認知症は、記憶や判断能力、性格や精神状態に異常をきたす症状のことです。加齢によって自然に現れる症状の1つ、と思っている人も少なくありませんが、最近の研究によると、認知症にはその状態を引き起こす何らかの「原因疾患」があることがわかってきました。
では、認知症を引き起こす「原因疾患」にはどんなものがあるのでしょうか?原因疾患の種類と、認知症かもしれないと疑われる具体的な症状をご紹介します。
認知症を引き起こす原因疾患の種類とは?
認知症とは疾患名ではなく病態のことで、認識・記憶・判断能力などに何らかの障害を受け、社会生活や日常生活に支障をきたしている状態のことです。つまり、認知症という状態を引き起こす原因となる疾患は別に存在するのです。
認知症の原因疾患には、大きく分けて以下の3つの種類があります。
- 神経変性疾患
- 脳の神経細胞が徐々に死んでいく疾患
- 脳血管障害
- 脳の血管に何らかの異常を生じる疾患
- その他の疾患
- 外傷や感染症、内分泌疾患など
いわゆる「アルツハイマー病」は「神経変性疾患から起こる認知症」に含まれ、この「アルツハイマー病」を引き起こす「神経変性疾患」と「脳血管障害」が認知症の原因の大部分を占めています。それぞれの種類について、もう少し詳しく見ていきましょう。
神経変性疾患ってどんな病気?
上記でもご紹介したように、認知症を引き起こす神経変性疾患では「アルツハイマー病」が最も多い疾患です。その他「ピック病」「パーキンソン病」「ハンチントン病」「進行性核上性麻痺」「脊髄小脳変性症」「皮質基底核変性症」などがあります。神経変性疾患から起こる認知症は、さらに大きく以下の3つに分けられます。
- アルツハイマー型認知症
- 認知症の約半数を占め、患者数が最も多い。いわゆる「アルツハイマー病」のこと
- ほとんどが65歳以上の高齢者だが、それより若い人にもまれに起こる
- 脳内に「アミロイド」というタンパク質が増えることが原因
- 物忘れから発症し、見当識障害、判断力の低下、精神症状などが徐々に進行
- 完治はできないが、症状の進行を遅らせる薬剤がある
- レビー小体型認知症
- 3番目に多く、脳内に「レビー小体」という物質が出現する認知症
- 手足のふるえ、歩行障害、動作が鈍くなるなどのパーキンソン病に近い身体症状が特徴
- 幻視や立ちくらみ、失神、うつ病など、その他にも多彩な症状が出る
- 前頭側頭型認知症
- 前頭葉や側頭葉など、脳の前方の部分が変性・萎縮して起こる認知症
- 65歳未満の若年層に多く、アルツハイマー病の約3分の1程度
- 人格の変化や意欲の低下を生じる前頭葉症状と、言語障害などを生じる側頭葉症状
- 初期に記憶障害がない点がアルツハイマー病と大きく異なる
- それまで几帳面だった人がいきなりだらしなくなったり、奇妙な行動を繰り返すようになったり、と性格的な変化を感じることが多い
これら3つは主に、脳の組織そのものが何らかの障害を受けて認知症を発症するもので、最もイメージしやすい認知症です。認知症の代名詞のようによく知られており、実際に患者数も最も多い「アルツハイマー病」が含まれていることもイメージに一役買っていると言えるでしょう。
脳血管障害ってどんな病気?
脳血管障害とは、脳梗塞や脳出血など、脳内の血管が詰まる、あるいは破れる、などで脳の神経細胞に栄養や酸素が巡らなくなり、細胞そのものが破壊されてしまうことで起こる認知症です。認知症全体の中で2番目に多い疾患で、その病態から、認知症の症状もある日突然発症するのが特徴です。神経変性疾患の症状がじわじわと出てくるのに対し、大きな違いがあります。
また、認知症状だけでなく運動麻痺・しびれ・言語障害などの神経症状も伴います。脳血管障害の認知症の場合、認知症の治療だけでなく脳血管障害の治療も必要になることがあります。
その他にはどんな病気があるの?
