認知症は非常に高齢になってから発症すると思っている人も少なくありませんが、理論上は何歳であっても認知症を発症する可能性はあります。では、実際にどの年齢層がもっとも認知症になりやすいと言えるのでしょうか?
また、認知症かどうかを判断するためには、どんなことに気をつければ良いのでしょうか。具体的な症状とともに、認知症にならないための予防対策もご紹介します。
認知症になるのは何歳くらいが多いの?
認知症を発症するのは圧倒的に65歳以上の高齢者が多く、厚生労働省の平成24年(2012年)のデータによれば、462万人で高齢者の約7人に1人だという報告があります。しかし、65歳未満でも認知症を発症することはあり、同じく厚生労働省の平成21年(2009年)のデータによると、3.78万人が65歳未満で認知症を発症していると推定されています。
また、ある研究では33歳以上になると、5歳ごとに認知症の有病率(ある時点での罹患率)が増える傾向があることがわかっています。このように、65歳未満の若年層で発症する認知症を「若年性認知症」と呼んでいます。若年性認知症は、働き盛りの年齢で発症するため、本人にとっても周囲の人にとってもショックと影響が大きい病態です。
子どもが小さい場合、その後の教育や心理的な影響が大きく、場合によっては将来の人生設計を大きく変えなくてはならない可能性も出てきます。さらに、社会的にはまだまだ知られていないため、周囲の理解が得られず、本人だけでなく家族も辛い思いをする場合も多く、社会的に大きな問題となっています。
若年性認知症は、基本的な症状は高齢者認知症と変わりませんが、原因の多くが脳血管性であることが特徴です。脳血管性認知症は生活習慣病に起因することが多いため、生活習慣が原因で発症する場合も多いと考えられます。また、まだ体力が残っている年代であることから、暴言や暴力・情緒不安定、徘徊などの症状が現れたときは周囲の負担が非常に大きくなってしまいます。
どんなときに認知症を疑えばいい?
では、具体的にどんなときに認知症を疑えば良いのでしょうか。以下のような症状が複数見られる場合は認知症の疑いが高くなります。1つ以上見られるときは、慎重に観察を続けてみましょう。
- 同じことを何回も繰り返し言う
- 脳機能の衰えによって、直前に起こったことや話した内容を記憶しておけなくなる
- 「既に話した」という記憶がないため、何度でも話してしまう
- 独り言だけでなく、質問を繰り返すこともある
- 食事したことを忘れる
- 食事したことを忘れて「ご飯はまだ?」と聞くのは認知症によく見られる特徴
- 「さっき食べたよ」と返して納得してもらえる場合は良いが、納得しない場合は認知症の可能性が高い
- 感情の起伏が激しくなる
- 突然怒り出したり、逆に落ち込んだりと明らかに感情の起伏が激しくなる
- 好きで打ち込んでいた趣味に突然無関心になるなどの場合も注意が必要
- 外出しても、自力で帰宅できない
- 散歩や買い物などで外出して、自宅の場所が思い出せなくなる
- 認知症の「見当識障害(日時や場所が認知できなくなる)」を発症している可能性が高い
- 作業を終わらせず、やりかけで忘れてしまう
- 何かの作業に没頭していても、別のことに関心が移ると前にやっていたことを忘れてしまう
- 部屋を散らかす
- 認知症が進行して記憶力が著しく低下すると、物をしまった場所が思い出せなくなり、部屋中をひっくり返してしまう
- 探し物が見つかるまでは不安でたまらないため、片付けられない
このような症状がある場合は注意が必要です。とくに、複数現れた場合は認知症の可能性が高いと言えます。認知症は本人自身が気づける場合もありますが、基本的には周囲の人が気づく方が早いです。そのため、何かおかしいなと思ったら注意して観察しておき、認知症の疑いが強いと思われた場合は早めに病院に相談しましょう。
認知症の予防対策は何歳から始めればいいの?
