血管性認知症は、文字通り脳の血管に何らかの障害が起こり、脳機能が低下することで引き起こされる認知症です。高齢者認知症の原因の第1位はアルツハイマー型認知症ですが、第2位はこの血管性認知症です。
そこで、いつまでも健康で長生きするためにも、血管性認知症の危険因子と予防方法を知っておきましょう。
血管性認知症の原因としくみは?
血管性認知症とは、脳の血管に何らかの障害が起こることで引き起こされる認知症で、比較的若い世代に発症が多く、若年性認知症の原因の第1位(約40%)を占めます。若い世代で発症した場合は「高次脳機能障害」と診断されることもありますが、高次脳機能障害の場合は機能が回復する見込みが高いのに対し、血管性認知症の場合は回復が見られず徐々に機能低下が進行していくという違いがあります。
また、高齢者に多いアルツハイマー型認知症は女性の有病率が高い認知症ですが、血管性認知症は男性の有病率が高く、女性の約2倍と報告されています。
血管性認知症の原因って?
血管性認知症の原因は、脳の血管が傷害されることです。つまり、脳血管疾患と原因は同じで、例えば高血圧・糖尿病・高コレステロール血症などの生活習慣病が原因として挙げられます。他にも、喫煙・肥満・高ホモシステイン値・アテローム性動脈硬化・細動脈硬化なども血管性認知症の原因となりえます。
また、心房細動や脳塞栓のリスク因子になる病態も、血管性認知症を引き起こす可能性があります。さらには、アルツハイマー型認知症や軽度認知障害に併発して血管性認知症が発症することも多く報告されています。
血管性認知症はどんなしくみで起こるの?
そもそも、脳も細胞の1つですから、脳細胞が生存するためには栄養や酸素が必要です。この栄養や酸素を運ぶため、脳の中には血管が木の枝のように張り巡らされています。脳細胞は栄養や酸素の不足に非常に弱いため、血管が障害されて血液が流れなくなると、その部分より先に栄養や酸素がいかなくなるため、血液が流れなくなった部分の細胞から順に死滅していきます。
末端の血管が障害されただけであれば、死滅範囲が狭く済むこともありますが、枝分かれする前の幹の部分が障害された場合、その先の脳細胞がすべて死滅してしまいます。このように、範囲や部位は障害された血管の位置によってさまざまなため、血管性認知症は以下のように障害された位置や範囲によって分類されることもあります。
- 多発梗塞性認知症
- 血管障害が連続し、小さな梗塞が積み重なって少しずつ症状が現れる
- 皮質下血管性認知症
- 大脳深部白質の血流が乏しくなる
- 皮質および皮質下混合性血管性認知症
- 脳表面の「皮質」とさらに奥の部分の両方が障害されて起こる
脳の血管障害に対する治療法が進歩した現在では、脳血管疾患による死亡率も、血管性認知症も減っていますが、今でも認知症を発症した人の約25%以上は血管性認知症だと言われています。また、アルツハイマー型認知症との混合タイプも見られ、ごく小さな梗塞(微小脳梗塞と呼ばれる)が積み重なった結果、自覚なく血管性認知症を発症している場合もあります。
血管性認知症は予防できるって本当?
血管性認知症は、脳血管疾患と原因がほぼ同じと言われている通り、脳血管疾患を予防するのと同じ方法で発症リスクを下げられます。主に生活習慣病を予防する方法と同じで、適度な運動とバランスの良い食生活を中心に、健康的な生活習慣を身につけることが大切です。また、既に生活習慣病を発症している場合は、適切な治療を受けることで認知症の発症リスクを下げられます。
また、アルツハイマー型認知症も、血管性認知症と同じように生活習慣病予防によって発症リスクを下げられることがわかっています。アルツハイマー型認知症と血管性認知症は、高齢者の認知症の第1位と2位を占める病態ですから、生活習慣病を予防することで、認知症の発症原因の多くを同時に予防することができるのです。
認知症を予防できる生活習慣って?
具体的な生活習慣としては、以下の5つのポイントを意識すると良いでしょう。
- バランスの良い食生活
- 低糖質・低脂質・減塩を心がける
- さまざまな種類の食材をバランス良く取り入れる
- 低タンパク・低栄養に注意する
- 適度な運動をする
- 脳を含めた全身の血行を改善する効果がある
- ウォーキングやランニングのような有酸素運動を1日30分程度、週に3回程度行う
- 腰や関節を痛めないよう、最初は短時間や軽い運動から始めると良い
- 人と交流する
- 他人とコミュニケーションをすると、脳細胞が活性化する
- 運動や趣味を仲間と一緒に行うと良い
- 脳機能を使う趣味やトレーニングを行う
- クロスワード、パズル、計算、脳トレなど、頭を使うと脳細胞が活性化する
- 地図やガイドブックを使って知らない街を歩いたり、俳句や短歌を作るのも良い
- 認知症予防トレーニングの書籍などもあるので、活用してみるのもおすすめ
- 楽しんで続けられるようにする
- 認知症や生活習慣病予防は、継続が必須
- 数日や数週間で終わらないよう、楽しみながら無理せず続けていく
- モチベーション維持のため、成果を毎日記録するなども効果的
食生活では、動脈硬化につながる塩分や糖質・脂質を控え、タンパク質やビタミン・ミネラルをたっぷり摂るようにしましょう。例えば、脂質の少ない肉やDHA・EPAなどの抗酸化作用のある物質を含む青魚、ビタミンCやEを多く含む果物やナッツ類を意識して摂取します。とはいえ、単一の食材ばかりを摂りすぎるのも栄養バランスが偏りますので、バランスにも気をつけましょう。
また、運動をするのは肥満や動脈硬化を予防する上で重要ですが、体を動かすことそのものに脳細胞を活性化させる働きがありますので、その意味でも運動は大切です。例えば、腰や関節を痛めて運動や散歩ができなくなると、認知症を発症した後で急激に症状が進行する場合があります。こうした事例からも、運動の程度は適度にとどめ、無理はしないようにしましょう。
認知症を予防するための生活習慣としては、これらに加えて脳細胞を刺激するような習慣を持つと良いでしょう。ポイントは「他者と交流すること」「脳機能を使うこと」の2つです。上記で例として挙げたもののほか、趣味仲間と一緒に楽器演奏や将棋・オセロを行う、友人やパートナーと一緒に旅行や散歩をする、などもおすすめです。
そして、これらの生活習慣はいずれも継続しなくては効果がありません。しかし、生活習慣を継続することがストレスになってしまっては逆効果です。ですから、楽しくモチベーションを保てるよう、できるだけ自分の好きな趣味、好きなことから始めていきましょう。また、運動などがもともとあまり好きではなかったという人は、記録を残して達成感を味わうことで、モチベーションを保ちやすくなります。
おわりに:血管性認知症のリスクは生活習慣病予防で下げられる
血管性認知症の危険因子は、脳血管疾患と同じで、生活習慣病につながりやすい肥満・運動不足・高糖質や高脂質の食事などが挙げられます。ですから、生活習慣病予防のための習慣を身につけることで、血管性認知症を同時に防ぐことができます。
これらの健康的な生活習慣は、継続することで効果が期待できます。そのため、継続できるような工夫も大切です。健康的な習慣を続け、いつまでも元気で長生きしましょう。
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