軽度認知障害(MCI)とは、認知症というほどではないけれど、認知症に近い状態のことで、近年になって徐々に注目を集めてきている症状です。認知症ではないため、日常生活に支障は出ていませんが、この状態で発見できれば認知症への進行を食い止めたり、健常の状態まで回復できる可能性もあります。そこで、MCIを治すためにはどんな方法があるのか、生活習慣と医師の指導の両面からご紹介します。
軽度認知障害と認知症って何が違うの?
軽度認知障害(MCI)とは、認知症の前段階のことで、記憶や言語などの認知機能が低下しているものの、日常生活には支障が出ていない程度の状態を指します。脳機能の低下がさらに進み、日常生活が困難な状態にまでなると認知症と診断されます。つまり、健常な状態と認知症のちょうど中間程度の状態がMCIと考えて問題ありません。
また、年齢相応程度に認知機能が低下しているというだけの場合はMCIとは診断されません。同年代の平均的な能力と比較して明らかに機能が低下している(もの忘れが酷い、判断能力が低下するなど)ということがあれば、MCIと診断されます。以下の4つのポイントに気をつけて認知機能をチェックしてみると良いでしょう。
- 失語
- 言語障害によって、言語を適切に理解したり表現したりできない
- 失認
- 感覚機能は損なわれていないのに、対象を認識したり同定したりできない
- 失行
- 運動機能は損なわれていないのに、動作を遂行できない
- 実行機能障害
- 計画を立てる、順序立てるなど、目的のために方法を組み立てたり、行動したりできない
もの忘れがなくても、これらの機能に1つ以上障害があり、同年代よりもその機能が明らかに低下していると思われれば、MCIの疑いが強いと言えます。
MCIは軽度の認知症と混同されやすいですが、自立して生活できる、つまり日常生活に支障をきたすほどではない、という点で認知症とは異なります。しかし、MCIのまま放置してしまい、さらに認知機能の低下が進むと、本格的な認知症へと進行します。MCIを発症した人のその後の経過を調査すると、1年で約10%以上の人が認知症へ進行するとされています。
MCI(とくにアルツハイマー型のMCI)を医学的・臨床的に定義すると、以下の4つがポイントとなります。
- 記憶障害の訴えが本人あるいは家族から出ている
- 客観的に判断し、1つ以上の認知機能の障害がある
- 日常生活における動作は正常である
- 認知症ではない
このような「軽度認知障害(MCI)」の段階であれば、1年以内に認知症に進行するのが約10%ということからもわかるように、適切な対処や処置、投薬などを行うことで認知症に進行するのを防ぎ、場合によっては健常の状態まで回復できる可能性もあります。ですから、早期発見・早期治療が大切なのです。
認知症への進行を防ぐための対策は?
軽度認知障害(MCI)と診断された場合、医師の指導のもと行う投薬やトレーニングのほか、生活習慣の改善によって進行を防ぐことができます。生活習慣の改善は診断前から始めて構いませんし、認知症だけでなく生活習慣病など、他の疾患の予防にもなります。ぜひ、以下のような生活習慣の改善を積極的に行いましょう。
- バランスのよい食生活
- 糖質の摂りすぎを防ぎ、タンパク質やビタミンなどの必要な栄養素を意識的に摂取する
- 規則正しい時間帯に、野菜や青魚を中心とした1日20〜30品目を摂取する
- アルツハイマー型認知症に予防効果が期待される「MIND食」などを実践する
- 食材・料理の鮮度を保てるよう、野菜や牛乳などの宅配や、弁当の配達サービスなどを利用するのも一つの方法
- 適度な運動
- のんびりと散歩をするなど無理のない運動で、運動をつかさどる脳の部位を刺激する
- 身体能力や生活習慣に合わせ、無理なく継続することが大切
- 心地よい疲労感やリフレッシュ効果など、認知機能の改善に効果的
- 生活習慣病予防や脳の血流改善に有効
- レクリエーションや趣味を持つ
- 楽器の演奏・歌・手芸・料理・パズル・クイズなど、手作業や脳を使う趣味がおすすめ
- 生きがいや仲間と一緒の活動で、楽しみながら脳を活性化できる
- 地域の仲間を作る
- 人とのコミュニケーションによって、とくに脳が活性化される
- 趣味のサークルや敬老会など、家の外に社交の場を作るのが効果的
- 口腔機能を改善する
- 義歯や歯周病など、口腔内に健康上の問題があれば改善しておくと良い
- 食事の際、ものを噛むという行為は消化・吸収のほか、脳の活性化にも関わる
- 嚥下機能の改善や誤嚥性肺炎など、嚥下機能に関わる疾患の予防にもなる
- 見栄えや発音など、コミュニケーション手段としても大切な役割がある
また、認知症に移行しなくても、万が一移行したときのために、認知症とは何か、そして利用できるサービスにはどのようなものがあるのかといった基礎知識を調べておくことも大切です。どこで暮らすのか、どのようにして生きるか、といったことを周囲の人に伝えたり、ノートなどに記録しておくと良いでしょう。
医師の指導のもと行うトレーニングには、運動トレーニングと認知機能トレーニングの2つがあります。それぞれ以下のようなトレーニングです。
- 運動トレーニング
- ウォーキング・ジョギング・水泳・ヨガ・エアロビクスなどの有酸素運動
- 注意力を高め、もの忘れ防止に効果的
- 軽く息が上がるくらいの状態を保ち、長期間継続することができるもの
- 認知機能トレーニング
- 頭を使うゲーム・学習ドリル・複数人グループでの回想法・楽器を使った演奏や合唱
- 前頭前野を刺激し、遊びながら脳の記憶力や集中力を鍛える
- 遊びの要素を保ちながら、認知機能に新たな刺激を与えるトレーニングも
有酸素運動がMCIに有効なことは、国内外の論文によって証明されています。また、2015年5月には、国立長寿医療研究センターによって、有酸素運動と認知トレーニングを合わせた「コグニサイズ」という運動療法が新たに発表され、注目を集めています。
「頭を使うゲーム」とは、具体的にはパズル・麻雀・オセロ・将棋などで、全体図を見渡したり、戦略を考えたり、次の手を予想したり、といった認知機能を刺激することができるゲームのことです。その点では学習ドリルなども効果的ですが、楽しく行えることが重要ですので、音楽演奏や合唱なども含め、楽しくできるトレーニングをその人に合わせて選ぶ必要があります。
また、まれに微量の抗認知症薬を使うこともありますが、医師の判断にもよりますので、MCIからの回復に必ずしも投薬治療が必要とは限りません。その人それぞれに合わせた指導を行うことが重要です。
おわりに:軽度認知障害(MCI)は生活習慣やトレーニングで改善できる
軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階と言われていますが、認知症とは異なり、日常生活には大きな支障が出ていない状態を指します。しかし、そのまま放置していると、1年以内に約10%以上の人が本格的に認知症を発症することがわかっています。
MCIからの回復には、生活習慣の改善やトレーニングが効果的です。とくに、生活習慣の改善は医師の診断を待たずにいつからでも始められますので、ぜひ早めに始めましょう。
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