認知症の症状の1つに、睡眠障害があります。眠れない、途中で起きてしまう、何度もトイレに起きてしまうなどのほか、日中眠っていて夜に起きてしまう昼夜逆転などの症状が見られます。
これらの睡眠トラブルが起こる原因には、どんなものがあるのでしょうか?そして、どのように対処したら良いのでしょうか。
認知症の人の昼夜逆転はなぜ起こるの?
認知症の人が昼夜逆転してしまう原因には、以下のようなことが考えられます。
- 体内時計の機能が低下する
- 覚醒と睡眠のリズムを作る「体内時計」の機能が加齢によって低下したため
- 体内時計には脳の視床下部・松果体などの部位、メラトニンというホルモン、自律神経などが影響しあっているため、認知症による脳機能低下の影響を受けやすい
- 多くの高齢者は、これが原因となる睡眠障害を抱えている
- 活動量が低下した
- 日中の活動量が低下したことにより、夜になっても眠れなくなる
- 日中の活動で体温が上がったり、午前中に自然光を浴びたりすることで体内時計を調節できていない
- 見当識障害
- 時間の見当をつけられず、午前4時と午後4時を混同してしまう
- 朝なのに夕食の準備をするなど、昼夜を取り違えた行動が増える
- 夜間のせん妄
- 眠気がなくても夜間には脳の機能が低下する
- すると、ちょっとした刺激に過剰反応して興奮したり、一時的に幻覚を見たりする
- 水分不足や1日の疲れなどでさらに脳機能が低下している場合は現れやすくなる
- 不安・恐怖など、負の感情の再体験
- 眠りに落ちるときや夢うつつで嫌な記憶が蘇ることは誰にでもあるが、認知症の人はそれを過去のことと認識できず、今まさに起きていることのように感じてしまう
- すぐに気持ちを切り替えられず、眠れなくなってしまう
- 痛みや不快感がある
- 認知症の場合、自分の体の状態を正確に把握して伝えることが苦手
- 便秘や腹痛などの不快感があっても、それを上手く伝えられず、不快感を取り除けない
- 不快感で眠れず、動き回ってしまう
- レム睡眠時行動障害
- 浅い眠り「レム睡眠」のとき、脳は目覚めている
- レム睡眠時に大声を上げる、突然飛び起きるなどの異常行動が起こる
- レビー小体型認知症ではとくに起こりやすい
昼夜逆転は、基本的に体内時計が狂ってしまうことが直接的な原因ですが、体内時計が狂ってしまう原因は脳の機能低下、日中の活動量の低下、見当識障害などが挙げられます。さらに、脳機能の低下による夜間せん妄・負の感情の再体験や、痛みなどの不快感を上手く伝えられない、レム睡眠時に行動障害が起こりやすい、なども原因として考えられます。
昼夜逆転や睡眠のトラブルへの対処方法は?
では、これらの昼夜逆転・睡眠トラブルの原因に対して、どのように対処して行けば良いのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
- 昼間に日光を浴びる
- 体内時計を整えるためには、午前中に日光を浴びるのが効果的
- とくに、朝に太陽の光を浴びると日中の意識をはっきりさせることにつながる
- 家の中では日光を浴びられないため、朝の散歩などを習慣化するとよい
- 就寝環境を整える
- 夜は明かりを落とし、眠りやすい環境を作る
- 認知症の人は暗いことが不安になってしまうこともあるため、本人の体調に合わせて
- 体を温めることもリラックス効果が高いため、就寝前に足浴などを行うのもよい
- 足浴が難しい場合、靴下を履いてもらったり湯たんぽを使うのも効果的
- 規則正しい生活サイクルで、活動量を増やす
- 日中の活動量を増やし、夜スムーズに寝られるようにする
- 1日のスケジュールを立てたり、デイサービスやデイケアを活用するのもよい
- 好きなことや趣味を取り入れた活動や、散歩などから取り組むと始めやすい
- 寝る前にトイレに連れていく
- 高齢になると、腎臓が尿を濃縮する機能が低下するため、トイレの回数が増える
- 眠りが浅く、尿意で目覚めてしまったり、夜間失禁が心配で眠れなくなることも多い
- 不安を解消するためにも、寝る前には必ずトイレに行く
- 普段使っていない方でも、夜間だけポータブルトイレの設置をしておくのもよい
- 不安感を解消する
- 認知症の人は環境に敏感で、さまざまな不安を抱えやすい
- 夜間の暗さ・中途覚醒や頻尿で寝ぼけるなど
- 不安な気持ちをよく聞き、原因を取り除けるよう説明をすることが大切
- 服薬中の薬を確認する
- 薬の作用によっては、睡眠のサイクルに影響することも
- 医師の処方指示を確認し、正しい時間やタイミングに飲むようにする
- 医師に相談する
- 上記のいずれも当てはまらない、または試したが改善しないという場合は医師に相談を
- 睡眠障害がひどい場合は、生活リズムを正常に戻すための入院という手段もある
- 投薬や工夫などにより、1〜2ヶ月程度で生活リズムが整うとされている
- 入院で整ったリズムは、退院後帰宅しても維持できることが多い
日中に太陽を浴びたり、散歩などで活動すると、体内時計が正常に調整できます。また、体を動かすと夜には適度に疲れ、ぐっすりと眠れることも多いです。部屋の環境としては、寝るときに照明は暗くしておく、湯たんぽなどの足先を温めるものを使う、ポータブルトイレを設置しておくなどの工夫も効果的です。ただし、これらの道具は本人の状態に応じて使いましょう。
もし、これらの工夫によっても昼夜逆転や睡眠トラブルが改善しない場合は、薬の作用を確認してみたり、医師に相談してみると良いでしょう。どうしても生活リズムが元に戻らない場合、入院によって1〜2ヶ月程度、強制的に正常な生活リズムに整えることで、その後退院しても生活リズムを整えられることがあります。
睡眠トラブルや昼夜逆転は、在宅で介護している家族の生活リズムも狂わせてしまうため、見過ごせない問題です。手に負えない場合は無理をせず、医療機関を頼ることも大切です。
おわりに:認知症の睡眠トラブルを防ぐには、規則正しい生活と日中の活動が大切
認知症の睡眠トラブルは、規則正しい生活リズムや体内時計が狂っていることが直接的な原因です。そこで、午前中に太陽を浴びる、日中に散歩などの体を動かす活動をする、など、まずは規則正しい生活を送ることが大切です。
このような工夫をしてもなかなか改善されず、介護者の負担が大きい場合は、医療機関を頼ることも視野に入れましょう。1〜2ヶ月程度の入院で、生活リズムをしっかり整えてもらうこともできます。
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