。別名「BPSD」とも呼ばれています。
先述したせん妄にも似た症状で、些細なきっかけで興奮や気分の落ち込みが起こるようになります。
神経症状
障害される脳の部分によっては、神経や運動機能に麻痺が現れることもあります。
このため血管性認知症では、手足をうまく動かせない、発語に困難があるなどの神経症状を併発するケースが多くなります。
血管性認知症の治療方法は?
血管性認知症の治療は、失われた脳機能を補うための投薬・リハビリ療法と、脳血管障害を再発させないための生活指導がメインとなります。
それぞれの治療として使われる薬の種類や指導内容などは、以下の通りです。
血管性認知症治療のための薬物療法
- 認知機能へのアプローチには…
- 認知症治療薬として使われるコリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬、または精神の不安定さやせん妄を抑えるためのクエチアピン、ニセルゴリン、オランザピンなどが使われる
- 原因疾患である脳血管障害の再発予防には…
- 高血圧や糖尿病、脂質異常症などの治療薬や、血液をサラサラにして詰まりにくくするための血流改善薬などが使われる。
血管性認知症治療のためのリハビリ療法
障害されている機能に合わせ、運動機能に問題があるようなら理学療法士に、言語機能に問題があるようなら言語聴覚士によるリハビリテーションが提供されます。
リハビリテーションは医師や専門家の慣習があれば、通所・訪問のどちらでも利用可能です。
血管性認知症治療のための生活指導
根本原因である脳血管障害を二度と起こさないよう、その原因となる高血圧・糖尿病・脂質異常症などを改善するための生活指導が行われます。
具体的には食事の内容や、血流改善と肥満予防、転倒予防のための運動指導など。
上記のどの治療法が適しているのかは、その人の状態によっても変わってきます。
医師や理学療法士、言語聴覚士などの指示のもと、本人に無理のない範囲で治療していけば良いと考えておきましょう。
血管性認知症の人へは、どう対応すればいい?
血管性認知症を発症した人に対し、周囲の家族・知人ができることとしては下記の「環境整備」と「対応の工夫」の2点があります。
血管性認知症の人のためにできる、環境整備
神経や運動機能に麻痺が現れやすい血管性認知症の人は、非常に転倒しやすいです。
つまずきやすいものや段差は通路から排除し、滑りやすいところには滑り止めや手すりを付けるなどして、転んで症状を悪化させないよう住環境を整えましょう。
血管性認知症の人のためにできる、対応の工夫
- 認知機能の低下を理解し、本人のできないことに対する不満・不安に共感する
- 感情の起伏が激しくなりやすいので、理解をしつつも適度に距離を取るようにする
- 感覚麻痺によるコミュニケーションの困難を理解し、医師に相談して対応方法を考える
- 不眠や昼夜逆転にならないよう、日課表を作るなどして規則正しい生活を補助する
- できないことがあっても焦らず、本人と一緒に気長にゆっくり歩む姿勢で寄り添う
本人の状態や医師のアドバイスも加味しながら、互いに心地よく暮らせるよう工夫してみてくださいね。
おわりに:血管性認知症の治療は、投薬と生活指導、リハビリで進めていく
血管性認知症は、脳内の血管に障害が起きることが原因で脳神経細胞の一部が損傷し、発症する認知症です。損傷した脳神経細胞をもとに戻すことはできないため、血管性認知症の治療は失われた機能を補い、再発を防ぐ目的で行われます。具体的には投薬・生活指導・リハビリの3分野の治療を、その人の状態に合わせて実施していくことになります。医師や専門家に相談のうえ、本人と家族にとって無理のないかたちで治療を進めていきましょう。
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