その他には、「頭部外傷」「悪性腫瘍」「感染症」「代謝・栄養障害」「内分泌疾患」「中毒性疾患」「低酸素脳症」などがあります。順番に見ていきましょう。
「頭部外傷」は、脳挫傷や脳内出血、慢性硬膜下血腫などにつながります。脳挫傷や脳内出血は脳血管障害のほか、外傷の後遺症として認知症以外にも麻痺や言語障害などが残る可能性があります。慢性硬膜下血腫は頭蓋骨と脳の隙間に血が溜まるという病態で、頭部の打撲から1〜3ヶ月後に起こり、高齢者に非常に多い疾患です。認知症のほか、頭痛や歩行障害・運動麻痺などの症状が現れますが、CTで簡単に診断でき、手術を行えば完治も可能です。
「悪性腫瘍」は、いわゆる脳のがんのことです。がんの場所によってさまざまな神経症状や精神症状、内分泌症状が現れます。また、腫瘍系の疾患として脳に水(脳脊髄液)が溜まって脳を圧迫する「正常圧水頭症」という疾患もあります。65歳以上の高齢者で起こりますが、原因は不明で、認知症のほかに歩行障害や尿失禁などの症状が出ます。歩行はよちよちとしたぎこちない歩き方になり、進行すると立ち上がれなくなることもありますが、シャント手術という手術療法で完治します。
「感染症」では、髄膜炎、脳炎、脳膿瘍、進行麻痺、クロイツフェルト・ヤコブ病などがあります。脳炎や髄膜炎では、細菌やウイルスが脳や髄膜(脊髄を包んでいる組織)を破壊することでさまざまな症状が生まれ、認知症のほかに頭痛や発熱、意識障害が起こります。
「代謝・栄養障害」は、ウェルニッケ脳症、ベラグラ脳症、ビタミンB12欠乏症、肝性脳症、電解質異常、脱水などが挙げられます。ウェルニッケ脳症・ベラグラ脳症はそれぞれビタミンB1・B3の欠乏症で、肝性脳症は肝機能が低下することで起こる意識障害や精神症状です。いずれも栄養失調や代謝経路に何らかの障害があることで起こる認知症です。また、代謝障害の1つに低血糖性がありますが、これも後遺症として認知症が残ることがあります。
「内分泌疾患」は、「甲状腺機能低下症(または亢進症)」「副腎皮質機能低下症(亢進症)」が挙げられます。甲状腺や副腎皮質は体内の新陳代謝に関わるさまざまなホルモンを分泌する場所なので、ここに異常が起こると体にさまざまな症状が現れます。長く続くと認知症につながります。
「中毒性疾患」は、向精神薬やステロイドホルモン、抗がん剤、アルコールなどの中毒に加え、一酸化炭素中毒や金属中毒なども挙げられます。金属はアルミニウム・水銀・鉛で、特にアルミニウムは一時期「アルツハイマー病の原因ではないか」と言われていたこともあります。現在では、単独でアルツハイマー病の原因となることは否定されていますが、要因の1つとしては考えられるとして、研究が続けられています。
「低酸素脳症」は、脳外傷や心肺停止などによって脳に十分な酸素が行き渡らなくなることで、後遺症として脳の機能に障害が残ることがあり、これが認知症につながることもあります。そのほかにも全身のさまざまな疾患によって認知機能障害が引き起こされることがありますが、疾患そのものを治療することで治る場合もあります。
どんな変化をきっかけに病院へいけばいい?
認知症の人に多い症状は、以下のようなものです。
- もの忘れ
- 今言ったばかりのことを忘れる
- 同じことを何度も言ったり、聞いたりする
- しまい忘れ・置き忘れが増え、いつも探しものをしている
- 財布・通帳・衣類などを盗まれたのではないかと人を疑う
- 判断能力の衰え
- 料理や片付け、計算、運転などに明らかなミスが増えた
- 新しいことを覚えられない
- 話の辻褄が合わない
- テレビ番組の内容が理解できない
- 時間・空間把握能力の衰え
- 約束の日時や場所を間違えることが多くなった
- 慣れた道のはずなのに迷うことが増えた
- 性格の変化
- 怒りっぽくなった
- 気遣いがなくなり、頑固になった
- 自分の失敗を他人のせいにする
- 周囲の人から最近様子がおかしいと言われた
- 不安障害
- 1人を異常に怖がる、寂しがる
- 外出時、持ち物を何度も確認する
- 本人が「頭がおかしくなった」と訴える
- 意欲欠如
- 下着を替えないなど、明らかに身だしなみに関心がなくなる
- 趣味や好きなテレビ番組に関心がなくなる
- ふさぎこみ、何をするのも億劫がるようになる
これらは医学的な研究結果ではなく、認知症の「家族の会」の経験談によるものです。ですからあくまでも1つの目安ですが、これらの症状のうちいくつか当てはまるものがあったり、状態がひどいと感じることがあれば、専門医に相談してみましょう。
ただし、認知症と間違えられやすい症状があるので、注意が必要です。気分が落ち込み意欲が欠如する「うつ病(双極性障害)」や、意識障害である「せん妄」、または飲んでいる薬の影響で認知症と似たような症状が出ることがあります。これらの場合も本人や家族が判断することはできませんので、専門医に状況をよく話し、診断してもらうと良いでしょう。
おわりに:認知症の原因疾患の1位は「神経変性疾患」
認知症の原因疾患で最も多いのは「神経変性疾患」です。脳に「アミロイド」というタンパク質が増える「アルツハイマー性認知症」もここに含まれます。他にも、「脳血管性認知症」や「レビー小体型認知症」などが多く見られます。
そのほかにも認知症の原因疾患はさまざまで、中には疾患そのものを治療すると完治する場合もあります。認知症かもしれないと思ったら、まずは専門医に相談しましょう。
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