認知症を確実に予防できる方法はまだ確立されていませんが、最近の研究で、認知症になりにくくするための方法は少しずつわかってきています。方法としては大きく分けて2つあり、「認知症になりにくい生活習慣を身につける」ことと、「認知症で低下しやすい能力をトレーニングで鍛える」ことです。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
認知症になりにくい生活習慣を身につけよう
初めの段落でもご紹介したように、脳血管性認知症(若年性認知症の原因の1位、高齢者認知症の原因の第2位)は生活習慣病が原因になることが多いです。そこで、生活習慣病にならないような生活習慣を身につけることが、結果的に認知症も予防することにつながります。食生活・運動・睡眠の3つのポイントから見ていきましょう。
- 認知症予防のための食生活
- 抗酸化作用を持つビタミンC・Eや、βカロチンが多く含まれる野菜や果物、DHA・EPAを多く含む青魚、ポリフェノールを含む赤ワインなどを摂取する
- 栄養が偏らないよう、バランスの良い食生活を心がける
- 認知症予防のための運動習慣
- ウォーキングやジョギングなど、週3回以上の有酸素運動を行う
- 脳細胞の代謝のため、深呼吸や瞑想などで新鮮な酸素を豊富に取り入れる習慣を
- 認知症予防のための睡眠
- 毎日、十分な時間と質の睡眠を確保する
- 30分未満の昼寝を取り入れたり、起床後2時間以内に太陽の光を浴びる
食生活では、細胞の酸化ダメージを軽減できるよう、抗酸化作用のあるビタミンやポリフェノールなどを積極的に摂取しましょう。飲酒が好きでなかなかやめられず、これまでビールやチューハイが多かったという人は、まずお酒の種類をポリフェノールが多い赤ワインに切り替えるところから始めてみると良いでしょう。ただし、もちろん泥酔するほどの深酒は禁物です。
運動や身体的な習慣では、より新鮮な酸素を取り入れて細胞の代謝を活性化するために、ウォーキングやジョギングなどの適度な有酸素運動はもちろん、ときどき瞑想や深呼吸を行うのがおすすめです。瞑想も深呼吸も長くても1分程度でできますので、ぜひ日課にしていきましょう。
高齢者の認知症の過半数を占める「アルツハイマー型認知症」は、若年性認知症の原因でも2位と非常に多くを占めますが、原因となる物質の1つに「アミロイドβ」という脳の老廃物が挙げられています。脳がこうした老廃物を排出し、脳機能を正常に保つ働きをしているのは睡眠中ですから、質の良い睡眠を十分にとることが認知症予防の第一歩なのです。
認知能力をトレーニングしよう
認知能力のトレーニングとは、脳にさまざまな良い刺激を与えるということです。認知症予防用の専門的なトレーニングもたくさんありますし、書籍などでも出版されていますが、そこまで専門的なものでなくても、日々新しいことに興味を持ち、どんどん挑戦していくということで構いません。
脳は、刺激を受けることで高齢になっても神経細胞が活性化し、再び成長を始めることが知られています。ですから、高齢になってもできるだけたくさんの人と関わり、熱中できる趣味に打ち込んだり、新聞や本を読んだり、文章を書いたりすることが大切です。認知症予防のためのゲームなども多数考案されていますので、仲間同士で取り組みながらコミュニケーションをとっていくのも良いでしょう。
こうした予防対策は早ければ早いほど良いですが、前述のように脳は何歳からでも再び活性化します。ですから、年齢を重ねてから予防対策を取っても認知症の予防効果は期待できます。ぜひ、何歳からでも思い立ったときから認知症の予防対策をはじめましょう。
おわりに:認知症は65歳以上の発症が多いが、若年性認知症には注意が必要
認知症は、基本的には65歳以上の高齢者で発症することが多いのですが、若年性認知症の人数も無視できません。そのため、早めに認知症の予防対策を始めたり、年齢が若いからと油断しないことが大切です。
認知症予防には、生活習慣病予防と同じような食生活や運動習慣とともに、睡眠や脳のトレーニングを行うことが大切です。脳は何歳からでも活性化できますので、ぜひ思い立ったらすぐに認知症予防を始めましょう。
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